荒ぶる獣たちは、荒野に愛を叫ぶ～捨てられたゴブリン少女は、獣人の王に溺愛されてます～

第２章 異界の悪魔

その２

　ミリアは、ため息をつく。
　なんなんだ？
　この胸の高鳴りは。
　それは、ミリアにとっては、初めての経験だった。
　今まで家族であれ、他人であれそんな風にミリアを暖めてくれるものはなかった。
　ミリアは、いつも一人だった。
　深い森の奥で息を潜めて眠るときも、両親の屋敷の自分に与えられた部屋のベッドで休むときもミリアは、一人だった。
　初めて感じる他人の体温は、ミリアにとって熱く、心が苦しくなるようなものだった。
　それと同時に心が暖まるもの。
　相反する思いにミリアは、混乱していた。
　「ミリア？」
　不意にローラに声をかけられてミリアは、びくっと体をこわばらせる。
　閉じていた目を開くとローラが覗き込んでいた。
　「どうしたんです？ミリア。全然集中できてないように思えますけど」
　「いや、あの」
　ミリアは、珍しく動揺を隠せない。
　ローラは、そんなミリアにくすっと笑う。
　「でも少し、安心しました。あなたのことだから魔法でも差をつけられてしまうかと思っていたんですけど、大丈夫そうでホッとしています」
　「なんだ？それ」
　ミリアは、ふん、と鼻を鳴らす。
　事実、ミリアは、魔法においてはそれほど優秀ではなかった。
　もともと治癒魔法が使えるルシィに比べるとミリアとローラは魔力を操ることがまだうまくできそうになかった。
　というか、ミリアは、ローラに比べても劣っていると思われた。
　身体強化の魔法は、普通の魔法とは異なり魔力を体外に放出することがない。
　その魔法になれているミリアにとっては、魔力をためることは理解できても魔力を体外に出すという感覚が難しいのだ。
　ルシィとローラが邪神に魔法を教わり始めてすぐに簡単な生活魔法を使えるようになったのにミリアは、なかなかそれすらもできない。
　ミリアにとっては、二人に劣ることは屈辱だ。
　魔物を殺したこともないような令嬢たちに劣るなんて。
　ミリアは、ぷぃっとそっぽを向くと再び目を閉じて自分の体内の魔力に集中した。
　体内を魔力が循環し、それを腹の中心に貯めることをイメージする。
　ミリアは、邪神が戻るまでそれを続けていた。