荒ぶる獣たちは、荒野に愛を叫ぶ~捨てられたゴブリン少女は、獣人の王に溺愛されてます~

トモモト ヨシユキ

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第1章 獣は、抗う。

その13

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 「ニモネは、私の魔力の塊である鱗と引き換えに私に布を織ってくれる」
 そう説明する邪神にミリアは、訊ねた。
 「あなたは、なぜ、そんなボロボロの衣をまとっているんだ?」
 「私は・・」
 邪神が苦い笑みを浮かべるのをミリアは、ぼんやりと見つめていた。
 「あの人が死んでから、私は、人であることを辞めていたからな」
 ミリアは、眉をひそめる。
 あの人?
 ミリアがあの人について質問しようとした時、邪神は、話をはぐらかすように蜘蛛たちが集まっている方を指差した。
 「できたようだ」
 額を寄せるようにして集まっていた蜘蛛たちが一斉に周囲に散っていく。
 地面には、三着の服が残されていた。
 それは、チュニックと幼い男の子が身に付けるようなズボンだった。
 ローラの物は、深紅の上着に黒いズボン。
 ルシィのは、淡いピンク色。
 そして、ミリアのものは白地に緑の縁取りがあった。
 「この蜘蛛たちは、なかなかの仕立て屋でね」
 邪神は、それぞれの衣装を手にしている少女たちを見てちょっと誇らしげな様子だ。
 「料金も良心的だ」
 「あなたの鱗を与えていたようだが」
 ミリアが問うと邪神が自分の近くの空間へと手を伸ばしそこから皮袋を取り出した。
 ローラが声をあげた。
 「空間収納?」
 「そうだ」
 邪神は頷くと皮袋の中から青いクリスタルのような己の鱗を一枚取り出した。
 「こういった役に立つ魔物との取引に、これは有用だ」
 邪神が言うには、彼の鱗は己の魔力の結晶なのだという。
 「この異界の魔物たちにとっては私の魔力は、最高のごちそうなんだ」
 「ということは」
 ミリアが口を開く。
 「我々も、か?」
 ミリアにきかれて邪神が口許を歪ませる。
 「そうだな。お前たちの魔力もなかなか異界の住人たちにとってはご馳走といえるだろうな」
 「でも、私は、ルシィやミリアと違ってほとんど魔力を持ちませんが」
 ローラが新しい服を胸元に抱き締めて邪神を見上げた。
 ミリアも憮然とした表情を浮かべる。 
 「私も身体強化の魔法ぐらいしか使えない。魔力量だって凡人なみだ」
 
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