荒ぶる獣たちは、荒野に愛を叫ぶ~捨てられたゴブリン少女は、獣人の王に溺愛されてます~

トモモト ヨシユキ

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第1章 獣は、抗う。

その7

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 ミリアは、死にかけた邪神を前にして考えていた。
 邪神を生かして己も生き延びるべきか。
 それとも邪神を殺すべきなのか。
 「あの・・」
 ミリアの背後から声がきこえた。
 ミリアが振り向くと赤毛の少女が挙手していた。
 「なんだ?」
 ミリアが問うと少女は答えた。
 「その人の言う通りだと思います」
 赤毛の少女がミリアを見上げる。
 「ここは異界です。何が起こるかわかりません。その・・邪神、さん?がいればいろいろ役にたつのでは?」
 ミリアは、もう一人の少女を見た。
 「あなたは、どう思う?」
 「はいっ?」
 地面に這いつくばって涙に濡れた顔をあげたもう一人の少女は、目を大きく見開いてミリアのことをじっと凝視した。
 ミリアも黙ったまま少女を見つめた。
 その金髪に深い緑の瞳をした少女は、呆けたようにミリアを見ていたがやがてこくりと頷いた。
 「決まりだな」
 ミリアは、剣を鞘に納めた。
 
 「大丈夫でしょうか?」
 赤毛の少女、名前をローラと名乗った彼女は、ミリアと共に邪神から少し離れたところで岩影に腰かけると訊ねた。
 「心配ないさ」
 ミリアは、辺りに落ちていた枯れ草で女神の剣を拭いながら答える。
 不思議だ。
 ミリアは、剣を見つめて思っていた。
 この刃のない剣は、確かに邪神を斬ったのだ。
 光の神ラウリアの祝福を受けた剣。
 ミリアは、つぅっと剣を指先でつたった。
 やはり刃は潰されている。
 「あなた、なぜ、あの人を斬ろうとしたの?」
 ローラは、ミリアを覗き込む。
 その大きな緑の瞳が好奇心を隠せない様子でミリアのことを見つめていた。
 ミリアは、不可解な生き物を見るように眉をしかめた。
 「なぜって。生きるために決まっている」
 「すごいわね、あなた」
 ローラは、無邪気に感心したようにミリアを見た。
 「あの状況で邪神を殺そうなんて。普通、考えないわ」
 「私は、冒険者だから」
 ミリアは、もう一人の少女に治療を受けている邪神の方を見やった。
 崩れた遺跡のような場所に残っている柱のようなものにもたれ掛かっている邪神の傍らに膝をついて少女は、邪神の腹部に手をかざしている。
 
 
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