荒ぶる獣たちは、荒野に愛を叫ぶ～捨てられたゴブリン少女は、獣人の王に溺愛されてます～

序章 荒ぶる獣たちは、まだ愛を知らない。

その２

　ミリア・ウィリアムは、醜い少女だった。
　黒髪に黒い瞳。
　青く見えるほどに白い肌。
　娘としては大きすぎる背丈。
　両親は、ミリアを誰かにみられることを恥と思って隠すようにして彼女を育ててきた。
　十代になるまで王都スレイバーンから遠く離れた領地で両親の顔をみることもなく使用人たちの手で育てられた。
　とはいえ野卑な人々の中でほぼ放置されて育てられたのだ。
　本来なら伯爵家の令嬢に相応しい教育を受けるべきだったがそんなものミリアに与えられることはなかった。
　その上、使用人たちの誰もが醜い少女を嫌い関わりを持とうとはしなかった。
　ミリアを教育したのは、狩猟係の男だった。
　彼だけは、ミリアの価値を知っていた。
　ミリアは、５歳の誕生日に神託により狩りの神の守護を得ていた。
　男は、ミリアに魔物を狩ることを教えた。
　そしてミリアは、生まれながらの狩人だった。
　10歳のときには、すでにソロで鹿の魔物を仕留められるほどになっていた。
　ミリアの異能に気づいた両親は、忌み嫌っていた娘が12歳になる頃、王都にある屋敷へと呼び寄せた。
　しかし、ぼさぼさの黒髪にギラギラした目をしたミリアに恐れをなした。
　ミリアが全く令嬢としての教育を受けてないことを知ると両親は、憤慨した。
　ミリアからしたら何を言っているのか、理解できなかったのだが。
　与えられなかったものを得ていないからと言ってなぜ、自分が攻められなくてはいけない？
　両親は、ミリアを年を誤魔化して王都の冒険者ギルドに登録させる。
　本来なら冒険者ギルドには、17歳からでないと登録ができない。
　だが、ミリアは、12歳のときから冒険者になった。
　父である男は、ミリアに冷ややかに告げた。
　「お前は、醜いのだから結婚など望めぬ。せめて、家のために魔物を狩って金を稼ぐように」
　こうしてミリアは、伯爵令嬢でありながら冒険者として魔物を狩るという生活を送ることになった。
　冒険者ミリア・ウィリアムの名前は、あっという間に王都で知られるようになる。
　ミリアは、15歳ですでにS級の冒険者として名を馳せていた。