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第5章 社交界の陰謀その2

5ー14 聖樹の神子

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 5ー14 聖樹の神子

 砦を破壊しドラグーン騎兵隊の面々を解放してから数日後。
 朝、俺が珍しく惰眠をむさぼっているとチヒロが飛び込んできた。
 「起きて!ロイド」
 チヒロに起こされて俺は、寝ぼけた頭でぼんやりと思っていた。
 これは、夢かも。
 なぜならここは、地上からかなり離れた上空にあるエルフの樹上の小屋だ。
 チヒロではここまで上ってくることは不可能だ。
 夢なら。
 俺は、チヒロを引き寄せるとベッドに押し倒した。
 夢なら何をしてもいいよな?
 俺がチヒロの白い首筋を舌先でペロリと嘗めると、チヒロがくすぐったそうに身をよじった。
 「ロ、ロイド!冗談は、やめて!」
 「冗談なもんか」
 俺は、チヒロを押さえつけたまま着ていた夜着を脱いだ。
 「いただきます」
 俺の後頭部に殴られたような衝撃が走った。
 振り向くと怒りの形相を浮かべたリータが立っていた。
 「ほんとに油断も隙もないね!チヒロを離しな!」
 「いや、これは、その、夢かと思って、つい・・・」
 はい?
 夢じゃないのか?
 俺は、口の中でぶつぶつと呟きながらチヒロから体を離した。
 「まったく!」
 リータは、チヒロの手を引き俺の側から引き離した。
 なんだ?
 まるで、俺だけが悪いみたいじゃないか。
 「そっちが寝込みを襲ったのがわるいんだろうが!」
 「だからって、襲っていいわけがないだろう?」
 チヒロの方をうかがうとリータの影から俺の方をうかがっている。
 俺は、ため息をついた。
 「で?なんの用だったんだ?」
 「そうだ!」
 チヒロが声をあげた。
 「ロイド、すぐに来て!」
 俺は、チヒロにいわれるままに樹上の小屋からチヒロを抱いて飛び立った。
 すぐ後ろをリータもついてくる。
 俺は、チヒロの指す方へと飛んだ。
 それは、エルフの守る聖樹の方向だった。
 「僕、ロイドの役に立てたらと思って最近、エルフのみんなから聖樹のこときいてたんだ。それで、毎朝、聖樹を見に行ってたら今朝」
 チヒロが興奮を隠せない様子で俺の腕の中で話した。
 俺たちが聖樹の下へとつくとそこにはエルフたちが集まっていた。
 俺は、そっとチヒロを地面へと下ろすとトランスの方へと歩み寄っていった。
 「なんの騒ぎだ?」
 「ロイド殿」
 トランスが興奮した様子で俺に告げた。
 「あれを!」
 トランスの指差す方を見るとそこには大きな赤い実がなっていた。
 「聖樹の実?」
 「そうです!」
 トランスが俺を見た。
 「あれが、聖樹の実です」
 なんでもエルフでも聖樹の実を目にすることは滅多にないらしい。
 長寿の種族とはいえ、さすがに数千年に一度しかならない聖樹の実を目にすることはあまりないんだとか。
 だが、トランスいわく、これは、間違いなく聖樹の実なのらしい。
 「言い伝えにきくものと同じです」
 トランスの話では、聖樹の実は、その神子である者が毎日気を注ぐことによって実るという。
 その実は、赤くかぐわしい香りがするらしい。
 しかし。
 「聖樹の神子だって?」
 俺は、そっと聖樹の幹に触れた。
 
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