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第5章 社交界の陰謀その2
5ー1 愛人
しおりを挟む5ー1 愛人
俺は、チヒロの後を追っていった。
チヒロは、クリスタを抱えたまま走っていたが結構足が速くて俺は、懸命に追いかけた。
チヒロは、宿を出てそのままダンジョンの方向へと走り続ける。
俺は、人混みの中をよけながら走った。
「チヒロ!」
俺は、やっと追い付いてチヒロの手をつかんだ。
チヒロは、俺の手を振り払おうとしたが俺は、決して手を離そうとはしなかった。
「離して!」
「待ってくれ!話をきいてくれ、チヒロ!」
俺は、チヒロをそばにあった建物の壁へと押し付けて逃げられないように両手で囲った。
チヒロは、俺を上目使いに睨んでいた。
「なんだよ!僕なんかより、婚約者さんたちのとこに行けよ!」
「違うんだ!チヒロ」
俺は、チヒロの方を壁へと押し付けて言葉を探していた。
どう説明すればいい?
この世界は、俺がもといた世界に比べれば同性婚も認められているし、どちらかといえば進められている風潮すらあった。
特に金持ちの大商人やら、貴族やらは、子供のできない同性を愛人にすることがある種のステイタスになっていた。
だけど、それは、あくまでも愛人だ。
正妻は、別だ。
子孫を残さなくてはいけない家の当主などは、必ず正妻を持たなくてはならない。
そして、それが社会的信頼にも繋がっていた。
どんな集まりにもたいていは正妻がつきそうものだし、跡取りがいるということは、重要なことだった。
例え、俺がどう考えていたとしてもこのことは変えられない。
魔物が跋扈するこの世界においては血統が続くということは、なによりも大切な約束だった。
俺がどんなにチヒロを愛していてもチヒロを正妻として認めさせることは難しい。
それに。
チヒロは、未来の王になる者だ。
俺が愛人なんかにしていい存在じゃない。
俺が触れてもいい存在なんかじゃない。
「チヒロ、俺は」
「僕のこと愛してるっていったくせに!」
チヒロがうつむく。
「キス、したくせに!」
「あ、あれは」
俺が焦っているとチヒロが顔をあげた。
その青い瞳は涙に濡れていた。
「嘘だったの?それとも、もう僕のこと嫌いになったの?」
「違う!違うんだ、チヒロ」
俺は、チヒロの言葉を消したくてぐっとチヒロの唇に唇を重ねた。
チヒロがどん、と俺の胸を突いて身を離そうとするが、俺は、かまわずチヒロを抱き寄せその耳元で囁いた。
「愛している。この世界の何者よりもお前のことを愛している。だけど、お前を俺の妻にすることはできないんだ」
「なんで?」
チヒロが涙に潤んだ瞳で俺を見つめた。
「僕、愛人でもほんとは、いい。ただ、ずっとロイドの側にいられれば、それでいい」
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