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第4章 社交界の陰謀
4ー5 記憶
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4ー5 記憶
俺は、久々に何でも屋のクルスと連絡をとった。
奈落の俺の屋敷に呼ばれたクルスは、いつものようににやにや笑いを浮かべていた。
「噂にはきいてるが、えらい出世だな、ロイド」
俺は、クルスに腕のいい鍛冶屋と魔道具師を紹介してほしいと頼んだ。
クルスは、俺の頼みを快く引き受けると思い出したように訊ねた。
「チヒロは、元気か?」
俺は、ぐっと言葉に詰まってクルスを睨んだ。
チヒロには、クルスと会うことは言ってなかった。
チヒロは、今日も神都ライヒバーンの『ヒポクラティス』治療院で働いている筈だ。
なぜ、チヒロにクルスのことを黙っていたのか。
きっと、チヒロもクルスに会いたがっていることだろう。
だけど、俺は、チヒロをクルスに会わせたくなかった。
それは、俺の私情だ。
前からなぜかチヒロは、クルスになついていた。
きっと、前にいた奴隷商人のもとからクルスに救い出されたことでチヒロの中では、クルスは、救世主のように思われているんだろう。
でも、それは、間違いだ。
クルスは、アルアロイに命じられてチヒロを手に入れただけだし、それからのチヒロの扱いだって酷いものだった。
それでもチヒロがクルスを慕うのは変わらない。
盲目的なチヒロのクルスへの態度をみているとなんか俺は、胸がモヤモヤしてくるのだ。
もっと俺をみて欲しい。
クルスなんかより俺の方がずっとチヒロの騎士に相応しい。
クルスは、俺からの依頼を引き受けると去っていった。
クルスを呼んだのは俺だが、奴が去ると俺は、ほっとしていた。
その日の夕方には、用事をすませて神都ライヒバーンの屋敷へと戻った。
チヒロは、待ってくれていた。
治療院で働いた後、部屋で湯を使ったのだろう。
少しまだ髪が濡れていた。
俺は、リータにいってタオルを用意させるとチヒロを膝に座らせて髪を拭いてやった。
チヒロは、頬をピンクに染めながらも俺にされるままになっている。
髪を拭き終わった頃、チヒロが俺に訊ねた。
「今日、奈落に戻ってたんだろ?」
「ああ」
俺は、もう、チヒロを奈落に戻すつもりはなかった。
それでもチヒロは、俺に何かききたそうな顔をして俺をうかがっていた。
「なんだ?」
俺は、訊ねた。
チヒロは、ぷぃっと顔を背ける。
「なんでも、ない」
俺には、わかっていた。
クルスのことだ。
チヒロは、賢いから俺がクルスと会っていたことをさとっている。
それでも俺にそうかときけないのは、チヒロがまだ俺を怖がっているからかもしれない。
そして。
チヒロは、理解している。
俺がチヒロをクルスに会わせたくないと思っていることを。
「元気そうだったよ」
俺は、チヒロに囁いた。
チヒロがびくんと体をこわばらせるのがわかった。
俺は、背後から膝の上に座っているチヒロを抱き締めた。
なんで。
俺は、思っていた。
チヒロからクルスの記憶を奪いたい。
チヒロの記憶の中にいるのは、俺だけでいい。
俺は、久々に何でも屋のクルスと連絡をとった。
奈落の俺の屋敷に呼ばれたクルスは、いつものようににやにや笑いを浮かべていた。
「噂にはきいてるが、えらい出世だな、ロイド」
俺は、クルスに腕のいい鍛冶屋と魔道具師を紹介してほしいと頼んだ。
クルスは、俺の頼みを快く引き受けると思い出したように訊ねた。
「チヒロは、元気か?」
俺は、ぐっと言葉に詰まってクルスを睨んだ。
チヒロには、クルスと会うことは言ってなかった。
チヒロは、今日も神都ライヒバーンの『ヒポクラティス』治療院で働いている筈だ。
なぜ、チヒロにクルスのことを黙っていたのか。
きっと、チヒロもクルスに会いたがっていることだろう。
だけど、俺は、チヒロをクルスに会わせたくなかった。
それは、俺の私情だ。
前からなぜかチヒロは、クルスになついていた。
きっと、前にいた奴隷商人のもとからクルスに救い出されたことでチヒロの中では、クルスは、救世主のように思われているんだろう。
でも、それは、間違いだ。
クルスは、アルアロイに命じられてチヒロを手に入れただけだし、それからのチヒロの扱いだって酷いものだった。
それでもチヒロがクルスを慕うのは変わらない。
盲目的なチヒロのクルスへの態度をみているとなんか俺は、胸がモヤモヤしてくるのだ。
もっと俺をみて欲しい。
クルスなんかより俺の方がずっとチヒロの騎士に相応しい。
クルスは、俺からの依頼を引き受けると去っていった。
クルスを呼んだのは俺だが、奴が去ると俺は、ほっとしていた。
その日の夕方には、用事をすませて神都ライヒバーンの屋敷へと戻った。
チヒロは、待ってくれていた。
治療院で働いた後、部屋で湯を使ったのだろう。
少しまだ髪が濡れていた。
俺は、リータにいってタオルを用意させるとチヒロを膝に座らせて髪を拭いてやった。
チヒロは、頬をピンクに染めながらも俺にされるままになっている。
髪を拭き終わった頃、チヒロが俺に訊ねた。
「今日、奈落に戻ってたんだろ?」
「ああ」
俺は、もう、チヒロを奈落に戻すつもりはなかった。
それでもチヒロは、俺に何かききたそうな顔をして俺をうかがっていた。
「なんだ?」
俺は、訊ねた。
チヒロは、ぷぃっと顔を背ける。
「なんでも、ない」
俺には、わかっていた。
クルスのことだ。
チヒロは、賢いから俺がクルスと会っていたことをさとっている。
それでも俺にそうかときけないのは、チヒロがまだ俺を怖がっているからかもしれない。
そして。
チヒロは、理解している。
俺がチヒロをクルスに会わせたくないと思っていることを。
「元気そうだったよ」
俺は、チヒロに囁いた。
チヒロがびくんと体をこわばらせるのがわかった。
俺は、背後から膝の上に座っているチヒロを抱き締めた。
なんで。
俺は、思っていた。
チヒロからクルスの記憶を奪いたい。
チヒロの記憶の中にいるのは、俺だけでいい。
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