上 下
55 / 85
第4章 社交界の陰謀

4ー4 カウンセラー

しおりを挟む
 4ー4 カウンセラー

 俺が龍人になることで得た力と前世での医療の知識を使った『ヒポクラティス』治療院は、この世界では始めての本格的な病院となった。
 徐々に神都ライヒバーンの別名のように語られるようになった『ヒポクラティス』治療院で診療を受けるために多くの人々が世界中から訪れるようになった。
 チヒロは、魔法が使えないがウルマグライン魔法学園に通いながら放課後には俺の治療院の手伝いをしてくれた。
 といっても魔法の使えないチヒロにできることは限られている。
 チヒロは、文句も言わずに汚れたシーツや包帯を洗い、病室を掃除してくれた。
 病気で不安な人々の目には、チヒロは、天使のように見えたのだろう。
 チヒロは、いつしかこの治療院のナイチンゲールのような存在になっていた。
 下界でもこの『ヒポクラティス』治療院を無視できなくなっていた。
 病に苦しむ王侯貴族だけではなく貧しい平民たちにとってもこの治療院は、希望の光を投げ掛けていた。
 だが、この神都ライヒバーンまで訪れることができる者は、限られていた。
 俺は、なんとか下界にも治療院を作りたいと思っていたのだが、それは、なかなか難しく思われた。
 やはり問題は、教会だった。
 今までは、病や怪我の治療は神の領域とされていた。
 それを俺たちの商会が行うことを彼らはよく思わなかった。
 「とてもいいことなのに」
 チヒロが俺の執務室で疲れた俺の肩を揉みながらこぼした。
 チヒロは、俺の体を気遣って時々、こうしてマッサージをしたりしてくれるのだ。
 チヒロには、魔法は使えない。
 だから、チヒロに触れられても決して癒されることはない。
 だけど、俺は、チヒロにマッサージされるとすごく体調がよくなるのを感じた。
 これは、心理的なものかもしれないが、確かに、効いている。
 何より、チヒロと話していると心がほんわかして軽くなる。
 もしかしたらチヒロは、この世界初のカウンセラーなのかもしれない。
 「いいことでもこの世界から受け入れられないなら仕方ないさ」
 俺がそう話すとチヒロは、小さなため息を漏らした。
 「僕が王様なら、きっと治療院を地上にも作りたいと思う筈だけどな」
 俺は、地上にも治療院を作りたかったがそれは、なかなか話が進まなかった。
 所詮、どこの国の王族も教会と強く結ばれている。
 俺たちの治療院を受け入れてくれる国は、どこにもなかった。
 「この神都みたいに天空に治療院を作れたらいいのに」
 チヒロの言葉に俺は、はっとした。
 「そうだな」
 天空に造る?
 俺は、思わずチヒロを抱き締めていた。
 「ありがとう、チヒロ」
 「ええっ?」
 戸惑っているチヒロをぎゅうぎゅう抱いて俺は、叫んだ。
 「そうなんだ、その手があったんだ!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】イケメン騎士が僕に救いを求めてきたので呪いをかけてあげました

及川奈津生
BL
気づいたら十四世紀のフランスに居た。百年戦争の真っ只中、どうやら僕は密偵と疑われているらしい。そんなわけない!と誤解をとこうと思ったら、僕を尋問する騎士が現代にいるはずの恋人にそっくりだった。全3話。 ※pome村さんがXで投稿された「#イラストを投げたら文字書きさんが引用rtでssを勝手に添えてくれる」向けに書いたものです。元イラストを表紙に設定しています。投稿元はこちら→https://x.com/pomemura_/status/1792159557269303476?t=pgeU3dApwW0DEeHzsGiHRg&s=19

【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい

おだししょうゆ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。 生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。 地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。 転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。 ※含まれる要素 異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛 ※小説家になろうに重複投稿しています

【完結】白い森の奥深く

N2O
BL
命を助けられた男と、本当の姿を隠した少年の恋の話。 本編/番外編完結しました。 さらりと読めます。 表紙絵 ⇨ 其間 様 X(@sonoma_59)

Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜

天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。 彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。 しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。 幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。 運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

猫が崇拝される人間の世界で猫獣人の俺って…

えの
BL
森の中に住む猫獣人ミルル。朝起きると知らない森の中に変わっていた。はて?でも気にしない!!のほほんと過ごしていると1人の少年に出会い…。中途半端かもしれませんが一応完結です。妊娠という言葉が出てきますが、妊娠はしません。

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

【完結・BL】DT騎士団員は、騎士団長様に告白したい!【騎士団員×騎士団長】

彩華
BL
とある平和な国。「ある日」を境に、この国を守る騎士団へ入団することを夢見ていたトーマは、無事にその夢を叶えた。それもこれも、あの日の初恋。騎士団長・アランに一目惚れしたため。年若いトーマの恋心は、日々募っていくばかり。自身の気持ちを、アランに伝えるべきか? そんな悶々とする騎士団員の話。 「好きだって言えるなら、言いたい。いや、でもやっぱ、言わなくても良いな……。ああ゛―!でも、アラン様が好きだって言いてぇよー!!」

俺のまったり生活はどこへ?

グランラババー
BL
   異世界に転生したリューイは、前世での死因を鑑みて、今世は若いうちだけ頑張って仕事をして、不労所得獲得を目指し、20代後半からはのんびり、まったり生活することにする。  しかし、次代の王となる第一王子に気に入られたり、伝説のドラゴンを倒したりと、今世も仕事からは逃れられそうにない。    さて、リューイは無事に不労所得獲得と、のんびり、まったり生活を実現できるのか? 「俺と第一王子との婚約なんて聞いてない!!」   BLではありますが、軽い恋愛要素があるぐらいで、R18には至りません。  以前は別の名前で投稿してたのですが、小説の内容がどうしても題名に沿わなくなってしまったため、題名を変更しました。    題名変更に伴い、小説の内容を少しずつ変更していきます。  小説の修正が終わりましたら、新章を投稿していきたいと思っています。

処理中です...