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第3章 神都の覇者

3ー13 神

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 3ー13 神

 そこは、光のない場所だった。
 俺は、真っ暗な中に浮かんでいた。
 徐々に魔法の力が戻ってくるのを俺は、感じた。
 チヒロは、やっぱりすごいな。
 俺は、チヒロを思って口許をほころばせた。
 これだけの魔法を無効化することができるのは、世界でチヒロだけだ。
 魔力が満ちていくにしたがって光が戻ってくる。
 闇は、光に駆逐される。
 光の中、俺の身にまとっていたものが全て分解されて塵になっていく。
 それと同時にどこからか延びてきた光の触手が俺の体をとらえて俺は、身動きができなくなっていくのを感じた。
 光の中、俺の体も、魂も、分解されて消えていくのがわかった。
 俺は。
 死ぬのか?
 俺は、なぜか、とても穏やかな気持ちだった。
 俺は、小さな光の粒にまで分解されていきながらもチヒロのことを思っていた。
 このまま、俺は、永遠にここからチヒロを見守っていける。
 この神都ライヒバーンの一部となりながら俺は、自分自身がどんどん拡大されていくのを感じていた。
 俺の体は、小さな塵芥へと変じていきそれは、神都ライヒバーンという器全体へと、そして、ついには、神都ライヒバーンを越えて宇宙空間へと拡がっていく。
 俺は、拡がっていきながらも消滅することなく意識を繋いでいた。
 やがて、もといた地球のような星までも俺の中へ取り込まれていった。
 俺は、この世界そのものとなっていく。
 宇宙の果ては、あるのだろうか?
 俺は、ふと考えていた。
 俺は、どこまで拡大していくのか?
 そのとき、不意に何かが俺の魂を遮った。
 それは、冷たい壁のように俺には感じられた。
 『ここまでたどり着くものがいようとは』
 その何かは、俺の意識へと語りかけた。
 『それがどういうことか、理解できるかね?』
 俺は、魂でその何かへと触れた。
 混ざっていく。
 流れ込んでくる。
 それは、悠久そのもの。
 時間の流れそのものだった。
 過去も現在も未来も、全てがその中に存在していた。
 膨大な情報の海で俺は、溺れた。
 苦しみも、悲しみも。
 憎しみも、愛も。
 全てが肯定されていく。
 俺の魂は、補完され、俺は、満たされていく。
 俺は、自分が神の一部になっていくことを知った。
 不思議な気持ちに満たされていた。
 穏やかな、暖かな気持ち。
 俺は、今度こそ消えていくのだ。
 『消えるのではない』
 その何かが俺に語りかけた。
 『お前は、全てになるのだから』
 俺は、安寧の海を漂いながら神の愛に満たされていた。
 もう、何も思うこともない。
 俺は、神となり、この世界の一部になっていくのだ。
 そのとき。
 俺の魂の一部がつきん、と痛んだ。
 それは、小さな痛み。
 微かなトゲ。
 その痛みに俺は、触れた。
 それは、仄かな温もり。
 どんなに俺が細かく砕かれようとも消えない何か。
 『なんと』
 それは、驚きの声を漏らした。
 『まだ、執着を残しているのか?』
 執着?
 俺は、その小さなトゲに触れた。
 それは、一人のちいさな少年の姿をしていて。
 ああ。
 俺は、心が暖かくなるのを感じていた。
 そこにいるんだな、お前は。
 俺は、神の中から分離されていく。
 俺の魂が再び、俺という形に戻っていこうとするのがわかった。
 『なぜ?』
 それは、問いかけた。
 『お前は、生きながらここへとたどり着いた。それほどの存在でありながら、なぜ、戻ろうとする?』
 
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