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第3章 神都の覇者
3ー12 決行
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3ー12 決行
「そんなわけが!」
俺は、苦笑いした。
すべてを失った俺。
家も、財産も、何もかもを義兄に奪われた。
元婚約者のロウランすらも奪われて。
一人だった。
ずっと、孤独だった。
俺は。
生き残ることに必死で、誰かを愛することなんて二度とないと思っていた。
なのに。
俺は。
俺は、胸の中にとどめていた何かが溢れそうになるのを懸命にこらえていた。
あの小さなチヒロが、俺を狂わせる。
俺は、認めたくなかった。
それでも。
俺は、あの子供のことを愛していた。
自分の憎しみを、復讐を諦めるほどに俺は、チヒロのことを思っていた。
俺は、机に顔を伏せて呻いた。
知らなければよかった。
気づかなければ。
この思いに気づかなければよかった。
俺は、チヒロの騎士だ。
あの子を守らなくてはいけない。
どんなものからも、チヒロを守りたい。
あの子の幸いだけが俺の心を癒してくれる。
だから。
俺は、笑顔で生け贄になれるんだ。
「リータ、このこと、チヒロは?」
俺は、リータに訊ねた。
リータは、答えた。
「チヒロは、知らないだろうね」
リータは、にやりと笑う。
「あの子は、ね。自分の気持ちさえ知らないのさ」
「どういうことだ?」
俺の質問にリータは、答えた。
「あんたたちは、同じなんだよ。お互いを思って、お互いを傷つけずにはいられないのさ。ただ、望めばそれですむことを。お互いにお互いが触れることもできずにいるんだよ」
「それでも」
俺は、リータに告げた。
「俺は、自分の生きる道を変えることはできん」
俺にできるのは、チヒロのためにカイロバーンたちとの約束を守ることだけだ。
そうすれば、チヒロにとって安全で優しい居場所が与えられる。
それからしばらく俺は、チヒロを避けて過ごした。
屋敷をあけて、マイヒナのもとで暮らした。
学園にも行かなかった。
チヒロは、なんとかして俺に会おうとしていたが、ことごとく拒んだ。
そして。
カイロバーンたちとの約束の時がきた。
カイロバーンたちは、俺がウルマグライン魔法学園を卒業するまで待ってくれるつもりだったらしいが、俺が頼んで約束の時を早めてもらった。
俺は、カイロバーンと共に神族しか入ることを許されないこの神都ライヒバーンの深部へと案内された。
「今ごろ、サイラスが君の従者のもとに赴いてその力を封じる魔道具をはずしているだろう」
「コントロールできるのか?」
俺は、カイロバーンに訊ねた。
チヒロと繋がっている俺以外にチヒロの力を制御できる者はいない。
カイロバーンは、俺に向かって首を振った。
「我々に与えられた時間は、10分だ」
10分間。
それが魔法を解かれた神都ライヒバーンが持ちこたえられる限界だった。
カイロバーンは、俺を長い白銀の通路の奥にあるこの神都ライヒバーンの中心部へと導くと目を閉じた。
遠く離れても魂を同じくするカイロバーンとサイラスは、繋がっている。
「時間だ」
カイロバーンが目を開くと同時にこの神都ライヒバーンのすべてを制御している魔法核がその光を失っていった。
チヒロの力が解放されたのだ。
この数年でかなり力を増しているチヒロの魔法解除能力は、すぐにこの神都全体を機能不全へと導く。
今、この神都ライヒバーンからすべての魔法の光が消え去った。
カイロバーンは、停止した魔法核へと手を伸ばすとそれを開いた。
中から長い銀髪を体に絡ませたまま眠っているカイロバーンたちによく似た美少女が現れた。
カイロバーンは、彼女を愛おしげに抱き締めその裸の体にそっと持っていたローブをかける。
そして。
「ヘルレイザ-辺境伯、頼む」
「おう!」
俺は、上着を脱ぐとそのまま魔法核へと足を踏み入れた。
そして。
中からそれを閉じる。
それと同時にチヒロの力を操りもと通りに封じていく。
「そんなわけが!」
俺は、苦笑いした。
すべてを失った俺。
家も、財産も、何もかもを義兄に奪われた。
元婚約者のロウランすらも奪われて。
一人だった。
ずっと、孤独だった。
俺は。
生き残ることに必死で、誰かを愛することなんて二度とないと思っていた。
なのに。
俺は。
俺は、胸の中にとどめていた何かが溢れそうになるのを懸命にこらえていた。
あの小さなチヒロが、俺を狂わせる。
俺は、認めたくなかった。
それでも。
俺は、あの子供のことを愛していた。
自分の憎しみを、復讐を諦めるほどに俺は、チヒロのことを思っていた。
俺は、机に顔を伏せて呻いた。
知らなければよかった。
気づかなければ。
この思いに気づかなければよかった。
俺は、チヒロの騎士だ。
あの子を守らなくてはいけない。
どんなものからも、チヒロを守りたい。
あの子の幸いだけが俺の心を癒してくれる。
だから。
俺は、笑顔で生け贄になれるんだ。
「リータ、このこと、チヒロは?」
俺は、リータに訊ねた。
リータは、答えた。
「チヒロは、知らないだろうね」
リータは、にやりと笑う。
「あの子は、ね。自分の気持ちさえ知らないのさ」
「どういうことだ?」
俺の質問にリータは、答えた。
「あんたたちは、同じなんだよ。お互いを思って、お互いを傷つけずにはいられないのさ。ただ、望めばそれですむことを。お互いにお互いが触れることもできずにいるんだよ」
「それでも」
俺は、リータに告げた。
「俺は、自分の生きる道を変えることはできん」
俺にできるのは、チヒロのためにカイロバーンたちとの約束を守ることだけだ。
そうすれば、チヒロにとって安全で優しい居場所が与えられる。
それからしばらく俺は、チヒロを避けて過ごした。
屋敷をあけて、マイヒナのもとで暮らした。
学園にも行かなかった。
チヒロは、なんとかして俺に会おうとしていたが、ことごとく拒んだ。
そして。
カイロバーンたちとの約束の時がきた。
カイロバーンたちは、俺がウルマグライン魔法学園を卒業するまで待ってくれるつもりだったらしいが、俺が頼んで約束の時を早めてもらった。
俺は、カイロバーンと共に神族しか入ることを許されないこの神都ライヒバーンの深部へと案内された。
「今ごろ、サイラスが君の従者のもとに赴いてその力を封じる魔道具をはずしているだろう」
「コントロールできるのか?」
俺は、カイロバーンに訊ねた。
チヒロと繋がっている俺以外にチヒロの力を制御できる者はいない。
カイロバーンは、俺に向かって首を振った。
「我々に与えられた時間は、10分だ」
10分間。
それが魔法を解かれた神都ライヒバーンが持ちこたえられる限界だった。
カイロバーンは、俺を長い白銀の通路の奥にあるこの神都ライヒバーンの中心部へと導くと目を閉じた。
遠く離れても魂を同じくするカイロバーンとサイラスは、繋がっている。
「時間だ」
カイロバーンが目を開くと同時にこの神都ライヒバーンのすべてを制御している魔法核がその光を失っていった。
チヒロの力が解放されたのだ。
この数年でかなり力を増しているチヒロの魔法解除能力は、すぐにこの神都全体を機能不全へと導く。
今、この神都ライヒバーンからすべての魔法の光が消え去った。
カイロバーンは、停止した魔法核へと手を伸ばすとそれを開いた。
中から長い銀髪を体に絡ませたまま眠っているカイロバーンたちによく似た美少女が現れた。
カイロバーンは、彼女を愛おしげに抱き締めその裸の体にそっと持っていたローブをかける。
そして。
「ヘルレイザ-辺境伯、頼む」
「おう!」
俺は、上着を脱ぐとそのまま魔法核へと足を踏み入れた。
そして。
中からそれを閉じる。
それと同時にチヒロの力を操りもと通りに封じていく。
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