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第2章 騎士と少年
2ー13 いつも一緒だ
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2ー13 いつも一緒だ
翌日、俺たちは、マイヒナの用意してくれた小型の馬車に乗り込んでウルマジア神の神殿を目指した。
しばらく行くと巨大な白亜の建物が見えてきた。
「あれがウルマジア神の神殿『ファスティア』神殿です」
同行していたマイヒナが説明してくれた。
俺たちを乗せた馬車は、神殿の奥にあるゲートへの入り口を進んでいった。
馬車の通っている通路の脇には腰を下ろして休んだり出店を出しているちゃっかりした商人までいた。
俺もだが、チヒロは、馬車の窓に張り付いて目を輝かせている。
奈落で暮らしていた俺たちだったがこのゲートには、俺たちも見たことのない種族もうろついていた。
チヒロは、初めて見る世界に矢継ぎ早に質問を繰り出していたが、マイヒナは、いちいち丁寧に答えてくれた。
まさに人種の坩堝であるこの『ファスティア』神殿でチヒロのテンションはマックスだった。
俺は、チヒロの子供らしい様子に目を細めていた。
チヒロの子供時代は、父王の策略で奈落に奴隷として売られたときに終わった。
それからは、チヒロは、一人で生きてきた。
常に抜け目なく、目立たないように注意して生きてきたチヒロだが、今日は、年相応の子供のようにはしゃいでいた。
俺は、それがなぜかわからないが嬉しかった。
ゲートは、神殿の奥に作られていてそこに向かう荷馬車などの列が作られている。
俺たちもその列に並んだ。
白銀の幻獣の像が向かい合ってたっているところがいわゆるゲートと呼ばれる転移門だ。
その先に目指す神都ライヒバーンはある。
俺とチヒロの胸は高鳴っていた。
そこで待っているのが何かはわからないがチヒロの希望が俺にも伝染してくるかのように俺まで何かを期待してしまっていた。
もう、何かを期待することなんてなかったのに。
俺は、苦笑していた。
希望など持つべきではない。
そんなもの持てば裏切られたときにショックを受けるだけだ。
俺は、自分に言い聞かせた。
それでもゲートに近づくにつれて俺の胸も早鐘を打った。
それは、チヒロのせいだ。
チヒロの希望が俺にも伝わってきているのだ。
一瞬、俺は、それが腹立たしく思った。
チヒロだって俺と同じだ。
裏切られて、奈落に墜ちた俺たちが何を今さら胸を高鳴らせているのか。
愚かしい。
ゲートに近づくにつれて不機嫌になっていく俺に気づいたチヒロが案じるように俺のことを覗き込んだ。
俺は、チヒロに心配をかけてしまったことを恥じた。
これまでがどうであれチヒロにとっては、これから行く神都ライヒバーンは、希望の都にかわりない。
俺は、チヒロに微笑んだ。
チヒロがホッとしたように笑顔を浮かべる。
俺の隣の席に座り直すとチヒロは、そっと俺の手に触れた。
その手は、しっとりと濡れて震えている。
チヒロも不安なのだろう。
俺は、チヒロの手を握りしめた。
「大丈夫だ、チヒロ。俺たちは、いつも一緒だ」
翌日、俺たちは、マイヒナの用意してくれた小型の馬車に乗り込んでウルマジア神の神殿を目指した。
しばらく行くと巨大な白亜の建物が見えてきた。
「あれがウルマジア神の神殿『ファスティア』神殿です」
同行していたマイヒナが説明してくれた。
俺たちを乗せた馬車は、神殿の奥にあるゲートへの入り口を進んでいった。
馬車の通っている通路の脇には腰を下ろして休んだり出店を出しているちゃっかりした商人までいた。
俺もだが、チヒロは、馬車の窓に張り付いて目を輝かせている。
奈落で暮らしていた俺たちだったがこのゲートには、俺たちも見たことのない種族もうろついていた。
チヒロは、初めて見る世界に矢継ぎ早に質問を繰り出していたが、マイヒナは、いちいち丁寧に答えてくれた。
まさに人種の坩堝であるこの『ファスティア』神殿でチヒロのテンションはマックスだった。
俺は、チヒロの子供らしい様子に目を細めていた。
チヒロの子供時代は、父王の策略で奈落に奴隷として売られたときに終わった。
それからは、チヒロは、一人で生きてきた。
常に抜け目なく、目立たないように注意して生きてきたチヒロだが、今日は、年相応の子供のようにはしゃいでいた。
俺は、それがなぜかわからないが嬉しかった。
ゲートは、神殿の奥に作られていてそこに向かう荷馬車などの列が作られている。
俺たちもその列に並んだ。
白銀の幻獣の像が向かい合ってたっているところがいわゆるゲートと呼ばれる転移門だ。
その先に目指す神都ライヒバーンはある。
俺とチヒロの胸は高鳴っていた。
そこで待っているのが何かはわからないがチヒロの希望が俺にも伝染してくるかのように俺まで何かを期待してしまっていた。
もう、何かを期待することなんてなかったのに。
俺は、苦笑していた。
希望など持つべきではない。
そんなもの持てば裏切られたときにショックを受けるだけだ。
俺は、自分に言い聞かせた。
それでもゲートに近づくにつれて俺の胸も早鐘を打った。
それは、チヒロのせいだ。
チヒロの希望が俺にも伝わってきているのだ。
一瞬、俺は、それが腹立たしく思った。
チヒロだって俺と同じだ。
裏切られて、奈落に墜ちた俺たちが何を今さら胸を高鳴らせているのか。
愚かしい。
ゲートに近づくにつれて不機嫌になっていく俺に気づいたチヒロが案じるように俺のことを覗き込んだ。
俺は、チヒロに心配をかけてしまったことを恥じた。
これまでがどうであれチヒロにとっては、これから行く神都ライヒバーンは、希望の都にかわりない。
俺は、チヒロに微笑んだ。
チヒロがホッとしたように笑顔を浮かべる。
俺の隣の席に座り直すとチヒロは、そっと俺の手に触れた。
その手は、しっとりと濡れて震えている。
チヒロも不安なのだろう。
俺は、チヒロの手を握りしめた。
「大丈夫だ、チヒロ。俺たちは、いつも一緒だ」
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