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第2章 騎士と少年
2ー11 情け
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2ー11 情け
翌日、俺たちが馬車で出発するとき、宿屋の給仕の娘がチヒロにそっと何か渡していた。
俺は、馬車の中でチヒロに訊ねた。
「何を受け取っていたんだ?チヒロ」
「うん」
チヒロがにっこりと微笑んだ。
「これ、旅の途中でどうぞ、だって」
チヒロが俺に差し出したのはきれいな布に包まれたサンドイッチだった。
なんでも昨日の俺たちの食いっぷりが気に入ったとかいって宿屋の主人が特別に弁当を持たせてくれたんだとか。
マジか。
俺は、ふいに目頭が熱くなっていた。
この世界にもこんな人情のある人がいたんだと思うと泣けてくる。
思えば俺の今までの今生での人生では、ろくなことがなかった。
伯爵家の長男ではあったが魔力欠乏症のため周囲の人からは常にバカにされていた。
その挙げ句、義兄や婚約者に裏切られてこんな姿にされてしまい奈落に逃げ落ちた。
俺の人生には、こんな優しさなんて欠片もなかったんだ。
俺は、静かにむせび泣いていた。
きっとリータやチヒロにバカにされるに違いない。
俺は、恥ずかしくなってそっと涙を拭った。
だが。
リータもチヒロも何も言うことはなかった。
俺たちは、宿屋の主人からの贈り物をありがたくいただいた。
「うまい!」
俺は、サンドイッチをほうばった。
「こんな美味いもの、初めてだ」
俺に気をつかったのか、チヒロは、自分のぶんのサンドイッチを差し出そうとした。
俺は、それを断ってチヒロに告げた。
「しっかり食べないと大きくなれないぞ」
俺に言われてチヒロは、ムッとしたがすぐにサンドイッチに食いついた。
「あらあら。チヒロは、早く大きくなりたいのかい?」
リータがからかうようにいうと、チヒロは、口をもごもごさせながら頷いた。
「早く、大きくなりたい。そして、僕がロイドを守ってやるんだ」
はい?
俺は、チヒロのことをまじまじと見つめた。
チヒロは、口の中のものをごっくんしてから俺に真面目な顔をして話した。
「僕がこの世界の全てからロイドのことを守るんだ!」
チヒロの言葉に俺は、ほろりとさせられていた。
いつまでもかわいいだけじゃないんだな。
次の街まで何時間も馬車に揺られているうちにチヒロは、眠ってしまった。
俺は、俺の膝の上に頭を置いて眠っているチヒロを見つめて呟いた。
「子供だ子供だと思っていたんだが、な」
「泣かせるじゃないか」
リータがふっと吐息を漏らした。
「龍人のあんたを守ってやりたい、なんてさ」
「そうだな」
俺は、くすっと笑った。
小さな小さな騎士だ。
だけど。
俺は、実際に、この小さな王子様に守られているんだ。
「ほんとにチヒロに魔法学園で学ばせればチヒロの力が強化されるのか?」
俺がきくとリータがさあ、というように答えた。
「あのお方がそうおっしゃるんだから、本当なんだろうね」
アルアロイが言うには、チヒロは、魔法は使えないが魔法を学ぶことには意味があるらしい。
使えなくても魔法を学ぶことでチヒロのマジックキャンセラーとしての力も強まるらしい。
翌日、俺たちが馬車で出発するとき、宿屋の給仕の娘がチヒロにそっと何か渡していた。
俺は、馬車の中でチヒロに訊ねた。
「何を受け取っていたんだ?チヒロ」
「うん」
チヒロがにっこりと微笑んだ。
「これ、旅の途中でどうぞ、だって」
チヒロが俺に差し出したのはきれいな布に包まれたサンドイッチだった。
なんでも昨日の俺たちの食いっぷりが気に入ったとかいって宿屋の主人が特別に弁当を持たせてくれたんだとか。
マジか。
俺は、ふいに目頭が熱くなっていた。
この世界にもこんな人情のある人がいたんだと思うと泣けてくる。
思えば俺の今までの今生での人生では、ろくなことがなかった。
伯爵家の長男ではあったが魔力欠乏症のため周囲の人からは常にバカにされていた。
その挙げ句、義兄や婚約者に裏切られてこんな姿にされてしまい奈落に逃げ落ちた。
俺の人生には、こんな優しさなんて欠片もなかったんだ。
俺は、静かにむせび泣いていた。
きっとリータやチヒロにバカにされるに違いない。
俺は、恥ずかしくなってそっと涙を拭った。
だが。
リータもチヒロも何も言うことはなかった。
俺たちは、宿屋の主人からの贈り物をありがたくいただいた。
「うまい!」
俺は、サンドイッチをほうばった。
「こんな美味いもの、初めてだ」
俺に気をつかったのか、チヒロは、自分のぶんのサンドイッチを差し出そうとした。
俺は、それを断ってチヒロに告げた。
「しっかり食べないと大きくなれないぞ」
俺に言われてチヒロは、ムッとしたがすぐにサンドイッチに食いついた。
「あらあら。チヒロは、早く大きくなりたいのかい?」
リータがからかうようにいうと、チヒロは、口をもごもごさせながら頷いた。
「早く、大きくなりたい。そして、僕がロイドを守ってやるんだ」
はい?
俺は、チヒロのことをまじまじと見つめた。
チヒロは、口の中のものをごっくんしてから俺に真面目な顔をして話した。
「僕がこの世界の全てからロイドのことを守るんだ!」
チヒロの言葉に俺は、ほろりとさせられていた。
いつまでもかわいいだけじゃないんだな。
次の街まで何時間も馬車に揺られているうちにチヒロは、眠ってしまった。
俺は、俺の膝の上に頭を置いて眠っているチヒロを見つめて呟いた。
「子供だ子供だと思っていたんだが、な」
「泣かせるじゃないか」
リータがふっと吐息を漏らした。
「龍人のあんたを守ってやりたい、なんてさ」
「そうだな」
俺は、くすっと笑った。
小さな小さな騎士だ。
だけど。
俺は、実際に、この小さな王子様に守られているんだ。
「ほんとにチヒロに魔法学園で学ばせればチヒロの力が強化されるのか?」
俺がきくとリータがさあ、というように答えた。
「あのお方がそうおっしゃるんだから、本当なんだろうね」
アルアロイが言うには、チヒロは、魔法は使えないが魔法を学ぶことには意味があるらしい。
使えなくても魔法を学ぶことでチヒロのマジックキャンセラーとしての力も強まるらしい。
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