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第2章 騎士と少年
2ー10 美味し糧
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2ー10 美味し糧
給仕の娘は、俺のことをおっかなそうに見ていたが注文を受けると急ぎ足で厨房へと姿を消した。
俺は、薄茶色のローブを頭から被っていたが俺が人でないことはすぐにわかる。
この街は、魔物の森からも近いし、客の中にもちらほらと魔族らしい者もいるが、それでも物珍しがられるのだ。
俺は、リータの方を見た。
リータは、淫魔の血が混じっているだけあってほとんど人と変わらない。
だが、俺は。
俺は、自分の手のこうに視線を落とした。
鈍い青色に輝く小さな鱗におおわれた手を見ると俺は、自分にかけられた呪いを思い知らされていた。
「どうしたんだ?ロイド」
チヒロが俺に問いかけたので、俺は、なんでもないという風に笑って見せる。
「なんでもない。ただ、久しぶりの外の世界だから緊張しているだけだ」
「緊張、ねぇ」
リータがにやにやしながら俺に向かって手にしていたカップを掲げた。
「いまや、飛ぶ鳥を落とす勢いの『ヒポクラティス』商会の会頭ともあろうお方が何を言っておられるのやら。ロイド様は、魔界の辺境伯であらせられるお方。もっとどうどうとされてくださいな」
それは、そうだ。
俺は、今や押しも押されぬ魔界の貴族であり、この世界でも有数の商会の会頭だ。
その俺がビクビクしててどうする!
そうこうしているとさっきの娘が両手に大皿を持ってやってきた。
「ご注文の料理長のおすすめです」
どん、とテーブルの上に置かれた大きな皿には湯気をたてている美味しそうな肉の塊がいくつものっていた。
奈落では、いつも干し肉ばかりだったから俺もチヒロもごくりと喉を鳴らした。
「こいつは、うまそうだ」
俺は、チヒロが骨付きの肉にかぶりつくのを見てから自分も肉を手に取った。
かぶりつくと口の中に甘い肉の油がじゅわっと拡がっていく。
俺は、夢中で肉に食らいついていた。
奈落では、なんでも新鮮な物は高級だ。
俺たちは、クルスのところから今の20階層の屋敷に移ってからも肉は、ほとんど干し肉しか食べてなかった。
たまに薬草畑に現れた魔物を狩ることはあったが、ほとんど干し肉にしていたからな。
あっという間に俺たちは、目の前に置かれた大皿の肉を食べ尽くした。
「すごく美味しかったね、ロイド」
顔を肉汁だらけにしているチヒロに俺は、笑いながらハンカチで口許を拭ってやる。
「ああ。うまかったな。こんなうまい肉を食ったのは久しぶりだ」
俺は、ふとドラグーン騎兵隊の厩舎で仲間たちが食っていた肉のことを思い出していた。
あれは、いったいなんの肉だったんだろうか。
ふと目をあげるとリータと目があった。
「過去のことは、忘れなんし。今さらですからね」
「ああ、そうだな」
俺は、リータの言葉に頷いた。
給仕の娘は、俺のことをおっかなそうに見ていたが注文を受けると急ぎ足で厨房へと姿を消した。
俺は、薄茶色のローブを頭から被っていたが俺が人でないことはすぐにわかる。
この街は、魔物の森からも近いし、客の中にもちらほらと魔族らしい者もいるが、それでも物珍しがられるのだ。
俺は、リータの方を見た。
リータは、淫魔の血が混じっているだけあってほとんど人と変わらない。
だが、俺は。
俺は、自分の手のこうに視線を落とした。
鈍い青色に輝く小さな鱗におおわれた手を見ると俺は、自分にかけられた呪いを思い知らされていた。
「どうしたんだ?ロイド」
チヒロが俺に問いかけたので、俺は、なんでもないという風に笑って見せる。
「なんでもない。ただ、久しぶりの外の世界だから緊張しているだけだ」
「緊張、ねぇ」
リータがにやにやしながら俺に向かって手にしていたカップを掲げた。
「いまや、飛ぶ鳥を落とす勢いの『ヒポクラティス』商会の会頭ともあろうお方が何を言っておられるのやら。ロイド様は、魔界の辺境伯であらせられるお方。もっとどうどうとされてくださいな」
それは、そうだ。
俺は、今や押しも押されぬ魔界の貴族であり、この世界でも有数の商会の会頭だ。
その俺がビクビクしててどうする!
そうこうしているとさっきの娘が両手に大皿を持ってやってきた。
「ご注文の料理長のおすすめです」
どん、とテーブルの上に置かれた大きな皿には湯気をたてている美味しそうな肉の塊がいくつものっていた。
奈落では、いつも干し肉ばかりだったから俺もチヒロもごくりと喉を鳴らした。
「こいつは、うまそうだ」
俺は、チヒロが骨付きの肉にかぶりつくのを見てから自分も肉を手に取った。
かぶりつくと口の中に甘い肉の油がじゅわっと拡がっていく。
俺は、夢中で肉に食らいついていた。
奈落では、なんでも新鮮な物は高級だ。
俺たちは、クルスのところから今の20階層の屋敷に移ってからも肉は、ほとんど干し肉しか食べてなかった。
たまに薬草畑に現れた魔物を狩ることはあったが、ほとんど干し肉にしていたからな。
あっという間に俺たちは、目の前に置かれた大皿の肉を食べ尽くした。
「すごく美味しかったね、ロイド」
顔を肉汁だらけにしているチヒロに俺は、笑いながらハンカチで口許を拭ってやる。
「ああ。うまかったな。こんなうまい肉を食ったのは久しぶりだ」
俺は、ふとドラグーン騎兵隊の厩舎で仲間たちが食っていた肉のことを思い出していた。
あれは、いったいなんの肉だったんだろうか。
ふと目をあげるとリータと目があった。
「過去のことは、忘れなんし。今さらですからね」
「ああ、そうだな」
俺は、リータの言葉に頷いた。
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