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第2章 騎士と少年

2ー9 愛おしい

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 2ー9 愛おしい

 「嘘」
 チヒロが呟いた。
 「嘘ばっかり。僕のこと、嫌ってるくせに」
 「そんなことは、ない」
 俺は、チヒロをぐっと引き寄せると抱き締めた。
 チヒロの小さな体を抱いて俺は、告げた。
 「俺は・・俺は、お前のことを肉親のように思っているんだ、チヒロ。嫌ってなんていない。信じてくれ」
 チヒロが弱々しく俺の体を押し退けようとしたが、すぐに俺のことを受け入れ俺の胸に顔を埋めた。
 「信じていいのか?ロイド」
 チヒロは、俺に訊ねた。
 実の父親に奴隷として奈落に売られたチヒロ。
 家族に裏切られたことは、チヒロにとっては、消えない傷だ。
 それから一人で必死に生きてきたのだ。
 この小さな体で。
 俺は、チヒロが愛おしかった。
 俺にかけられた呪いを解くためにチヒロが必要だというだけではない。
 俺は、チヒロの騎士としてチヒロを守りたかった。
 チヒロは、俺の胸にすがってきいた。
 「お前を信じていいんだな?ロイド」
 「ああ、もちろんだ」
 俺は、体を離してチヒロを見た。
 チヒロの瞳はまだ濡れていた。
 俺は、そっと手を伸ばしてチヒロの涙を拭った。
 「俺は、お前の騎士だ。俺の全ては、お前のもの、だ」
 チヒロは、目を閉じて頬に触れた俺の手に手をそえた。
 「信じる。僕は、お前のことを信じるよ」
 チヒロは、震える小さな声で言った。
 「だから、僕のことを・・」
 チヒロは、ほとんど消え入りそうな声で囁く。
 「離さないで・・・」
 「それがお前の望みなら」
 俺は、チヒロの青い瞳をじっと見つめて答えた。
 「例え、奈落の底に堕とされようとも俺は、お前を離さない」
 俺は、魔法で出した水でハンカチを濡らしてチヒロの顔を拭いてやった。
 そっと、優しく。
 チヒロは、目を閉じる。
 その薄桃色の唇に目がいって、俺は、胸が高鳴るのを感じた。
 なぜかはわからない。
 ただ。
 チヒロは、美しい。
 俺なんかが触れてはいけないような気がして俺は、手をひいた。
 俺は、背を向けて立ち上がった。
 「チヒロ、腹すいただろ?」
 俺がきくと、チヒロの腹がぐぅっと鳴るのがきこえて俺は、くすっと笑った。
 俺たちは、宿屋の一階にある食堂へと向かった。
 その宿屋の食堂は、酒場も兼ねているようでそこは、とても騒がしかった。
 俺は、空いている席を探してチヒロの手をひいて歩き出す。
 そのとき部屋の隅でリータが手を振っているのが目に入った。
 俺たちは、リータの方へと進んでいった。
 どうやらリータは、さきに一人で飲んでいた様子でテーブルにはいくつもの酒の入っていたであろう大きな木製のコップが並んでいた。
 俺は、あきれつつもテーブルの椅子をひいてチヒロを座らせると自分もその横の椅子に腰かけた。
 「お楽しみのようだな」
 「ふふっ。久しぶりの地上だもんでちょっとうかれちゃったわぁ」
 リータは、酔っぱらっているようだった。
 「主さんたちもお楽しみだったのかしらね」
 「何を言ってる」
 俺は、冷ややかに告げると店の給仕の娘を呼び止め食事を注文した。
 
 
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