上 下
18 / 85
第2章 騎士と少年

2ー1 ヘルムス

しおりを挟む
 2ー1 ヘルムス

 アルアロイの命令で俺とチヒロが奈落を出て行くことになったのは、初めて俺がアルアロイと対面してから二年後のことだった。
 俺は、その二年の間に魔界の辺境伯を名乗るようになっていた。
 ロイド・ヘルレイザー辺境伯
 それが俺の新しい名前だった。
  アルアロイは、どういう手を使ったのか知らないが俺を魔界の貴族に仕立ててしまった。
 そして、俺は、アルアロイに与えられた地位と財力を利用して地上との交易を始めた。
 この奈落には、ここにしかない薬草がいくつかある。
 俺は、その薬草をブレンドしてお茶を開発した。
 もちろんアルアロイの協力もあった。
 だが、ほとんどの知識は、俺の転生前の知識だった。
 どうやら俺は、植物オタクというか、ハーブの研究などをしていたようだ。
 俺は、奈落で採取できる薬草をブレンドして作ったお茶を『延命茶』と名付けて地上へ広めていった。
 このお茶は、ちょっとした栄養ドリンク並みの効き目がある。
 クルスの知り合いの商人の手で地上に持ち込まれた『延命茶』は、薬が買えない貧乏人からより効能の高い薬を求める貴族にまで広く受け入れられていった。
 俺は、他にも様々な健康食品を開発していった。
 ダイエット食品から栄養補助食品。
 それに体の中から瘴気を浄化するサプリメントも売り出した。
 瘴気のための病で苦しんでいる人々は、とても多くいる。
 そういう人々が俺の売り出した商品に群がってきた。
 俺は、奈落から発信した健康食品をあつかう商会を設立した。
 商会の名は、『 ヒポクラティス』 
 商会の紋章は、杖に絡み付いた蛇だ。
 それは、アルアロイのことでもあった。
 アルアロイは、俺が起こした商売を興味深く見守っていた。
 俺は、2年の間に商会を世界規模で拡大していった。
 医療らしいものがほとんどなかったこの世界で人々は、俺が提供する健康食品を頼るようになっていた。
 それは、教会の与える治癒の魔法や、ポーション、エリクサーとは違い、扱いやすく、そして何より生活に近かった。
 いつの間にか『ヒポクラティス』商会は、世界で一番のシェアを誇る健康食品の店になっていた。
 俺は、奈落の比較的安全な辺りに屋敷を建てて移り住んだ。
 そこは、奈落の20階層にある広い荒野だったのだが、俺が手を入れて広大な薬草農園を作り上げていた。
 いつしか畑の近隣には、そこで働く魔族や魔物の村ができた。
 人々は、その村をヘルムスと呼ぶようになっていた。
 ヘルレイザ-辺境伯の造った村という魔族の言葉からきているらしい。
 ヘルムスの屋敷に移った俺のもとには、アルアロイの連絡係兼俺の助手としてやってきたリータと彼女が呼び寄せた仲間たちが集っていた。
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】イケメン騎士が僕に救いを求めてきたので呪いをかけてあげました

及川奈津生
BL
気づいたら十四世紀のフランスに居た。百年戦争の真っ只中、どうやら僕は密偵と疑われているらしい。そんなわけない!と誤解をとこうと思ったら、僕を尋問する騎士が現代にいるはずの恋人にそっくりだった。全3話。 ※pome村さんがXで投稿された「#イラストを投げたら文字書きさんが引用rtでssを勝手に添えてくれる」向けに書いたものです。元イラストを表紙に設定しています。投稿元はこちら→https://x.com/pomemura_/status/1792159557269303476?t=pgeU3dApwW0DEeHzsGiHRg&s=19

猫が崇拝される人間の世界で猫獣人の俺って…

えの
BL
森の中に住む猫獣人ミルル。朝起きると知らない森の中に変わっていた。はて?でも気にしない!!のほほんと過ごしていると1人の少年に出会い…。中途半端かもしれませんが一応完結です。妊娠という言葉が出てきますが、妊娠はしません。

過食症の僕なんかが異世界に行ったって……

おがこは
BL
過食症の受け「春」は自身の醜さに苦しんでいた。そこに強い光が差し込み異世界に…?! ではなく、神様の私欲の巻き添えをくらい、雑に異世界に飛ばされてしまった。まあそこでなんやかんやあって攻め「ギル」に出会う。ギルは街1番の鍛冶屋、真面目で筋肉ムキムキ。 凸凹な2人がお互いを意識し、尊敬し、愛し合う物語。

【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい

おだししょうゆ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。 生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。 地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。 転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。 ※含まれる要素 異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛 ※小説家になろうに重複投稿しています

【完結】白い森の奥深く

N2O
BL
命を助けられた男と、本当の姿を隠した少年の恋の話。 本編/番外編完結しました。 さらりと読めます。 表紙絵 ⇨ 其間 様 X(@sonoma_59)

Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜

天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。 彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。 しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。 幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。 運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

【完結・BL】DT騎士団員は、騎士団長様に告白したい!【騎士団員×騎士団長】

彩華
BL
とある平和な国。「ある日」を境に、この国を守る騎士団へ入団することを夢見ていたトーマは、無事にその夢を叶えた。それもこれも、あの日の初恋。騎士団長・アランに一目惚れしたため。年若いトーマの恋心は、日々募っていくばかり。自身の気持ちを、アランに伝えるべきか? そんな悶々とする騎士団員の話。 「好きだって言えるなら、言いたい。いや、でもやっぱ、言わなくても良いな……。ああ゛―!でも、アラン様が好きだって言いてぇよー!!」

処理中です...