12 / 85
第1章 奈落へ
1ー12 モゲモゲの人形
しおりを挟む
1ー12 モゲモゲの人形
俺が40階層へと降りる日。
朝飯の後、チヒロが小さなモゲモゲの人形を俺に手渡した。
「やる」
「なんだ、これ?」
俺は、チヒロに訊ねた。
チヒロは、薄汚れた顔を真っ赤にして小声で告げた。
「お守り、だ」
はい?
俺が目を点にしているとチヒロは、さっさと逃げるように奥の部屋に去ってしまった。
俺は、モゲモゲの人形をぶら下げてポカンとしていた。
このモゲモゲの人形は、普通、旅に出る恋人のために女が小さな藁の人形に自分の髪を忍ばせてお守りとして渡すものだ。
なんで、チヒロが俺に?
キョトンとしている俺にクルスが笑いを堪えながら言った。
「いいじゃないか、チヒロなりにお前を心配してるんだろ。受け取っといてやれよ」
はぁ?
俺は、仕方なくそのモゲモゲの人形を腰に下げている剣の塚にぶら下げた。
いや。
こんなのつけてると、まるで、俺のことを心配している恋人がいるみたいじゃないか。
俺は、必要最低限の荷物をまとめた小さな皮の鞄をかつぐと40階層へと旅立った。
奈落は、大きな縦穴の周囲に魔族やら魔物が住む町が点在している。
俺たちが住んでいる場所は、37階層にあるザナンの町と呼ばれる町だ。
そこから次の大きな町までは、40階層まで降りなくてはならない。
普通は、40階層に行くには数週間かかるが、俺は、数時間で行ける。
俺は、龍人だからな。
最下層から37階層までジャバロックがきたように俺は、精霊魔法で奈落の空洞を飛んで40階層までワープすることができるのだ。
俺は、37階層の奈落の空洞に面した崖の端へと歩いていくとそこからポン、と下へと飛び降りた。
うん。
何度やっても気味が悪いな。
なんだか、魂が地獄へと引き寄せられていくような感覚だ。
俺は、スピードを増していくのを感じていた。
そろそろ40階層ぐらいだなと思って俺は、腰の剣を抜いた。
それは、クルスにもらったものだが、なんでもかなりの業物なのだという。
俺は、剣を40階層付近の壁に突き刺すと落下していく自分自身の体を止める。
腕にぐん、と体重とか重力やらがかかって剣がきしむ。
俺は、反重力のイメージをする。
すると、俺の体がふわりと浮かんだ。
俺は、近くの壁にある空洞へと飛び移った。
薄暗い穴のどこかから声がきこえた。
「兄さん、すごいねぇ。奈落を飛んでくるなんて」
目をこらすと岩壁のそばに女が一人、腰を下ろしてキセルをふかしていた。
女は、魔物の一種のようだ。
俺は、剣を握る手に力をこめた。
俺の殺気を感じたのか女は、にぃっと笑った。
「物騒な兄さんだねぇ」
俺は、油断なく身構えていた。
女は、一人のようだ。
こんな場所にふさわしくないヒラヒラした薄絹をまとい、岩壁にもたれて座っている。
だが、ここは、奈落の40階層だ。
ただの女が一人でいていい場所じゃない。
女は、ふふっと笑い声をあげると俺に向かって言った。
「おっかないこと」
「どっちが、だ?」
俺は、剣を構えたまま女にじりじりと近づいていった。
女は、近くの岩にポンとキセルを叩きつけると声を強めた。
「やめときな、兄さん。死にたくなければね」
ごうっと女から立ち上った殺気に俺は、身動きできなくなる。
やはり、ただの魔物じゃない!
女は、ゆらりと立ち上がると俺に近づいてきた。
「おや、おや。お守りかぇ?」
俺が持っている剣にぶらさがっているモゲモゲの人形を見て女が微笑んだ。
「兄さん、心配してくれるお人がいるんならなおさら命は大事にしないとねぇ」
俺が40階層へと降りる日。
朝飯の後、チヒロが小さなモゲモゲの人形を俺に手渡した。
「やる」
「なんだ、これ?」
俺は、チヒロに訊ねた。
チヒロは、薄汚れた顔を真っ赤にして小声で告げた。
「お守り、だ」
はい?
俺が目を点にしているとチヒロは、さっさと逃げるように奥の部屋に去ってしまった。
俺は、モゲモゲの人形をぶら下げてポカンとしていた。
このモゲモゲの人形は、普通、旅に出る恋人のために女が小さな藁の人形に自分の髪を忍ばせてお守りとして渡すものだ。
なんで、チヒロが俺に?
キョトンとしている俺にクルスが笑いを堪えながら言った。
「いいじゃないか、チヒロなりにお前を心配してるんだろ。受け取っといてやれよ」
はぁ?
俺は、仕方なくそのモゲモゲの人形を腰に下げている剣の塚にぶら下げた。
いや。
こんなのつけてると、まるで、俺のことを心配している恋人がいるみたいじゃないか。
俺は、必要最低限の荷物をまとめた小さな皮の鞄をかつぐと40階層へと旅立った。
奈落は、大きな縦穴の周囲に魔族やら魔物が住む町が点在している。
俺たちが住んでいる場所は、37階層にあるザナンの町と呼ばれる町だ。
そこから次の大きな町までは、40階層まで降りなくてはならない。
普通は、40階層に行くには数週間かかるが、俺は、数時間で行ける。
俺は、龍人だからな。
最下層から37階層までジャバロックがきたように俺は、精霊魔法で奈落の空洞を飛んで40階層までワープすることができるのだ。
俺は、37階層の奈落の空洞に面した崖の端へと歩いていくとそこからポン、と下へと飛び降りた。
うん。
何度やっても気味が悪いな。
なんだか、魂が地獄へと引き寄せられていくような感覚だ。
俺は、スピードを増していくのを感じていた。
そろそろ40階層ぐらいだなと思って俺は、腰の剣を抜いた。
それは、クルスにもらったものだが、なんでもかなりの業物なのだという。
俺は、剣を40階層付近の壁に突き刺すと落下していく自分自身の体を止める。
腕にぐん、と体重とか重力やらがかかって剣がきしむ。
俺は、反重力のイメージをする。
すると、俺の体がふわりと浮かんだ。
俺は、近くの壁にある空洞へと飛び移った。
薄暗い穴のどこかから声がきこえた。
「兄さん、すごいねぇ。奈落を飛んでくるなんて」
目をこらすと岩壁のそばに女が一人、腰を下ろしてキセルをふかしていた。
女は、魔物の一種のようだ。
俺は、剣を握る手に力をこめた。
俺の殺気を感じたのか女は、にぃっと笑った。
「物騒な兄さんだねぇ」
俺は、油断なく身構えていた。
女は、一人のようだ。
こんな場所にふさわしくないヒラヒラした薄絹をまとい、岩壁にもたれて座っている。
だが、ここは、奈落の40階層だ。
ただの女が一人でいていい場所じゃない。
女は、ふふっと笑い声をあげると俺に向かって言った。
「おっかないこと」
「どっちが、だ?」
俺は、剣を構えたまま女にじりじりと近づいていった。
女は、近くの岩にポンとキセルを叩きつけると声を強めた。
「やめときな、兄さん。死にたくなければね」
ごうっと女から立ち上った殺気に俺は、身動きできなくなる。
やはり、ただの魔物じゃない!
女は、ゆらりと立ち上がると俺に近づいてきた。
「おや、おや。お守りかぇ?」
俺が持っている剣にぶらさがっているモゲモゲの人形を見て女が微笑んだ。
「兄さん、心配してくれるお人がいるんならなおさら命は大事にしないとねぇ」
10
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
【完結・BL】DT騎士団員は、騎士団長様に告白したい!【騎士団員×騎士団長】
彩華
BL
とある平和な国。「ある日」を境に、この国を守る騎士団へ入団することを夢見ていたトーマは、無事にその夢を叶えた。それもこれも、あの日の初恋。騎士団長・アランに一目惚れしたため。年若いトーマの恋心は、日々募っていくばかり。自身の気持ちを、アランに伝えるべきか? そんな悶々とする騎士団員の話。
「好きだって言えるなら、言いたい。いや、でもやっぱ、言わなくても良いな……。ああ゛―!でも、アラン様が好きだって言いてぇよー!!」
【完結】守銭奴ポーション販売員ですが、イケメン騎士団長に溺愛されてます!?
古井重箱
BL
【あらすじ】 異世界に転生して、俺は守銭奴になった。病気の妹を助けるために、カネが必要だからだ。商都ゲルトシュタットで俺はポーション会社の販売員になった。そして黄金騎士団に営業をかけたところ、イケメン騎士団長に気に入られてしまい━━!? 「俺はノンケですから!」「みんな最初はそう言うらしいよ。大丈夫。怖くない、怖くない」「あんたのその、無駄にポジティブなところが苦手だーっ!」 今日もまた、全力疾走で逃げる俺と、それでも懲りない騎士団長の追いかけっこが繰り広げられる。
【補足】 イケメン×フツメン。スパダリ攻×毒舌受。同性間の婚姻は認められているけれども、男性妊娠はない世界です。アルファポリスとムーンライトノベルズに掲載しています。性描写がある回には*印をつけております。
【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい
おだししょうゆ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。
生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。
地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。
転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。
※含まれる要素
異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛
※小説家になろうに重複投稿しています
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
僕の王子様
くるむ
BL
鹿倉歩(かぐらあゆむ)は、クリスマスイブに出合った礼人のことが忘れられずに彼と同じ高校を受けることを決意。
無事に受かり礼人と同じ高校に通うことが出来たのだが、校内での礼人の人気があまりにもすさまじいことを知り、自分から近づけずにいた。
そんな中、やたらイケメンばかりがそろっている『読書同好会』の存在を知り、そこに礼人が在籍していることを聞きつけて……。
見た目が派手で性格も明るく、反面人の心の機微にも敏感で一目置かれる存在でもあるくせに、実は騒がれることが嫌いで他人が傍にいるだけで眠ることも出来ない神経質な礼人と、大人しくて素直なワンコのお話。
元々は、神経質なイケメンがただ一人のワンコに甘える話が書きたくて考えたお話です。
※『近くにいるのに君が遠い』のスピンオフになっています。未読の方は読んでいただけたらより礼人のことが分かるかと思います。
悪役が英雄を育てるカオスな世界に転生しました(仮)
塩猫
BL
三十路バツイチ子持ちのおっさんが乙女ソーシャルゲームの世界に転生しました。
魔法使いは化け物として嫌われる世界で怪物の母、性悪妹を持つ悪役魔法使いに生まれかわった。
そしてゲーム一番人気の未来の帝国の国王兼王立騎士団長のカイン(6)に出会い、育てる事に…
敵対関係にある魔法使いと人間が共存出来るように二人でゲームの未来を変えていきます!
「俺が貴方を助けます、貴方のためなら俺はなんでもします」
「…いや俺、君の敵……じゃなくて君には可愛いゲームの主人公ちゃんが…あれ?」
なにか、育て方を間違っただろうか。
国王兼王立騎士団長(選ばれし英雄)(20)×6年間育てたプチ育ての親の悪役魔法使い(26)
猫が崇拝される人間の世界で猫獣人の俺って…
えの
BL
森の中に住む猫獣人ミルル。朝起きると知らない森の中に変わっていた。はて?でも気にしない!!のほほんと過ごしていると1人の少年に出会い…。中途半端かもしれませんが一応完結です。妊娠という言葉が出てきますが、妊娠はしません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる