異世界転生したものの全てを失った俺は、奈落で奴隷王子の騎士になる

トモモト ヨシユキ

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第1章 奈落へ

1ー10 冷酷な世界

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 1ー10 冷酷な世界

 奈落は、何階層かにわかれている。
 わりと地上にちかい表層には、人間も訪れたりするが、下に行くほど瘴気が濃くなりそれにつれて魔族や魔物が多くなる。
 俺たちが今いる階層は、37階層だとクルスは言っていた。
 それは、この奈落のほぼ中間にあたるらしい。
 これより奥には、クルスでさえあまり近づこうとはしない。
 そして、最奥には、魔王がいる。
 魔族にとっては、母なる存在だ。
 奈落は、まるで子宮のようだった。
 ここから全ての魔族や魔物が生まれてくるのだ。
 それなのに魔族や魔物の多くが奈落の外に憧れる。
 故郷を思うような憧れ。
 おかしなものだ。
 「あんた、外から来たんだろう?」
 たまにクルスのお使いで外に出ると訊ねられることがある。
 「外は、どうなんだ?やっぱりいいとこなのか?」
 俺は、首を振ってそれを否定する。
 どこも同じだ。
 俺の返事に魔族たちは、ため息をつく。
 それでも外の世界への憧れは彼らの胸から消えることはない。
 俺は、クルスの隠れ家への帰り道に八百屋のおばちゃんにもらった銅貨で屋台で売っている菓子を買った。
 菓子と言っても大したものではない。
 干した果物とか、そんなものだ。
 といっても銅貨では、そんなにたくさんは買うことはできない。
 俺は、わずかな菓子を受け取ると家に戻った。
 菓子は、俺のためのものではない。
 チヒロにやるためのものだった。
 家から出られないチヒロにとっては、そのわずかな菓子が楽しみになっていた。
 俺が菓子をやるとチヒロの表情がぱぁっと明るくなる。
 「ありがとう、ロイド」
 このことはクルスには内緒だ。
 いや。
 たぶん、クルスのことだ。
 全てお見通しなのだろう。
 それでもわざわざ言うことでもない。
 チヒロは、今年で10歳になる。
 だが、とてもそうは見えない。
 ガリガリでチビだから、もっと幼く見える。
 俺は、冬の間一緒に寝てたから知っている。
 チヒロは、眠っているとき、時々、泣いていることを。
 いつもは強がっているが、やはりまだ子供だ。
 たまには甘やかしてやらないとな。
 クルスは、おそらく反対することだろうが。
 クルスは、知っているんだろうな。
 チヒロに待っている未来は、決して優しいものではない。
 マジックキャンセラーは、この世界では、破壊者だ。
 特にチヒロは、そうだ。
 チヒロがいるだけでその周囲の魔法が解呪されてしまう。
 チヒロは、魔法の火を扱うことができない。
 チヒロは、クルスが溜めておいてくれた水を使うし、火をおこしてでないと調理もできない。
 怪我をしても治癒の魔法も使えない。
 チヒロにとって世界は、冷酷だ。
 
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