異世界転生したものの全てを失った俺は、奈落で奴隷王子の騎士になる

トモモト ヨシユキ

文字の大きさ
上 下
4 / 85
第1章 奈落へ

1ー4 何でも屋

しおりを挟む
 1ー4 何でも屋

 それからのことはよく覚えていない。
 俺は、王都から命からがら逃げ出した。
 絶望しどこへともなく飛び続けた。
 もう、ダメだ。
 俺は、よろよろと空を飛びながら思っていた。
 俺は、もう終わりだ。
 俺は、東に向かって飛んでいった。
 そちらには、ドラグーン騎兵隊の連中も近づかない。
 広い魔の森が広がるその中心には、地底へと続く巨大な穴が開いていた。
 それは、魔界と呼ばれる場所だった。
 冒険者だってめったには近づくことがない。
 魔物や、魔族だけが住んでいる世界だった。
 俺は、魔界の上空まで飛んでいくとそこで力尽きて落下していった。
 魔界へ。
 落ちていきながら俺は、最後に青い空を見た。
 この世界の空は。
 こんなときにだって澄み渡り美しい。
 俺は、意識を手放していった。

 どこか。
 俺は、暖かい何かに包まれているのを感じていた。
 ああ。
 ここは、居心地がよくって、いい匂いがする。
 俺は、ゆっくりと目を開いた。
 「気がついた?」
 俺の目の前には、人間の子供らしきものがいた。
 らしきとかいうのは、その子供が見たこともないぐらいに薄汚れていたからだ。
 魔物とも、人とも見分けがつかない。
 「お前、誰だ?」
 俺は、子供の細い腕をつかんだ。
 その子供は、一瞬、びくっと体をこわばらせたが、すぐに俺の手を振り払ってそこから駆け去っていった。
 後ろ姿を見送りながら俺は、自分の両手を握りしめた。
 あれ?
 握った拳を開いて見つめる。
 俺の両手は、人間の手のように見えた。
 ちょっと鱗がはえているけど、人間の手にも見えなくもない。
 もしかして魔法が解けてる?
 俺は、がばっと起き上がると鏡を探した。
 だが、その薄暗くてカビ臭い部屋には何もなかった。
 俺は、まだ体が動かなくて這うようにして部屋のすみに置かれた瓶を覗き込んだ。
 そこには水が入っていた。
 揺れる水面に写った姿を見て俺は、歓喜した。
 そこには、人間だった頃の俺とほとんど変わらない姿が写し出されていた。
 ボサボサに伸びた黒髪に深い碧の瞳。
 なんだか知らんが俺にかけられた竜化の魔法が解かれていた。
 とはいえ、俺の額と頬には、鱗がはえていたけどな。
 それでも、嬉しかった。
 「気がついたようだな」
 部屋のドアが開いて大男が入ってきた。
 そいつは、灰色の髪に灰色の目をしたおっさんで、抜け目のなさげな様子をしていた。
 「俺は、何でも屋のクルス・ライザーだ。ここにいる間は、お前の世話をしてやることになっている」
 はい?
 俺が首を傾げているとクルスは、にやりと笑った。
 「さるお方の命で俺は、あんたを助けることになったんだ。感謝しろ」
 「さる、お方?」
 俺が問うとクルスは、困ったような顔をした。
 「いや、俺もよくは知らんが、なんでも旅の魔道師だとかいってたが・・お前とこの」
 クルスが首をしゃくった。
 「ガキをセットで欲しいとか言ってたな」
 俺は、ドアの影に隠れてこっちを見ている薄汚れたガキを見た。
 俺がこいつとセット?
 なんだそれ!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト

春音優月
BL
真面目でおとなしい性格の藤村歩夢は、武士と呼ばれているクラスメイトの大谷虎太郎に密かに片想いしている。 クラスではほとんど会話も交わさないのに、なぜか毎晩歩夢の夢に出てくる虎太郎。しかも夢の中での虎太郎は、歩夢を守る騎士で恋人だった。 夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト。夢と現実が交錯する片想いの行方は――。 2024.02.23〜02.27 イラスト:かもねさま

イケメン俳優は万年モブ役者の鬼門です

はねビト
BL
演技力には自信があるけれど、地味な役者の羽月眞也は、2年前に共演して以来、大人気イケメン俳優になった東城湊斗に懐かれていた。 自分にはない『華』のある東城に対するコンプレックスを抱えるものの、どうにも東城からのお願いには弱くて……。 ワンコ系年下イケメン俳優×地味顔モブ俳優の芸能人BL。 外伝完結、続編連載中です。

魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます

オカメ颯記
BL
田舎の王国出身のランドルフ・コンラートは、小さいころに自分を養子に出した実家に呼び戻される。行方不明になった兄弟の身代わりとなって、魔道学園に通ってほしいというのだ。 魔法なんて全く使えない抗議したものの、丸め込まれたランドルフはデリン大公家の公子ローレンスとして学園に復学することになる。無口でおとなしいという触れ込みの兄弟は、学園では悪役令息としてわがままにふるまっていた。顔も名前も知らない知人たちに囲まれて、因縁をつけられたり、王族を殴り倒したり。同室の相棒には偽物であることをすぐに看破されてしまうし、どうやって学園生活をおくればいいのか。混乱の中で、何の情報もないまま、王子たちの勢力争いに巻き込まれていく。

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

この噛み痕は、無効。

ことわ子
BL
執着強めのαで高校一年生の茜トキ×αアレルギーのβで高校三年生の品野千秋 α、β、Ωの三つの性が存在する現代で、品野千秋(しなのちあき)は一番人口が多いとされる平凡なβで、これまた平凡な高校三年生として暮らしていた。 いや、正しくは"平凡に暮らしたい"高校生として、自らを『αアレルギー』と自称するほど日々αを憎みながら生活していた。 千秋がαアレルギーになったのは幼少期のトラウマが原因だった。その時から千秋はαに対し強い拒否反応を示すようになり、わざわざαのいない高校へ進学するなど、徹底してαを避け続けた。 そんなある日、千秋は体育の授業中に熱中症で倒れてしまう。保健室で目を覚ますと、そこには親友の向田翔(むこうだかける)ともう一人、初めて見る下級生の男がいた。 その男と、トラウマの原因となった人物の顔が重なり千秋は混乱するが、男は千秋の混乱をよそに急に距離を詰めてくる。 「やっと見つけた」 男は誰もが見惚れる顔でそう言った。

処理中です...