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第16章 魔王
16ー11 二人
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16ー11 二人
そうしてわたしの女王就任の儀の日がやってきた。
多くの他国の王族たちが国を訪れていた。
メルロープ王国からは、セツ様がこられた。
再会を果たしたわたしたちは、少し気まずい雰囲気があった。
お互いに大人になった。
それでもあの頃の面影は確かにあった。
「まさか、カイラがフェンリルの姫だったとは」
セツ樣が複雑な表情を浮かべているのを見てわたしは、くすくすと笑った。
「たぶん一番驚いているのはわたし自身です」
「そうなの?」
セツ様は、からかうように言った。
「あの頃だって君は、すごい人だった。私は、いつも君の背中を追っていたよ」
わたしたちは、数年ぶりの再会を楽しんだ。
なぜ、セツ様が王座に就いたのか。
それは、きけなかった。
そして。
ルシーディア樣がどうなったのかも。
セツ様もルシーディア樣の話はしなかった。
おそらく問うべきではないのだろう。
マオとアルバがいろいろ調べてはいるようだったが、まだなんとも報告を受けてはいないところをみると、何かの政変があったというようなことはなさそうだ。
では、ルシーディア樣は、自ら玉座を手放されたのか?
わたしは、謁見の最後に一言だけ、セツ様に訊ねた。
「メルロープ王国の方々には、お変わりはありませんか?」
セツ様は、一瞬、どう答えたものか悩む表情を浮かべられたが、すぐに笑顔で答えられた。
「みな、変わってしまったよ、カイラ」
ああ。
わたしは、胸が熱くなるのを感じていた。
もう、あの頃のわたしたちではないのだ。
わたしは、それを寂しく思っていた。
わたしの幼年期は、もう終わったのだ。
そして。
わたしは、女王になる。
女王就任の儀の当日のこと。
わたしは、イーサ王国で一番立派な創生神の神殿において女王として戴冠した。
神殿から外へと出たときには、もう、わたしは、幼かったカイラではなかった。
暗黒大陸の雄、イーサ王国の女王イーシュアがここにいた。
わたしは、みなの熱狂の中、ゆっくりと神殿の階段を降りていった。
そのとき、一人の青年がわたしの前に現れた。
いったいどうやって警備をすり抜けたのか。
わたしは、ため息をついた。
シタールさんに文句を言わなくては。
そうわたしが思ったとき、青年が口を開いた。
「カイラ!」
わたしは、信じられない思いでその人を見た。
それは、平民の青年だった。
目がねをかけていて。
汚れてはいないが、地味な服装をした人物だった。
「ルシー?」
わたしが呟くようにきくと青年は頷いた。
「そうだ、僕だよ、カイラ」
ルシー。
わたしは、思わず涙ぐんだ。
ルシー。
それは、彼が夢を忘れなかったという証だった。
彼は、すべてを捨てて夢を叶えたのだろう。
「迎えにきたんだ」
ルシーは、わたしに告げた。
「一緒に行こう、カイラ」
「ルシー・・・」
わたしは。
彼の手をとりたかった。
だけど。
わたしは、首を振った。
「行けないわ、ルシー。わたしは、もう、この国の女王なのだから」
「そうか」
ルシーは、寂しげに微笑んだ。
わたしは。
ルシーの横をすり抜けて待っていた馬車へと乗り込んだ。
と。
マオが叫んだ。
「それでいいの?カイラ」
「マオ?」
わたしの後ろを付き従っていたマオは、馬車に乗らずにわたしに告げた。
「なんだって手に入るのにほんとに欲しいものが欲しいって言えないなんて変!」
マオの言葉にわたしは、一生で一度だけ。
このときだけ自分の気持ちを解放することを許そうと思った。
わたしは、馬車から手を伸ばした。
「ルシー!」
ルシーは、わたしの手をとった。
ルシーが乗り込むと馬車は滑るように走り出した。
「後悔するんじゃ?」
わたしがきくとルシーが答えた。
「いや。こうしなかったときに比べたらちっとも後悔なんでしないさ」
王城へ戻ったわたしは、国民たちに結婚を報告した。
イーサ王国の女王イーシュアは、平民の、それも人間の青年を王配に選んだ。
それは、幸せなことで。
長い長い間、語り継がれるだろう。
そうしてわたしの女王就任の儀の日がやってきた。
多くの他国の王族たちが国を訪れていた。
メルロープ王国からは、セツ様がこられた。
再会を果たしたわたしたちは、少し気まずい雰囲気があった。
お互いに大人になった。
それでもあの頃の面影は確かにあった。
「まさか、カイラがフェンリルの姫だったとは」
セツ樣が複雑な表情を浮かべているのを見てわたしは、くすくすと笑った。
「たぶん一番驚いているのはわたし自身です」
「そうなの?」
セツ様は、からかうように言った。
「あの頃だって君は、すごい人だった。私は、いつも君の背中を追っていたよ」
わたしたちは、数年ぶりの再会を楽しんだ。
なぜ、セツ様が王座に就いたのか。
それは、きけなかった。
そして。
ルシーディア樣がどうなったのかも。
セツ様もルシーディア樣の話はしなかった。
おそらく問うべきではないのだろう。
マオとアルバがいろいろ調べてはいるようだったが、まだなんとも報告を受けてはいないところをみると、何かの政変があったというようなことはなさそうだ。
では、ルシーディア樣は、自ら玉座を手放されたのか?
わたしは、謁見の最後に一言だけ、セツ様に訊ねた。
「メルロープ王国の方々には、お変わりはありませんか?」
セツ様は、一瞬、どう答えたものか悩む表情を浮かべられたが、すぐに笑顔で答えられた。
「みな、変わってしまったよ、カイラ」
ああ。
わたしは、胸が熱くなるのを感じていた。
もう、あの頃のわたしたちではないのだ。
わたしは、それを寂しく思っていた。
わたしの幼年期は、もう終わったのだ。
そして。
わたしは、女王になる。
女王就任の儀の当日のこと。
わたしは、イーサ王国で一番立派な創生神の神殿において女王として戴冠した。
神殿から外へと出たときには、もう、わたしは、幼かったカイラではなかった。
暗黒大陸の雄、イーサ王国の女王イーシュアがここにいた。
わたしは、みなの熱狂の中、ゆっくりと神殿の階段を降りていった。
そのとき、一人の青年がわたしの前に現れた。
いったいどうやって警備をすり抜けたのか。
わたしは、ため息をついた。
シタールさんに文句を言わなくては。
そうわたしが思ったとき、青年が口を開いた。
「カイラ!」
わたしは、信じられない思いでその人を見た。
それは、平民の青年だった。
目がねをかけていて。
汚れてはいないが、地味な服装をした人物だった。
「ルシー?」
わたしが呟くようにきくと青年は頷いた。
「そうだ、僕だよ、カイラ」
ルシー。
わたしは、思わず涙ぐんだ。
ルシー。
それは、彼が夢を忘れなかったという証だった。
彼は、すべてを捨てて夢を叶えたのだろう。
「迎えにきたんだ」
ルシーは、わたしに告げた。
「一緒に行こう、カイラ」
「ルシー・・・」
わたしは。
彼の手をとりたかった。
だけど。
わたしは、首を振った。
「行けないわ、ルシー。わたしは、もう、この国の女王なのだから」
「そうか」
ルシーは、寂しげに微笑んだ。
わたしは。
ルシーの横をすり抜けて待っていた馬車へと乗り込んだ。
と。
マオが叫んだ。
「それでいいの?カイラ」
「マオ?」
わたしの後ろを付き従っていたマオは、馬車に乗らずにわたしに告げた。
「なんだって手に入るのにほんとに欲しいものが欲しいって言えないなんて変!」
マオの言葉にわたしは、一生で一度だけ。
このときだけ自分の気持ちを解放することを許そうと思った。
わたしは、馬車から手を伸ばした。
「ルシー!」
ルシーは、わたしの手をとった。
ルシーが乗り込むと馬車は滑るように走り出した。
「後悔するんじゃ?」
わたしがきくとルシーが答えた。
「いや。こうしなかったときに比べたらちっとも後悔なんでしないさ」
王城へ戻ったわたしは、国民たちに結婚を報告した。
イーサ王国の女王イーシュアは、平民の、それも人間の青年を王配に選んだ。
それは、幸せなことで。
長い長い間、語り継がれるだろう。
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