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第16章 魔王

16ー1 王都ハクトレア

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 16ー1 王都ハクトレア

 わたしたちは、ハノーバー王国の援助もあり順調に王都であるハクトレアまで数日のうちに進軍した。
 シタールさんたち盗賊団の働きで魔王軍には物資も入っていなくて兵士たちは、疲弊していた。
 瘴気によって凶暴化している彼らも砦から持ってきた聖樹の枝の力で浄化されて戦意を失っていった。
 わたちたちが王都ハクトレアに入ったのは、夕方のことだった。
 かつて暗黒大陸一栄えていたといわれていた都市は、見る影もなく瘴気の渦に飲まれてどんよりと曇っていた。
 広い通りにはあちこちに倒れて動けなくなった人が横たわっているが、誰も彼らを助けようとするものはいなかった。
 歩けるものも敵軍であるわたしたちをぼんやりと眺めるだけで抵抗することもなかった。
 わたしたちは、通りを魔王国の王城へと進んでいった。
 腐敗の臭いが漂っていて。
 わたしは、眉をひそめる。
 「はやく街の人々のために治癒師を。それに食料も配布しないと」
 「はっ!すぐに手配します、イーシュア様」
 シタールさんとクロノフさんがわたしに礼をすると周囲にいた人たちが慌ただしく走り出した。
 そこでわたしは、はっと気づいた。
 いや!
 そこは、王太子、というか次期国王であるジェリコが命じなくてはいけないとこじゃ?
 わたしは、ジェリコの方を見た。
 彼はというとシタールさんの右腕として働いているようだし。
 わたしは、ちらっとジェリコの横についているルゥナの方を見た。
 でも、ルゥナは、かいがいしくジェリコの世話をするのに夢中でわたしの視線に気がつかない。
 いやいやいや!
 このままじゃ、この軍の総大将が下手したらわたしってことになりかねないんじゃ?
 わたしは、ぶんぶんと首を振った。
 それだけは、勘弁してほしい!
 わたしは、王城に入るとさっそく聖樹のあった場所へと向かった。
 黒く腐り落ちた聖樹の跡が残されている荒れ地にわたしは、膝をつくと持ってきていた聖樹の苗を植えた。
 土地は、瘴気で汚れていてぱさぱさに乾いている。
 とても苗が根付くようには思えない。
 わたしは。
 苗の根本を手のひらで叩いて固めながら呟いていた。
 「お願い、お願いだから、根付いて。お願い!」
 
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