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第12章 二人の聖女

12ー2 隷属の首輪

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 12ー2 隷属の首輪

 「棄権?」
 わたしたちは、顔を見合わせた。
 エラード様が続ける。
 「なんでもそのもう一人の子は、リータ様の従者でもあったらしいんだが、キルハ様との手合わせ中に事故にあったとかで。酷い怪我を負って学園も休学中らしいよ」
 「手合わせでそこまで酷い怪我を?」
 わたしたちは、みな、離れた席についているムスタファ王国の人々の方を見た。
 リータ様のそばには二コティマス様が座っているがその反対側にはキルハ様が座っている。
 なんだか険悪な雰囲気だ。
 セシリア様が悪い笑みを浮かべた。
 「どうやら向こうは一枚岩ではないようね」

 王家の主催した晩餐会が終わってわたしは、客間に戻った。
 部屋で待っていたマオがまとわりついてきた。
 「カイラ!遅かったじゃない!」
 「どうしたの?マオ」
 わたしが部屋付きのメイドさんに着ていたドレスを脱がしてもらっている周囲を走り回ってマオが急かしてくる。
 「早く、早く!ちょっと来てほしいの!」
 はい?
 わたしは、部屋着に着替えるとマオに促されるままに部屋から王城の庭へと出ていった。
 夜の庭は、あちこちに掲げられたかがり火で照らされて暗闇の中に花々が浮き上がるように咲いていて美しい。
 ほのかに漂う甘い香りは今が花盛りのクルシャの花だろうか。
 わたしは、マオの後ろについてゆっくりと歩いていた。
 しばらく行くと小さなあずまやがありそこに誰かの影があった。
 うん?
 わたしが身構えると同時にマオがぴょーんと飛び付いていく。
 「会いたかった、あなた」
 「私もだよ、かわいいマオ」
 それは、黒髪を長く伸ばした背の高い猫耳を持つ男だった。
 金色の瞳が闇の中でも輝いている。
 その男は、マオを抱いて撫でながらきいた。
 「あの人間は?」
 「あれは、わたしの相棒のカイラよ」
 男の腕の中でくてっと弛緩しきっているマオが答えた。
 「すごい力を持った精霊の姫君だから、きっとあたしたちの力になってくれるわ」
 「しかし」
 男は、陰りのある表情でマオを抱いたままわたしをうかがった。
 「たとえ精霊の姫だろうともあの女にはかなうまい」
 「あの女って?」
 わたしがきくと男は、答えた。
 「あの悪魔のような女に決まっているだろう。キルハ・ダグランディス。あの魔女のせいでわたしは!」
 なるほど。
 わたしは、マオを抱いた男の方へと歩み寄っていった。
 この男の首には首輪がはめられていた。
 それは、禁忌の魔道具である隷属の首輪だった。
 
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