婚約破棄から始まるとんでも異世界冒険譚～黒猫の騎士とポンコツ姫～

18 ダンジョンと奴隷と支配者の関係(2)

18-11 これから、始まる物語

               18ー11   これから、始まる物語

   「アル兄！」
   「メリッサ！油断したな！」
    ルーラがよろめきながらも体を起こすと、アル兄に向かって炎を吐きかけた。
   「やめろ！ルーラ！」
    俺は、とっさにアル兄をかばってルーラに俺の持つ最大火力の呪文『爆炎火流』を放った。
    「ぐあぁっ！」
    炎に包まれたルーラが悲鳴をあげた。
    崩れ落ちていくルーラの姿に、俺は、ただ呆然と立ち尽くしていた。
     「ルーラ・・師匠！」
     「メリッサ・・メル・・覚えておくがいい」
    身を焼かれながら、ルーラは、切れ切れに言葉を繋いだ。
    「退屈は、猫をも殺す・・お前にも、いつか、わかるときが来るだろう・・この悠久の時を生きることの恐ろしさが・・・」
    「ルーラ！」
    「さらばだ・・我が愛しき娘、リリシアスよ」
   「ルーラ！」
    爆ぜ飛ぶルーラの肉体の欠片から俺を守ったのは、クロだった。
    「クロ！」
    「例え、どんな苦しみが待っていようとも、俺がお前を守ってやる」
    クロが俺を抱き締めた。
   「この世界の全てからお前を守る。そのために、俺は、存在するんだ」
   
    崩れ落ちたダンジョンから生還した俺たちを迎えたのは、イヌとシャルさんだった。
    「メリッサぁっ！」
    駆け寄ってくるイヌを、俺は、抱き止めた。
   「シャル」
    ダンジョンから解放されたルドリーがシャルさんへと歩み寄っていった。
    「よかった、あなたが無事で」
     シャルさんの姿は、ゆっくりと薄れて消えていく。
   「会いたかった・・ただ１度だけ、あなたに」
   「ああ、シャル」
    ルドリーは、シャルさんの影を抱き締めた。
    「私も、だ」
   
      さようなら
   
      シャルさんは、ルドリーの腕の中で消滅した。
     「ええっ？」
     俺は、叫んだ。
     「どういうこと？」
     「シャルは、もう、ずいぶんと昔に死んでしまった。もう、何百年も前に、な」
    ルドリーが呟いた。
   「ただ、その魂のみになって、この世界に残っていたのだ」
   マジですか？

    そして。
    ルドリーによって、イヌにかけられていた呪いは、解かれた。
   それと同時に、驚くべき事実がイヌの口から語られた。
    「イヌは、命を持っていない。かわりに、別の命を持っている」
   「どういうことだ？」
    「つまり」
     ルドリーが説明してくれた。
    「この子の中にあるのは、この世界の支配者であるジェリコの魂なんだよ」
    「じゃあ、このガキを殺せば、世界の王になれるということか？」
   アレイアスがルドリーに訊ねた。
   ルドリーは、頷いた。
   「マジかよ」
   「どうするね？メリッサ」
    ルドリーが俺に訊ねた。
   「君なら世界の王にでもなれると思うんだが」
   「無理無理！」
    俺は、頭を振った。
   「俺には、イヌを殺したりできないし！」
   「では、どうするつもりだ？メリッサ」
    はい？
   俺は、アル兄、それにラクアス、アレイアス、イヌ、そして、クロのことを見回した。
    俺がこれからどうするかって？
   「とにかく、学園に戻らないとな」
   俺は、言った。
    「それにばあちゃんにルーラのこと聞かせてもらわなきゃならないしな」
    それに。
   俺は、クロを見つめて微笑んだ。
   「要するに、世界の王様なんてやってる暇はないんだよ！」
   「そうか」
    ルドリーは、ふぅっと吐息をついた。
   「なら、君の望む未来を生きるがいい、メリッサ」
    「ああ」
    俺は、にっと笑った。
    「あったりまえだ！」
     これからも、きっと波瀾万丈の人生なんだろうけど、信じられる友がいるし、仲間もいる。
   それに。
   少し頼りないけど、俺のことを守ってくれる気だけは、世界一の騎士様もいることさしな。
   きっと、何があっても、大丈夫！
   俺の旅は、まだ、始まったばかりだ！