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13 デビュタントと5人の男たち

13-3 デビュタントの夜

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         13ー3    デビュタントの夜

    ナノと子犬たちは、じいちゃんの知り合いのところにしばらく預けることになった。
   テイムされたフェンリルが子供を産むことは、とても珍しいことなんだそうだ。
   俺が大人になったことは、じいちゃんから父様や母様に伝えられて、2人は、俺を心配してわざわざ俺の社交界デビューというか復帰にあわせて王都に来てくれるそうだ。
    前のことがあったから、少し不安だったんだが、なんとなく安心できたような気がする。
   こんな風にして時は過ぎていって、いよいよ俺の社交界デビューの日がやってきた。
   俺は、この日のためにあつらえたラベンダー色のドレスを纏い髪をサイに結ってもらった。
    サイは、リボンを髪に編み込んで美しく髪を結い上げてくれた。
   俺をエスコートしてくれることになっているアル兄が家へと迎えにきてくれたときには、すっかり俺は、別人のようになっていた。
    馬子にも衣装だな。
   サイは、俺の唇に淡い色の紅を塗ってくれた。
   「あなたは、愛と美の女神ウルドの加護を持つ方です。自信を持って。あなたは、きっと今夜1番、美しい方です」
    俺を見てアル兄は、目を見張っていた。
   「なんて君は綺麗なんだ、メリッサ」
   「ありがと、アル兄」
   俺は、アル兄にそっとあるお願い事を囁いた。アル兄は、顔を少ししかめたけど、すぐに頷いてくれた。
    俺とアル兄とクロは、アル兄の『アルとメル商会』の馬車で会場へと向かった。
    今夜のパーティーは、イーゼル王国の宰相の屋敷のパーティーだった。
   俺は、ガーランド公国の王女として招かれたのだが、今夜、俺をエスコートしてくれたのは、アル兄と、それと余りのクロだった。
   2人に両手を引かれて、俺は、会場へと続く階段を降りていった。
    今をときめく『アルとメル商会』の会長であるアルム・コンラッドと異国の貴族であるクロムウェル・アートラムに手をひかれて歩く俺に人々は、釘付けだった。
    俺は、2人に手をとられたままパーティー会場の中央へと向かった。
   人々は、俺を遠巻きにして見つめていた。
   しばらくして、アル兄が俺に言った。
   「何か、飲み物をもらってくるよ、メリッサ」
   「うん」
   俺とクロは、取り残されて黙り込んでいた。
   相変わらず、気まずい雰囲気だった。
  
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