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9 魔王と聖者と浄化の旅(3)

9ー2 約束

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 9ー2 約束

 「そ、それは」
 僕は、言葉をつまらせながらもなんとかイグルトを納得させるためにと頭を絞った。
 「約束、したので」
 「約束?」
 「はい、約束です」
 僕は、必死で言葉を紡いだ。
 「かつて、一夜だけ共に過ごす誉れを与えていただいた折に約束したのです。いつか、聖者様が浄化の旅に出られたときにはお供してお力になる、と」
 これは、ほんとのことだ。
 ずいぶん前のことだったが、彼と学園の授業でダンジョン攻略をした際に二人で話したときに約束した。
 その時、すでにヤマトは、聖者として認可されていたし、僕は、ヤマトにいったのだ。
 『いつか浄化の旅に出るときは、僕が一緒に行ってヤマトの力になるよ』
 あれからいろんなことがあったけど、僕は、まだあのときの約束を忘れてはいなかった。
 「約束、か」
 イグルトが訊ねた。
 「なぜ、娼婦のふりをして身を売って聖者に近づいたのだ?正直に申し出ればよかったのではないのか?」
 「それは」
 僕は、冷や汗が流れていくのを感じていた。
 「実は、聖者様とは少し前からその、ケンカしていて」
 「ケンカ、だと?」
 イグルトに問われて僕は、全てをあきらめた。
 終わった。
 もう、だめだ。
 僕は、最後に全てを打ち明けることにした。
 ヤマトにはめられて王都を追放されたこと。
 そして、罠にはめられてヤマトに蹂躙されたこと。
 ただ、ロイたちのことだけは話さなかった。
 僕は、話すうちに涙が溢れてきて。
 いつしか、泣きながら訴えていた。
 「死ぬ前にせめて、一目ヤマトに会わせてください」
 「なるほどな、あの聖者殿がお前を陥れたとはな」
 イグルトが興味深げに僕のことを見下ろしていた。
 「で?聖者殿と再会してどうするつもりだ?ラムよ」
 「僕、は」
 僕は、ほぅと吐息をついた。
 「ただ、僕は、ヤマトに会いたくて。会ってどうするとかそんなことは考えてなかったです。ただ、会いたかった」
 「ふむ」
 イグルトが何やら考えていたが、頷くと声を発した。
 「ジーター!」
 「はっ!ここに」
 どこからかすっと黒い影が現れた。
 イグルトは、その影に命令した。
 「これから半時ほどの間、人払いせよ」
 「御意」
 頷くとジーターはアリシアさんへ懐から大きな革袋を取り出して手渡した。
 「アリシア、この者は、イグルト様が買い取られる。この者のことは、ここから出たら忘れるように」
 「は、はい!」
 アリシアさんがひれ伏した。
 ジーターは、アリシアさんを立たせると二人で部屋から出ていった。
 部屋の中にはイグルトと僕の二人だけが残された。
 
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