悪役令息物語～呪われた悪役令息は、追放先でスパダリたちに愛欲を注がれる～

6 婚姻という呪い

6ー10 選べない！

　６ー10　選べない！

　「なんだって？」
　ロイが驚いた表情で僕を見た。
　僕は、もう一度、繰り返した。
　「僕は、あなたたちとは結婚できない」
　「なぜだ？ラムダ」
　ロイがすぅっと無表情になった。
　僕は、背筋が冷たくなるのを感じていた。
　こんなロイは、初めて見る。
　僕は、声が震えるのを押さえられなかったが、なんとか言葉をついだ。
　「僕・・・自分がわからなくって」
　僕は、いつしか涙が込み上げてくるのを止められなかった。
　「僕、僕、ロイが、好き、だ」
　僕は、泣きながら告げた。
　「だけど、ディダルのことも、好きかもしれないし。それに・・・」
　僕は、しゃくりあげながら続けた。
　「同じように、ヤマトのことも・・僕は、どうしてもヤマトのこと忘れられそうにないんだ」
　「ラムダ？」
　「好き、なんだ」
　僕は、泣きながらロイに打ち明けた。
　「僕は、みんなのこと好きなのと同じようにヤマトのことも、好き、なんだ」
　「ラムダ」
　ロイが立ち上がると僕の側へと歩みよってきた。
　「泣くな、ラムダ」
　「ロイ・・・」
　ロイの冷たい指先がそっと僕のことを涙を拭った。
　僕は、ロイの優しさに胸が痛かった。
　こんなにも美しくって、強くて、優しくて。
　僕は、ロイのことが好きだ。
　たぶん、普通にロイとディダルとヤマトの中から誰か１人を選べと言われたら間違いなくロイを選ぶに違いない。
　だけど。
　生涯を共に過ごす番を選ぶとなると、僕は、この中から誰か１人を選ぶことなんてできそうになかった。
　みんな、好き。
　まあ、ディダルは、なんかちょっと弟みたいな感じだけどな。
　でも、みんな、変わりなく好きだ。
　それが愛かどうかは、僕にはわからないけど。
　それでも、離れたくない。
　ただ。
　ヤマトは、特別なんだ。
　恋しくて、愛おしくて、憎い。
　僕のことを初めての男。
　「僕は、もう、よくわからなくなっちゃって」
　僕は、ロイに懸命に訴えた。
　「もう、頭がぐちゃぐちゃで。みんな、好きだけど、でも、誰か１人を選べって言われたら選べないし。でも、ヤマトは・・あいつは、なんていうか、僕には、あいつも大切な人、なんだ」
　「あんな目にあわされたというのに？」
　ロイが低い声で僕に訊ねた。
　「その上、無理やり孕まされたというのに、か？」
　「ロイ」
　僕は、ふるふると頭を振った。
　「僕には、もう、よくわからなくって。自分で自分のこと、もうわからなくって。ただ、誰ももう、失いたくない」
　「ラムダ」
　ロイがはぁっと深いため息をついた。