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5 竜人族の里

5ー1 出奔

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 5ー1 出奔

 僕は、ロイのメイソン辺境伯の屋敷を出ることにした。
 僕とメイソン辺境伯の婚姻の儀からしばらく僕は、彼と顔を合わせることがなかった。
 なんでも国境の町に魔物の大群が出たとのことで配下の飛竜騎士団と共に退治に出掛けているらしい。
 僕は、彼の留守中に逃げ出すようにここを去ることを少しだけ申し訳なく思っていた。
 でも。
 このままだと僕は、暗黒神の神子にされてしまいそうだしな。
 それでなくてもメイソン辺境伯には、いろいろと迷惑をかけているのだし、ここで身を引かなくては永遠に引けなくなるかもしれない。
 僕は、キーンと二人で早朝、まだ明けきらないうちにメイソン辺境伯の屋敷から出発した。
 といってもどこに行けばいいのやら。
 僕は、とりあえず元々の目的地である魔の森の近くにあるあのボロ家を目指すことにした。
 この季節の早朝は、寒かった。
 もうすぐ冬が来る。
 僕とキーンは、自然と無口になっていった。
 丸1日歩き続けてやっと僕たちは、当初住む予定の場所だった家へとたどり着いた。
 そこは、森の果たなどではなかった。
 すっかり森の中だ。
 おそらく人も通わぬ僻地だった。
 でも、僕は、そこが気に入っていた。
 もとはボロボロだった家も職人さんたちがきちんと修理してくれたためにわりと小綺麗な山小屋という風になっていた。
 新しい木の芳しい香がしていた。
 僕は、自分の荷物を部屋へと運ぶと木漏れ日の差し込んでいるリビングのソファに腰をおろした。
 キーンがすかさず僕に暖かいお茶を入れたカップを差し出した。
 「すっかり修理されてますね、ラムダ様」
 キーンは、自分もカップを手にソファに腰を降ろすとほぅっとため息をついた。
 「本当は、ここの修繕費も僕たち、払えなかったんですよね」
 そう。
 この家の修理費用は、すべて婚礼の祝いとかいってメイソン辺境伯が立て替えてくれていた。
 「いつか、必ず、メイソン辺境伯にお返しするさ」
 僕は、お茶を飲みながらキーンに応じた。
 キーンは、不安げに僕を伺った。
 「どうやってですか?ラムダ様。正直、もう、生活費も残ってませんよ。このお茶もメイソン辺境伯のお屋敷から拝借してきたものですし、カップだって。悪いことは言いません。はやくロイダール様のもとに戻りましょう」
 
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