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5 戦争の影
5ー11 小エルフ
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5ー11 小エルフ
わたしは、気絶した小人を蔓草の蔓でぐるぐる巻きにしてギルさんの屋敷へとつれ戻った。
一緒に捕まっていたヒゲトガリネズミは、蔦をといて逃がしてやった。
だけど、律儀なのか、ネズミは、わたしの後ろをついてとことこと歩いてきた。
朝帰りしたわたしをララ様とルーシー様が玄関で待ち構えていたが、この小人のお土産を見ると二人とも目尻を下げた。
「まあ、よくできた人形ですこと!」
「可愛らしいですわ!」
わたしは、ギルさんの家のリビングのテーブルの上に小人を寝かせるとスプーンで一滴水を垂らしてやった。
頭から水をかけられてびくっと小人は目を覚ました。
「気がついた?」
小人は怯えた様子でわたしたちを見上げて震えている。
が、気丈な性格なのだろう、小人は、わたしをきっと睨み付けると叫んだ。
「殺すなら、はやく殺せ!」
わたしを睨んでいる小人の周囲を灰色の小さなヒゲトガリネズミが心配そうにうろうろとしている。
ほんとに、このネズミは、忠義心の塊のようなやつだな。
「これは、小エルフだな」
クルツさんが小人に比べると丸太並みの太さのある指先でテーブルの上の小人をつついた。
わたしは、クルツさんを見上げた。
「小エルフ?妖精とかではないのですか?」
「妖精は、神話の中の生き物だろう」
クルツさんは、わたしに説明してくれた。
「これは、間違いなく小エルフだ。しかし、小エルフは、もっと南方の森にすんでいる部族のはずだ。なんで、こんな北方にいるんだ?」
「南方?」
「ああ」
クルツさんは頷いた。
「ずいぶん前にヴィトゲンシュタット王国にいったときに見かけたことがある」
「ヴィトゲンシュタット?」
ララ様とルーシー様の表情がこわばる。
それも仕方のないことだった。
ヴィトゲンシュタット王国とこのシスナブル王国は、もう長い間戦争状態なのだ。
お互いに流行り病をばらまいているといって争っているのだった。
「もしかしてこの小人の仲間たちが『石化の病』をばらまいているのでしょうか?」
ルーシー様が訊ねるとクルツさんが頭を振った。
「それは違うでしょうな。こいつらだって『石化の病』の犠牲者ですよ」
クルツさんが小人の耳を指し示した。
小人の耳は、片方が欠けていた。
おそらく『石化の病』にかかって自ら切り落としたのだろう。
わたしは、気絶した小人を蔓草の蔓でぐるぐる巻きにしてギルさんの屋敷へとつれ戻った。
一緒に捕まっていたヒゲトガリネズミは、蔦をといて逃がしてやった。
だけど、律儀なのか、ネズミは、わたしの後ろをついてとことこと歩いてきた。
朝帰りしたわたしをララ様とルーシー様が玄関で待ち構えていたが、この小人のお土産を見ると二人とも目尻を下げた。
「まあ、よくできた人形ですこと!」
「可愛らしいですわ!」
わたしは、ギルさんの家のリビングのテーブルの上に小人を寝かせるとスプーンで一滴水を垂らしてやった。
頭から水をかけられてびくっと小人は目を覚ました。
「気がついた?」
小人は怯えた様子でわたしたちを見上げて震えている。
が、気丈な性格なのだろう、小人は、わたしをきっと睨み付けると叫んだ。
「殺すなら、はやく殺せ!」
わたしを睨んでいる小人の周囲を灰色の小さなヒゲトガリネズミが心配そうにうろうろとしている。
ほんとに、このネズミは、忠義心の塊のようなやつだな。
「これは、小エルフだな」
クルツさんが小人に比べると丸太並みの太さのある指先でテーブルの上の小人をつついた。
わたしは、クルツさんを見上げた。
「小エルフ?妖精とかではないのですか?」
「妖精は、神話の中の生き物だろう」
クルツさんは、わたしに説明してくれた。
「これは、間違いなく小エルフだ。しかし、小エルフは、もっと南方の森にすんでいる部族のはずだ。なんで、こんな北方にいるんだ?」
「南方?」
「ああ」
クルツさんは頷いた。
「ずいぶん前にヴィトゲンシュタット王国にいったときに見かけたことがある」
「ヴィトゲンシュタット?」
ララ様とルーシー様の表情がこわばる。
それも仕方のないことだった。
ヴィトゲンシュタット王国とこのシスナブル王国は、もう長い間戦争状態なのだ。
お互いに流行り病をばらまいているといって争っているのだった。
「もしかしてこの小人の仲間たちが『石化の病』をばらまいているのでしょうか?」
ルーシー様が訊ねるとクルツさんが頭を振った。
「それは違うでしょうな。こいつらだって『石化の病』の犠牲者ですよ」
クルツさんが小人の耳を指し示した。
小人の耳は、片方が欠けていた。
おそらく『石化の病』にかかって自ら切り落としたのだろう。
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