魔女見習いは、スパダリたちに溺愛される～乙女ゲー世界のモブなんですが、なぜかヒロインポジなんですけど～

1 ヒロイン逃走！

1ー7 新しい家族

　１ー７　新しい家族

　王都にあるアルトグレイス侯爵のタウンハウスは、まるで王宮かというぐらい立派なものだった。
　わたしは、アルトグレイス侯爵に豪華で広々とした、なんか乙女チックなお部屋へと通された。
　「ここが君の部屋だよ、アリシア」
　マジですか？
　部屋は、あちこち美しいレースが飾られていてまるでお姫様のための部屋という感じだった。
　家具も、アンティーク調だがなんだかかわいらしいし。
　「私が用意しましたの。気に入ってくれましたか？」
　そう言ったのは、アルトグレイス侯爵の奥さまであるアリスティア様だった。
　アリスティア様は、美しい金の髪をした乙女がみな夢見るだろうようなすみれ色の瞳をした本物のお姫様だった。
　わたしは、まだ彼女の真意がわからずとまどっていた。
　いわば夫の隠し子であるわたしをなぜ、こんなにもてなしてくれるのか？
　「アリシアは、なれない馬車の旅で疲れているんだよ、アリス。少し休ませてやらなくては」
　アルトグレイス侯爵の言葉に奥さまは、心底残念そうな顔をしていたが引き下がってくれた。
　わたしは、豪華な部屋に一人残されて呆然としていた。
　何がなんでこうなった？
　だが、わたしには、途方にくれている暇などなかった。
　翌日からわたしは、成人の儀式と魔法学園の入学の準備に大忙しだった。
　午前中は、貴族としての素養を学び、午後からは、家庭教師について勉強。
　その合間に仕立て屋がきて身体中を採寸されたり、ダンスの練習をしたり。
　ほんとにホームシックになる間もない。
　わたしがお茶の時間にふとため息をつくとアリスティア様が心配そうに訊ねた。
　「どうしたの？アリシア。ため息なんて」
　「い、いえ、その」
　わたしがいいよどんでいると隣からロドニーが口を挟んだ。
　「母上、姉上は、お疲れなのですよ」
　ロドニーは、わたしと同い年の腹違いの弟だった。
　母であるアリスティア様とよく似た優しげな美少年で、毎日、わたしの勉強やらなんやらに付き合って嫌な顔ひとつしないいい人だ。
　「無理もないわね。少し、詰め込みすぎてるから。でも、時間がなくって。ごめんなさいね、アリシア」
　アリスティア様が申し訳なさげに言うのでわたしは、慌ててしまった。
　「いえ、そんな。わたしこと物覚えがよくなくってご迷惑を」
　「そんなことはありませんよ、姉上」
　ロドニーがにっこりと微笑んだ。
　「家庭教師のイオニア先生も言ってましたよ。姉上は、天才の上に努力家だって」
　「そうなの？お母様も鼻が高いわ」
　アリスティア様が嬉しげに笑った。
　なんだろう。
　わたしは、無言で微笑みながら思っていた。
　この人たちに悪意はない。
　だが。
　こんなに優しくされるわけがないのだ。
　なにしろ夫の浮気相手の子供なのだから。
　「あの・・みなさんは、わたしが憎くはないのですか？」
　わたしは、思いきってきいてみた。
　すると、アリスティア様とロドニ－は、しばらく押し黙ってから答えた。
　「そうね。ほんとなら私たち、あなたを嫌うべきなのかもしれないわね。でもあなたは、とってもいい子だし、私、娘も欲しいと思っていたのよ」
　アリスティア様が優しくそう答えた。
　ロドニ－も頷く。
　「確かに、最初は、いい気がしなかったですけど、アリシアは、とっても頑張りやさんだし、いい人なので。それに私も兄弟が欲しかったし」
　わたしは、二人にいわれてなぜか涙が溢れてくるのを堪えられなかった。
　二人は、そんなわたしをあわあわしながら慰めてくれたのだった。