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1 ヒロイン逃走!

1ー5 成人の儀式

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 1ー5 成人の儀式

 わたしがうっすらと前世の記憶を思い出してからもこの辺境でののんびりとした生活に変化はなかった。
 オルトは、相変わらずかわいい弟みたいだったし、町の人たちは森には近づこうとはしなかった。
 いつからかオルトは、少し森から距離をとるようになっていた。
 以前は、よくなついたかわいい子犬みたいだったけどあの事件以来、なんだか少しだけ変わったような気がする。
 どこがどうとかは、わからない。
 エミリアおばあ様にきいたら、おばあ様は意味ありげに微笑んだ。
 「男の子は、急に男になっちゃうことがあるからねぇ」
 なんじゃそりゃ?
 とにかくそんな穏やかな毎日がずっと続くのだとわたしは、信じていたのだ。
 それが失われるときが来るとも知らずに。
 この世界では、14歳になると成人と認められ、教会で成人の儀式をする。
 その年に14歳になる者がみな教会に集められて神託を与えられるのだ。
 だが注目するべきは、そこではない。
 成人の儀式のときに結婚の約束をする者が多い。
 わたしは、儀式が近づくにつれて落ち着かなくなっていた。
 オルトに正式に結婚を申し込まれる予感があったのだ。
 とはいえ、オルトは、まったくそんな様子もみせてなかったし、わたしたちは、子供の頃からの婚約者同士だ。
 いまさら結婚の申し込みもないのかもしれない。
 でも。
 町の人々は、相変わらずわたしを辺境伯の隠し子だと思っていたし、もともとが身分が違いすぎる。
 きっと、なんらかの動きはあるだろう。
 わたしは、儀式の日が近づくにつれて胸が高鳴っていくのを感じていた。
 成人の儀式が過ぎればもう、今までみたいにオルトに会うことは許されなくなる。
 もう、子供ではないのだから二人っきりで遊んだりすることはスキャンダルになるのだ。
 特にわたしは、そうだった。
 お母様が高級娼婦だったからといって町の人々のわたしをみる目は、厳しかった。
 わたしもまたそうなるのであろうという好奇の視線や、軽蔑の言葉がわたしの耳にも入ってくるぐらいだった。
 
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