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1 ヒロイン逃走!

1ー1 別れ

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 1ー1 別れ

 わたしの人生は、齢8歳にして終わった。
 思わぬことで自分が『流れ人』であることがわかったのだが、わたしは、そのことをエミリアおばあ様にも話さなかった。
 『流れ人』は、特別だ。
 『流れ人』は、神の子とされ女神の教団に保護され教会の子とならねばならない。
 わたしは、エミリアおばあ様と離れたくなかった。
 エミリアおばあ様は、辺境の森で暮らす魔女だ。
 まだ幼い頃、わたしが魔女になりたくないといって泣くと、おばあ様はわたしをいさめた。
 魔女には、なるものではない。
 魔女とは、血なのだ、とエミリアおばあ様は言った。
 魔女の家に生まれた子は、自然と魔女になる。
 だけど、わたしのお母様は、魔女になることを拒んだ。
 お母様は、キラキラしたものに憧れて幸せを求めて王都へと出ていった。
 だが、田舎者の少女に都会は冷たかった。
 でもお母様は、運がよかった。
 エミリアおばあ様のもとで学んだ薬草の知識を使って薬屋の下働きになったお母様は、そこで秘密の薬を売るようになった。
 それは、魔女の作る薬だ。
 想い人を振り向かせるための薬やら、恋の媚薬とかの怪しげな薬を隠れて売る内にお母様は、貴族やら商人やらを相手にする娼婦になっていた。
 いわゆる高級娼婦というやつだ。
 わたしは、物心ついた頃からずっとお母様と一緒に男たちの家を転々としていた。
 娼婦の連れ子だ。
 どこでもいい顔はされず、中にはわたしのことをひどくいじめる人たちもいた。
 だから、お母様は、わたしを遠く離れた辺境で暮らすエミリアおばあ様に預けることにしたのだ。
 別れの日、お母様は、わたしに青い石のついたペンダントを渡してそっと囁いた。
 「これは、あなたの本当のお父様のくださったものよ、アリシア」
 「本当のお父様?」
 「そうよ」
 お母様は、とっても自慢げにわたしに話した。
 「わたしが愛したただ一人の男、よ」
 そのときわたしには、その言葉の意味はわからなかった。
 ただ、そう言ったお母様がとっても美しくって。
 それがわたしの記憶に残っている最後のお母様の姿になった。
 お母様は、わたしをエミリアおばあ様に預けて王都に去った数年後に流行り病にかかって死んでしまった。
 
 
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