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0ー4 わたしの望み

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 0ー4 わたしの望み

 誤解しないでほしい。
 別にオルトが嫌いなわけではない。
 それどころか、わたしは、オルトのことが好きだった。
 だけど、オルトを主人とは思えない。
 わたしは、というかすべての魔女は、夢をみている。
 いつか素敵な主人を得ることを。
 優しくて、強くて、美形のスパダリご主人様を見つけたい。
 それが魔女にとってのちょっとした憧れなのだ。
 それが。
 オルトがわたしの伴侶?
 同い年の幼馴染みであるオルトは、わたしにとっては、とってもかわいい弟のような存在だった。
 というか、もしかしたらだけど本当に弟かもしれないし。
 オルトのお父様とわたしのお母様は、昔、うんと昔だけど恋人同士だったのだという。
 そのせいで実の父親の名のわからないわたしのことを町の人々はオルトの父の隠し子だと噂していた。
 血の繋がった弟と伴侶となるなんていくら魔女でもありえないことだった。
 それは、獣の行いとされていた。
 「わたしも獣になっちゃうの?」
 泣きじゃくるわたしにエミリアおばあ様は、優しく微笑みかけた。
 「あなたは、オルトの父である人の子ではないわ。安心なさい、アリシア。あなたのお父様は」
 そこで8歳のわたしの記憶はとぎれている。
 ただ、怯えて震えていたけれどわたしを懸命に救おうとしてくれたオルトの強い意思を秘めた薄茶色の瞳だけは、忘れることなく今でもしっかりと覚えている。
 氷の中に落ちたわたしと同じくらい冷えきっていたオルトの唇の感触も。

 というわけでわたしは、突然、婚約することになった。
 オルトのお父様は、遠い戦場にいたので手紙でエミリアおばあ様がこの度のことを伝えたらしい。
 オルトのお父様は、とても驚いていたようだったけれど、すんなりとわたしのことを受け入れた。
 オルトは、というと。
 あの日以来、森に近づくことは確実に減っていた。
 だから、わたしは、てっきりオルトに嫌われてしまったのだろうと思っていた。
 あんなことがあってオルトの心にもキズがついてしまったのだろう。
 そんなことよりもわたしには、考えなくてはならないことが山ほどあった。
 『流れ人』であることとか。
 だけど、前世があるといってもあまりはっきりと覚えているわけではない。
 たぶん、なんの害もないのに違いない。
 わたしは、このことを自分の胸の内だけに納めておくことにした。
 だって、魔女であるってだけでも十分特殊なのに、このうえ特別にはなりたくなかった。
 わたしは、このままこの辺境の地でのんびりと暮らしたい。
 それがわたしのたった一つの望みだった。
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