4 / 105
0 プロローグ
0ー4 わたしの望み
しおりを挟む
0ー4 わたしの望み
誤解しないでほしい。
別にオルトが嫌いなわけではない。
それどころか、わたしは、オルトのことが好きだった。
だけど、オルトを主人とは思えない。
わたしは、というかすべての魔女は、夢をみている。
いつか素敵な主人を得ることを。
優しくて、強くて、美形のスパダリご主人様を見つけたい。
それが魔女にとってのちょっとした憧れなのだ。
それが。
オルトがわたしの伴侶?
同い年の幼馴染みであるオルトは、わたしにとっては、とってもかわいい弟のような存在だった。
というか、もしかしたらだけど本当に弟かもしれないし。
オルトのお父様とわたしのお母様は、昔、うんと昔だけど恋人同士だったのだという。
そのせいで実の父親の名のわからないわたしのことを町の人々はオルトの父の隠し子だと噂していた。
血の繋がった弟と伴侶となるなんていくら魔女でもありえないことだった。
それは、獣の行いとされていた。
「わたしも獣になっちゃうの?」
泣きじゃくるわたしにエミリアおばあ様は、優しく微笑みかけた。
「あなたは、オルトの父である人の子ではないわ。安心なさい、アリシア。あなたのお父様は」
そこで8歳のわたしの記憶はとぎれている。
ただ、怯えて震えていたけれどわたしを懸命に救おうとしてくれたオルトの強い意思を秘めた薄茶色の瞳だけは、忘れることなく今でもしっかりと覚えている。
氷の中に落ちたわたしと同じくらい冷えきっていたオルトの唇の感触も。
というわけでわたしは、突然、婚約することになった。
オルトのお父様は、遠い戦場にいたので手紙でエミリアおばあ様がこの度のことを伝えたらしい。
オルトのお父様は、とても驚いていたようだったけれど、すんなりとわたしのことを受け入れた。
オルトは、というと。
あの日以来、森に近づくことは確実に減っていた。
だから、わたしは、てっきりオルトに嫌われてしまったのだろうと思っていた。
あんなことがあってオルトの心にもキズがついてしまったのだろう。
そんなことよりもわたしには、考えなくてはならないことが山ほどあった。
『流れ人』であることとか。
だけど、前世があるといってもあまりはっきりと覚えているわけではない。
たぶん、なんの害もないのに違いない。
わたしは、このことを自分の胸の内だけに納めておくことにした。
だって、魔女であるってだけでも十分特殊なのに、このうえ特別にはなりたくなかった。
わたしは、このままこの辺境の地でのんびりと暮らしたい。
それがわたしのたった一つの望みだった。
誤解しないでほしい。
別にオルトが嫌いなわけではない。
それどころか、わたしは、オルトのことが好きだった。
だけど、オルトを主人とは思えない。
わたしは、というかすべての魔女は、夢をみている。
いつか素敵な主人を得ることを。
優しくて、強くて、美形のスパダリご主人様を見つけたい。
それが魔女にとってのちょっとした憧れなのだ。
それが。
オルトがわたしの伴侶?
同い年の幼馴染みであるオルトは、わたしにとっては、とってもかわいい弟のような存在だった。
というか、もしかしたらだけど本当に弟かもしれないし。
オルトのお父様とわたしのお母様は、昔、うんと昔だけど恋人同士だったのだという。
そのせいで実の父親の名のわからないわたしのことを町の人々はオルトの父の隠し子だと噂していた。
血の繋がった弟と伴侶となるなんていくら魔女でもありえないことだった。
それは、獣の行いとされていた。
「わたしも獣になっちゃうの?」
泣きじゃくるわたしにエミリアおばあ様は、優しく微笑みかけた。
「あなたは、オルトの父である人の子ではないわ。安心なさい、アリシア。あなたのお父様は」
そこで8歳のわたしの記憶はとぎれている。
ただ、怯えて震えていたけれどわたしを懸命に救おうとしてくれたオルトの強い意思を秘めた薄茶色の瞳だけは、忘れることなく今でもしっかりと覚えている。
氷の中に落ちたわたしと同じくらい冷えきっていたオルトの唇の感触も。
というわけでわたしは、突然、婚約することになった。
オルトのお父様は、遠い戦場にいたので手紙でエミリアおばあ様がこの度のことを伝えたらしい。
オルトのお父様は、とても驚いていたようだったけれど、すんなりとわたしのことを受け入れた。
オルトは、というと。
あの日以来、森に近づくことは確実に減っていた。
だから、わたしは、てっきりオルトに嫌われてしまったのだろうと思っていた。
あんなことがあってオルトの心にもキズがついてしまったのだろう。
そんなことよりもわたしには、考えなくてはならないことが山ほどあった。
『流れ人』であることとか。
だけど、前世があるといってもあまりはっきりと覚えているわけではない。
たぶん、なんの害もないのに違いない。
わたしは、このことを自分の胸の内だけに納めておくことにした。
だって、魔女であるってだけでも十分特殊なのに、このうえ特別にはなりたくなかった。
わたしは、このままこの辺境の地でのんびりと暮らしたい。
それがわたしのたった一つの望みだった。
15
お気に入りに追加
268
あなたにおすすめの小説
護国の鳥
凪子
ファンタジー
異世界×士官学校×サスペンス!!
サイクロイド士官学校はエスペラント帝国北西にある、国内最高峰の名門校である。
周囲を海に囲われた孤島を学び舎とするのは、十五歳の選りすぐりの少年達だった。
首席の問題児と呼ばれる美貌の少年ルート、天真爛漫で無邪気な子供フィン、軽薄で余裕綽々のレッド、大貴族の令息ユリシス。
同じ班に編成された彼らは、教官のルベリエや医務官のラグランジュ達と共に、士官候補生としての苛酷な訓練生活を送っていた。
外の世界から厳重に隔離され、治外法権下に置かれているサイクロイドでは、生徒の死すら明るみに出ることはない。
ある日同級生の突然死を目の当たりにし、ユリシスは不審を抱く。
校内に潜む闇と秘められた事実に近づいた四人は、否応なしに事件に巻き込まれていく……!
投擲魔導士 ~杖より投げる方が強い~
カタナヅキ
ファンタジー
魔物に襲われた時に助けてくれた祖父に憧れ、魔術師になろうと決意した主人公の「レノ」祖父は自分の孫には魔術師になってほしくないために反対したが、彼の熱意に負けて魔法の技術を授ける。しかし、魔術師になれたのにレノは自分の杖をもっていなかった。そこで彼は自分が得意とする「投石」の技術を生かして魔法を投げる。
「あれ?投げる方が杖で撃つよりも早いし、威力も大きい気がする」
魔法学園に入学した後も主人公は魔法を投げ続け、いつしか彼は「投擲魔術師」という渾名を名付けられた――
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
死神は世界を回る ~異世界の裁判官~
アンジェロ岩井
ファンタジー
魔界と人界とが合流を行うようになり、早くも百年の月日が経った。
その間に魔界から魔物や魔族が人界に現れて悪事を行うようになり、それらの事件を抑えるために魔界から魔界執行官が派遣されるようになった。同時に魔界で悪事を行う人間を執行するために人界執行官も制定された。
三代目の魔界執行官に任命されたのはコクラン・ネロスと呼ばれる男だった。
二代目の人界執行官に任命されたのはルイス・ペンシルバニアという男だった。
どこか寡黙なコクランに対し、明るく無邪気なルイスという対照的なコンビであったが、コクランにはある秘密が隠されていた……。
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
悪役令嬢エリザベート物語
kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ
公爵令嬢である。
前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。
ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。
父はアフレイド・ノイズ公爵。
ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。
魔法騎士団の総団長でもある。
母はマーガレット。
隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。
兄の名前はリアム。
前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。
そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。
王太子と婚約なんてするものか。
国外追放になどなるものか。
乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。
私は人生をあきらめない。
エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。
⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです
転生巫女は『厄除け』スキルを持っているようです ~神様がくれたのはとんでもないものでした!?〜
鶯埜 餡
恋愛
私、ミコはかつて日本でひたすら巫女として他人のための幸せを祈ってきた。
だから、今世ではひっそりと暮らしたかった。なのに、こちらの世界に生をくれた神様はなぜか『とんでもないもの』をプレゼントしてくれたようだった。
でも、あれれ? 周りには発覚してない?
それじゃあ、ゆっくり生きましょうか……――って、なんか早速イケメンさんにバレそうになってるんですけど!?
華都のローズマリー
みるくてぃー
ファンタジー
ひょんな事から前世の記憶が蘇った私、アリス・デュランタン。意地悪な義兄に『超』貧乏騎士爵家を追い出され、無一文の状態で妹と一緒に王都へ向かうが、そこは若い女性には厳しすぎる世界。一時は妹の為に身売りの覚悟をするも、気づけば何故か王都で人気のスィーツショップを経営することに。えっ、私この世界のお金の単位って全然わからないんですけど!?これは初めて見たお金が金貨の山だったという金銭感覚ゼロ、ハチャメチャ少女のラブ?コメディな物語。
新たなお仕事シリーズ第一弾、不定期掲載にて始めます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる