異世界転生者は、花嫁の夢を見るか~僕が種付されそうです~

トモモト ヨシユキ

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14 体調不良の花嫁と命の行方

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    授業が終わって、僕は、帰り支度をしていた。『オイディプス同盟』のお陰で、学園都市では、通常通りの日常が続いてた。僕は、新崎に拐われる前と同じように、第3学園で教師をしている。
    天音が、僕がコートを着ているのをじっと見守っていた。
   「なんか、顔色悪いな、真弓先生」
    「気のせいだよ」
   僕は、鞄を持ってから、天音に言った。
  「待たせてごめん、帰ろうか。天音くん」
   「ああ」
   天音は、僕の持っている鞄を持つと、言った。
   「持ってやるよ、先生、マジで、調子悪そうだし」
   「そんなこと」
    言いかけて、僕は、吐き気を覚えて、口許を押さえた。天音が僕の背を擦りながら、僕の顔を覗き込んだ。
   「大丈夫か?あんた、顔色、真っ青だぞ」
   「大丈、夫・・」
   僕は、弱々しく微笑んだ。こんな大変なときに、体調が悪いなんて言いたくはなかった。
      今、この1学園都市 から始まった革命は、全世界へと広がっていっていた。
   マザへの不満や、『オイディプス同盟』の啓発によるいにしえの本来あるべき人の姿に戻るという思想、そして、何より、子供が産める人間の存在とその人物をマザが隠そうとしたということによって生まれたマザへの不審ということが大きかった。
    革命は、静かに始まり、広がっていった。それは、まるで、低温火傷のように、密かに、深層まで焼いていく炎となった。革命の中心は、『オイディプス同盟』のリーダーである人物とされていたが、実質は、征一郎たち、異世界転生者だった。
    「征一郎たち、大丈夫かな」
    僕は、小さく呟いた。
   征一郎と、奏、理事長は、革命軍の先頭に立って、戦っていた。こうしている間にも、どこかで、実際には、新崎の手下である、マザの親衛隊と戦っているのかもしれない。マザの親衛隊は、新崎が造り出した魔導具を装備しているということだ。僕は、征一郎たちが心配で、最近、夜も、よく眠れなかった。
    天音が不意に僕を抱き上げると、足早に歩きだした。
   「な・・天音くん、何」
   「先生は、黙ってろ」
   天音は、僕を学園の保健室へと連れていった。彼は、僕を抱いたまま、足で引き戸を開けると、中にいる人物に言った。
   「おっさん、急患、だ」
    天音に、おっさんと呼ばれて振り向いたのは、僕の育ての親である田中  一太郎だった。
   田中  一太郎は、実は、『オイディプス同盟』のリーダーだった。
   僕は、新崎の元から救出された日のことを思い出していた。
   学園についた僕の前に現れた一太郎は、自分が『オイディプス同盟』のリーダーであることを僕に明かした。
       「一太郎が?」
   僕が信じられないと言うと、一太郎は、もっと信じられないことを僕に語った。
   「真弓・・私は、異世界からの転生者なんだ」
   「えっ?」
   僕は、もう、かなりいろんなことに耐性ができていたからちょっとのことでは驚かない自信があったけど、これには、すごく驚いてしまった。まさか、あの一太郎が、征一郎たちの仲間だったなんて。驚きを隠せない僕に、一太郎は、言った。
    「私の本当の名は、エリクシス。異世界グロウザーでは、賢者と呼ばれていた」
   彼は、普通に、この世界で生きていたが、僕とであったとき、前世の記憶に目覚めたのだという。
   「おそらく、花嫁であるお前に出会った時に、皆、記憶が甦るようになっているのだろう」
   目覚めた一太郎は、幼かった僕を成人するまで見守り、育てた。それは、それは、大切に、まるで、箱に入った壊れ物のように、僕を育てたのだという。彼は、将来、花嫁となる僕を守り、そのための教育をした。それが、ファンタジー小説だった。
        彼は、僕に、未来の花婿候補たちの情報をゆっくりと時間をかけて送り込んでいったのだという。ただ、魔王である征一郎と、もと魔王である理事長のことは、賢者である一太郎も知らなかったのだという。だから、一太郎にとって、征一郎は、花婿候補では、なかったのだが、なぜ、彼がこの世界に転生しているのかがわからない以上、手出しもできなかったのだという。
   「私にできたことは、お前の未来において、お前を守るために必要な『オイディプス同盟』を作り上げることだけだった 」
   一太郎は、僕を抱き締め言った。
  「すまない。お前には、過酷な道を歩ませてしまった。本当は、こんなことにならないようにと考えていたのだが、イレギュラーなことが多すぎた」
   僕は、子供の頃のように、一太郎に抱かれて、涙を流した。
       保健室に天音に抱かれてやってきた僕を見て、一太郎は、ぎょっとしていた。
   「どうしたんだ?真弓」
   「どうにも、こうにも、おっさん。真弓先生が、体調不良なんだ。見てやってくれ」
   「ああ」
    一太郎は、今生では、医師だった。彼は、空いているベットに下ろされて、腰をかけている僕の頬を両手で包み込んで、僕の顔を見た。
   「確かに、顔色が悪い」
   「さっき、気分悪いって、吐きそうになってた」
   天音が、心配そうに、僕のそばについていて、一太郎に診察してもらっている僕を見つめていた。一太郎は、僕の体に触れて、目を閉じた。彼が、僕の体をスキャンしているのがわかった。しばらくして、一太郎は、はっとして目を開くと、僕を見つめて、何かを言おうとして黙り込んだ。天音が、一太郎に、きいた。
   「なんだよ、はっきり言えよ。気味悪いだろ」
   「・・真弓」
   「はい?」
     「前に、邪神トリストラム・・いや、新崎は、お前に、最後の花嫁の石を入れて、これで、完全な花嫁になった、と言っていたんだったな」
   一太郎に言われて、僕は、頷いた。
   それは、ここに戻ってきて一太郎に再会した時に、彼に話したことだった。
   一太郎は、僕の肩をぎゅっと掴んで、僕を見つめて言った。
   「いいか、真弓。気をしっかりと持って聞いてくれ」
    「何?一太郎」
    一太郎は、僕に向かって言った。
   「真弓、お前は、妊娠している」
    「えっ?にんしん?」
    「何だと?」
     天音が一太郎に掴みかかった。
   「本気で、言ってるのか?」
  「こんな冗談を言ってどうする」
   一太郎は、天音の腕を振り払って言った。
   「間違いない。この世界には、そういうデータは残されていないが、異世界の知識によれば、今、真弓は、妊娠している。もう、3ヶ月に入っている。おそらく、気分が悪いというのは、つわりのせいだ」
       「待って、にんしんって、何?」
   僕が二人の会話に割って入ってきくと、二人は、気まずそうな表情を浮かべた。一太郎は、僕の質問に答えた。
   「つまり、お前のお腹には、今、新しい生命が宿っているということだ」
   「えっ?」
    僕は、お腹に手をあてた。ここで、今、新しい命が育まれている。だけど、僕は、浮かない顔でうつ向いていた。
    「それは、誰の子供なの?もしかして、新崎?」
   「ああ」
    一太郎が頷いた。僕は、ぎゅっとお腹にあてた手を握りしめた。
   「僕は、この子を産まなくてはいけないの?」
   「それは」
   一太郎が口ごもった。
   「お前が、嫌なら、堕胎するということも可能だ。だが、お前の体は、女性とは異なっている。堕胎するとなると、お前の体が無事ではすまないかもしれない」
    「だたい?」
    僕は、呟いた。
  「それは、僕のお腹の中の命を取り出すってこと?」
   「まあ、そういうことだな」
    一太郎の言葉をきいて、僕は、ほっとした。
   「そうして。僕は、この命を育める自信がない」
  僕の堕胎手術は、3日後の昼過ぎに行われることになった。
    天音は、学園から寮までの道すがら、ずっと、僕に言った。
   「生んだ方がいいって。真弓先生。だって、先生の体は、特殊で、堕胎は、大変だって、あのおっさんも言ってたじゃないか。子供の父親なら、俺がなってやる。きっと、真弓先生に似て、かわいい子になる。俺が、保証する」
   「ありがとう」
    僕は、微笑んで、天音を見つめた。
   「でも、産みたくないんだ」
   「真弓先生・・」
       僕たちは、黙って、第3学園の寮まで歩き続けた。寮に戻って、僕が、前に使っていた寮長の部屋へと入っていくのを天音は、廊下でじっと見ていた。僕は、部屋の中へ入ると、ドアを閉めて、背中をもたせかけ、ため息をついた。
   「僕には、マザの業なんて、務められないよ・・」
   僕は、テーブルの上に置いた写真立てに入っている征一郎と僕の写真を見た。
   征一郎。
   僕は、呟いた。
  「ごめん、征一郎の子供、産めないかもしれない」

        3日後の昼過ぎに、僕は、学園の保健室で裸で、ベットに横になっていた。
   青い手術着姿の一太郎が僕の腕に麻酔の点滴の針を差し込んだ。鋭い痛みに、僕は、顔を顰めた。一太郎は、点滴の針を固定して、滴下を開始すると、僕に言った。
  「すぐに、眠くなるから。気を楽にして」
   「一太郎」
   僕は、一太郎にきいた。
  「取り出した子供は、どうなるの?」
   「死ぬ」
    一太郎が言った。
   「母体から取り出すんだ。生きることは、できない」
   「えっ?・・」
    僕は、薄れていく意識の中で叫んだ。
   「やめて!この子を殺さないで!」
     次に目が覚めると、すでに、辺りは、薄暗くなっていた。
   僕は、枕元にいた一太郎にきいた。
   「子供は?」
   「生きてる」
    一太郎は、毛布の上から僕のお腹に触れて言った。
   「ここで」
   それを聞いたとき、僕の目から涙が溢れ出した。
   
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