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5 真実と魔王とプロポーズ
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「つまり」
僕は、言った。
「君たちは、異世界からの転生者、だということ?」
滝本 天音と、五月 奏は、僕の部屋で床の上に正座して僕のことを見上げて 頷いた。
僕は、二人をまじまじと見つめていたが、やがて、二人に言った。
「それを信じろと言われても、ちょっと、
困るな」
「なんで?」
天音が僕の方へと体を乗り出して言った。
「あんた、俺たちの話を書いてるじゃないか」
「あれは、別に、君たちの話なわけじゃない」
僕は、二人の前に置かれた椅子に腰かけて二人をじっと見た。
二人とも、嘘をついているようには、見えない。
だけど、こんなこと、信じることなんて、できない。
よりにもよって、僕が書いている小説の中の世界と同じ世界からきたなんて、信じることができるわけがない。
今朝。
僕が奏に抱かれているところに、天音が現れた。そして、二人が喧嘩になるところを僕が止めた後、二人は、僕に話があるといったのだった。
僕たちは、急遽、体調不良で学校を休むことにして、僕の部屋で話し合うことになったのだが、口を開いた二人が言うことには、自分達は、異世界から来たのだということだった。
二人とも、難しい年頃だ。
そんなつもりになってしまっているだけだろうが、邪険にするわけにはいかないだろう。
僕は、二人の話に耳を傾けることにした。
それによると、二人は、僕の書いているファンタジー小説『神々の地と二人の剣の王』の世界からこの世界へと転生してきたのだという。
滝本 天音が、二人の剣の王の内の一人、ケイレスであり、五月 奏は、もう一人の剣の王、スレイアスなのだという。
二人は、女神セナの命により、この世界へと花嫁を探しに来たのだという。
その花嫁が僕なのだと二人は、言うのだ。
本当に。
正直言って、すごく、迷惑な話だった。
こんな変な、ありえない理由で、僕は、この二人に好きなようにされたのだ。
僕は、心を強く持った。
ファンタジー小説の世界にのめり込み過ぎた少年たちの妄想に、これ以上、付き合うことはできない。
僕は、二人に、はっきり、きっぱりと言い放った。
「君たちが僕の書いた小説のことをそんなに気に入ってくれているのは、うれしいけど、『ごっこ』にこれ以上、付き合うつもりはないから」
「『ごっこ』なんかじゃねぇよ」
天音がいい、奏もそれに頷いた。
「俺たちは、嘘なんか言ってません。俺たちが真実を言っているってことの証人だっているし」
「証人?」
「ああ」
奏が、気が乗らない様子で言った。
「津宮先生は、俺たちと同じ異世界からの転生者だ」
「征一郎が?」
「そうです」
奏が僕に向かって懸命に訴えかけるのを僕は、きいていた。
奏は、言った。
「奴は、確かに、魔王グレイザの転生したものに違いない」
「魔王、だって?」
確かに、物語の中で魔界を統べる王としてグレイザは、登場していた。言われてみれば、グレイザの外見は、征一郎のそれとよく似ている。同じ、黒髪で、少し、影のあるイケメンというところは。だが、グレイザの瞳は、血のように赤い筈だった。征一郎の目は、普通の黒色だった。
僕は、ふっと笑った。
「じゃあ、僕が今度、征一郎に確認しておくよ。君たちの話が、本当かどうか。それでいいだろう?」
僕は、そう言うと、二人に部屋から出ていくように命じた。
二人は、不服そうな様子だったが、黙って、大人しく引き下がり、部屋を出ていった。
部屋の中に一人残されて、僕は、深いため息をついた。
たぶん、二人とも、悪い子じゃないだろうけど、こんなこと、普通じゃない。
教え子と、それも、二人もと、こんなことになってしまった。
しかも、無理矢理。
だけど、僕は、未来のある二人のためにも問題を大きくはしたくなかった。
征一郎に相談するべきなのかもしれない。
そう、僕は、思っていた。
その日は、半日で学校は、終わりだった。
体調不良で休んでいた僕のことを心配して学校の帰りに征一郎が、僕のところへと立ち寄ってくれた。手土産に僕の好きな、外苑の街にあるケーキ屋さんのクッキーを買ってきてくれたので、僕は、お茶を入れた。
いつになく、無口で、好きなお菓子にもあまり手を出そうとしない僕に、征一郎は、向き合って椅子に腰かけて、僕が話し出すのを、ただ、黙って待っているようだった。僕は、何から話すべきかと考えていたのだったが、なんだか、考えている内に頭の中がっぐちゃぐちゃになってきて、不意に、僕の頬を涙が伝い落ちた。征一郎は、泣き出してしまった僕をそっと抱き締めると、あやすように優しく背中を叩いてくれた。その温もりに包まれて、僕は、余計に涙が溢れて止まらなかった。
しばらくして、僕が落ち着いてきたのを見計らって、征一郎が言った。
「真弓、俺のパートナーになる気はないか?」
「えっ?」
僕は、驚いて顔を上げて征一郎のことを見た。征一郎は、いつもと何も変わらない様子で僕のことを見つめていた。僕は、顔を赤らめて、視線をそらした。
「何、急に」
「急じゃない。前から、ずっと思っていたんだ」
征一郎は、僕の手を取って、僕を、熱い眼差しで見つめて言った。
「どうか、俺のパートナーになって欲しい」
「征一郎」
僕は、征一郎の手をそっとほどくと、言った。
「だめだよ、僕なんて。だいたい、僕は」
「あの二人と何があったのかは、聞くつもりはない」
征一郎が言うのを聞いて、僕は、打たれたように、はっと顔をあげた。征一郎は、ため息をついた。
「やっぱり、あの二人に何かされたんだな?」
「あっ・・」
気まずい雰囲気に、僕は、言葉を探していた。
「あの・・二人とも、自分達が何をしてしまったのか、よく理解していないみたいだし、僕は、二人を許したいと思っているんだ」
「そうなのか」
征一郎は、僕の肩に手を置いて、僕の顔を覗き込んだ。
「お前が、それでいいなら、俺は、何も言うつもりはない。本当は、子供とはいえ、しっかりと罪を償わせたいところなんだが」
征一郎は、僕の肩に置いた手を上に上げていって、僕の頬を包み込んだ。
「真弓、俺じゃ、お前のパートナーには、ふさわしくないか?」
「そんなこと」
僕は、顔が熱くなってくるのを感じていた。征一郎の手が優しく、僕の頬に触れた。
その感触に、僕は、ぼぅっとなってしまた。征一郎は、そっと、僕に口づけた。僕は、胸の高鳴りを押さえることができなかった。征一郎は、徐々にキスを深めていき、そっと、僕の口の中へと舌を差し入れて、僕の中を味わっていた。
「ふぁっ・・んっ・・」
僕は、キスにたどたどしく応じながら、体の奥が熱くなってきていた。なんだかわからないけれど、体の最奥がじんじんと疼いていた。
ああ。
おそらく、僕が、あの二人に抱かれてしまったから、だ。
僕は、頭が冷めてくるのを感じた。
今までの何も知らなかった僕じゃないから、こんな風に体が熱を持ってしまうのに違いなかった。
僕は。
僕は、そっと、征一郎の体を押し退けて、キスをやめさせた。
「ごめん」
「真弓」
「僕は、あの二人に、無理矢理・・」
僕が、言いかけたのを征一郎がキスで封じた。征一郎に激しく求められて、僕は、頭が真っ白になって、宙を漂っているような気持ちになった。落下してしまいそうな怖さに、僕は、ひっしと征一郎にしがみついていた。気がすむまで僕を味わった後、征一郎は、僕から離れた。僕たちは、熱く乱れた呼吸を整えながら、お互いを見つめあった。
「頼む、真弓、俺と一緒に、生きてくれ」
「征一郎」
僕が頷きかけた時、急に、ドアが蹴破られ、あの二人が姿を現した。二人は、僕たちに駆け寄ると、その間に割って入ってきた。天音が、征一郎の胸ぐらを掴んで、言った。
「お前、何、人のものに手を出そうとしてる!」
「征一郎!やめなさい、天音くん!」
僕が二人を止めようとするのを、奏が、後ろから羽交い締めにしてきた。
「先生は、口出ししないで。これは、俺たちの問題だから」
「なんとか言ってみろよ、魔王 グレイザ」
天音が征一郎を締め上げているのが見えて、僕は、なんとか二人を止めようと奏の腕から逃れるために体を捩ったが、奏は、ぎゅうっと僕を捕らえて離そうとはしなかった。
「離しなさい、奏くん!」
僕は、叫んだ。
「征一郎!」
突然、天音に詰め寄られてうつ向いていた征一郎が低い笑い声を漏らした。そして、征一郎は、天音の腕を振り払って、言った。
「相変わらず、うざい奴等だな」
顔を上げた征一郎の瞳の色は、血のような赤、だった。
まさか。
僕は、自分の目が信じられなかった。
征一郎は、にっと笑った。
「お前たちの花嫁は、この魔王 グレイザが貰い受ける」
「はい?」
僕は、呆気にとられて、その場に立ち尽くした。
征一郎も?
「正体を現したな、このエロ親父!」
天音が征一郎と僕の間に立ちはだかった。征一郎は、緩んだネクタイをっきちんと絞め直してから天音の方を見て言った。
「誰が、エロ親父、だ。このガキが」
「グレイザ、なぜ、お前がこの世界に転生している?」
奏がきくと、征一郎は、事も無げに、答えた。
「あの性悪女神と取引をした。お前たちの花嫁を私が奪うことが出来たなら、あの世界の全ては、この私のものとなる」
「マジか」
天音が舌打ちした。
「あの女、ふざけた真似を」
「言っておくが、花嫁の石は、私も持っているのだよ」
征一郎、こと、魔王 グレイザが、白い玉を指で摘まんで、僕たちに見せた。
「お前たちの石だけでは、真弓を完全に花嫁の体に変えることはできない。私のこの石がなければ、花嫁は完成しない」
「ちょっと、待った!」
僕が叫ぶと、三人とも、僕の方を注視した。僕は、奏の腕を払って、征一郎の方へとすたすた、歩み寄ると、石を奪おうとした。が、征一郎は、僕の手の届かないところへと石を遠ざけて言った。
「これが欲しいのか?真弓」
征一郎は、僕に囁いた。
「すぐに、望みは、叶えてやる」
征一郎にそう言われて、僕は、頬を上気させていた。征一郎は、ふっと笑って、そのまま、姿を消した。
「あの野郎!」
天音と奏が、どたどたと僕の部屋から出ていった。
一人になった僕は、呆然として、呟いた。
「本当、だったんだ・・」
僕は、言った。
「君たちは、異世界からの転生者、だということ?」
滝本 天音と、五月 奏は、僕の部屋で床の上に正座して僕のことを見上げて 頷いた。
僕は、二人をまじまじと見つめていたが、やがて、二人に言った。
「それを信じろと言われても、ちょっと、
困るな」
「なんで?」
天音が僕の方へと体を乗り出して言った。
「あんた、俺たちの話を書いてるじゃないか」
「あれは、別に、君たちの話なわけじゃない」
僕は、二人の前に置かれた椅子に腰かけて二人をじっと見た。
二人とも、嘘をついているようには、見えない。
だけど、こんなこと、信じることなんて、できない。
よりにもよって、僕が書いている小説の中の世界と同じ世界からきたなんて、信じることができるわけがない。
今朝。
僕が奏に抱かれているところに、天音が現れた。そして、二人が喧嘩になるところを僕が止めた後、二人は、僕に話があるといったのだった。
僕たちは、急遽、体調不良で学校を休むことにして、僕の部屋で話し合うことになったのだが、口を開いた二人が言うことには、自分達は、異世界から来たのだということだった。
二人とも、難しい年頃だ。
そんなつもりになってしまっているだけだろうが、邪険にするわけにはいかないだろう。
僕は、二人の話に耳を傾けることにした。
それによると、二人は、僕の書いているファンタジー小説『神々の地と二人の剣の王』の世界からこの世界へと転生してきたのだという。
滝本 天音が、二人の剣の王の内の一人、ケイレスであり、五月 奏は、もう一人の剣の王、スレイアスなのだという。
二人は、女神セナの命により、この世界へと花嫁を探しに来たのだという。
その花嫁が僕なのだと二人は、言うのだ。
本当に。
正直言って、すごく、迷惑な話だった。
こんな変な、ありえない理由で、僕は、この二人に好きなようにされたのだ。
僕は、心を強く持った。
ファンタジー小説の世界にのめり込み過ぎた少年たちの妄想に、これ以上、付き合うことはできない。
僕は、二人に、はっきり、きっぱりと言い放った。
「君たちが僕の書いた小説のことをそんなに気に入ってくれているのは、うれしいけど、『ごっこ』にこれ以上、付き合うつもりはないから」
「『ごっこ』なんかじゃねぇよ」
天音がいい、奏もそれに頷いた。
「俺たちは、嘘なんか言ってません。俺たちが真実を言っているってことの証人だっているし」
「証人?」
「ああ」
奏が、気が乗らない様子で言った。
「津宮先生は、俺たちと同じ異世界からの転生者だ」
「征一郎が?」
「そうです」
奏が僕に向かって懸命に訴えかけるのを僕は、きいていた。
奏は、言った。
「奴は、確かに、魔王グレイザの転生したものに違いない」
「魔王、だって?」
確かに、物語の中で魔界を統べる王としてグレイザは、登場していた。言われてみれば、グレイザの外見は、征一郎のそれとよく似ている。同じ、黒髪で、少し、影のあるイケメンというところは。だが、グレイザの瞳は、血のように赤い筈だった。征一郎の目は、普通の黒色だった。
僕は、ふっと笑った。
「じゃあ、僕が今度、征一郎に確認しておくよ。君たちの話が、本当かどうか。それでいいだろう?」
僕は、そう言うと、二人に部屋から出ていくように命じた。
二人は、不服そうな様子だったが、黙って、大人しく引き下がり、部屋を出ていった。
部屋の中に一人残されて、僕は、深いため息をついた。
たぶん、二人とも、悪い子じゃないだろうけど、こんなこと、普通じゃない。
教え子と、それも、二人もと、こんなことになってしまった。
しかも、無理矢理。
だけど、僕は、未来のある二人のためにも問題を大きくはしたくなかった。
征一郎に相談するべきなのかもしれない。
そう、僕は、思っていた。
その日は、半日で学校は、終わりだった。
体調不良で休んでいた僕のことを心配して学校の帰りに征一郎が、僕のところへと立ち寄ってくれた。手土産に僕の好きな、外苑の街にあるケーキ屋さんのクッキーを買ってきてくれたので、僕は、お茶を入れた。
いつになく、無口で、好きなお菓子にもあまり手を出そうとしない僕に、征一郎は、向き合って椅子に腰かけて、僕が話し出すのを、ただ、黙って待っているようだった。僕は、何から話すべきかと考えていたのだったが、なんだか、考えている内に頭の中がっぐちゃぐちゃになってきて、不意に、僕の頬を涙が伝い落ちた。征一郎は、泣き出してしまった僕をそっと抱き締めると、あやすように優しく背中を叩いてくれた。その温もりに包まれて、僕は、余計に涙が溢れて止まらなかった。
しばらくして、僕が落ち着いてきたのを見計らって、征一郎が言った。
「真弓、俺のパートナーになる気はないか?」
「えっ?」
僕は、驚いて顔を上げて征一郎のことを見た。征一郎は、いつもと何も変わらない様子で僕のことを見つめていた。僕は、顔を赤らめて、視線をそらした。
「何、急に」
「急じゃない。前から、ずっと思っていたんだ」
征一郎は、僕の手を取って、僕を、熱い眼差しで見つめて言った。
「どうか、俺のパートナーになって欲しい」
「征一郎」
僕は、征一郎の手をそっとほどくと、言った。
「だめだよ、僕なんて。だいたい、僕は」
「あの二人と何があったのかは、聞くつもりはない」
征一郎が言うのを聞いて、僕は、打たれたように、はっと顔をあげた。征一郎は、ため息をついた。
「やっぱり、あの二人に何かされたんだな?」
「あっ・・」
気まずい雰囲気に、僕は、言葉を探していた。
「あの・・二人とも、自分達が何をしてしまったのか、よく理解していないみたいだし、僕は、二人を許したいと思っているんだ」
「そうなのか」
征一郎は、僕の肩に手を置いて、僕の顔を覗き込んだ。
「お前が、それでいいなら、俺は、何も言うつもりはない。本当は、子供とはいえ、しっかりと罪を償わせたいところなんだが」
征一郎は、僕の肩に置いた手を上に上げていって、僕の頬を包み込んだ。
「真弓、俺じゃ、お前のパートナーには、ふさわしくないか?」
「そんなこと」
僕は、顔が熱くなってくるのを感じていた。征一郎の手が優しく、僕の頬に触れた。
その感触に、僕は、ぼぅっとなってしまた。征一郎は、そっと、僕に口づけた。僕は、胸の高鳴りを押さえることができなかった。征一郎は、徐々にキスを深めていき、そっと、僕の口の中へと舌を差し入れて、僕の中を味わっていた。
「ふぁっ・・んっ・・」
僕は、キスにたどたどしく応じながら、体の奥が熱くなってきていた。なんだかわからないけれど、体の最奥がじんじんと疼いていた。
ああ。
おそらく、僕が、あの二人に抱かれてしまったから、だ。
僕は、頭が冷めてくるのを感じた。
今までの何も知らなかった僕じゃないから、こんな風に体が熱を持ってしまうのに違いなかった。
僕は。
僕は、そっと、征一郎の体を押し退けて、キスをやめさせた。
「ごめん」
「真弓」
「僕は、あの二人に、無理矢理・・」
僕が、言いかけたのを征一郎がキスで封じた。征一郎に激しく求められて、僕は、頭が真っ白になって、宙を漂っているような気持ちになった。落下してしまいそうな怖さに、僕は、ひっしと征一郎にしがみついていた。気がすむまで僕を味わった後、征一郎は、僕から離れた。僕たちは、熱く乱れた呼吸を整えながら、お互いを見つめあった。
「頼む、真弓、俺と一緒に、生きてくれ」
「征一郎」
僕が頷きかけた時、急に、ドアが蹴破られ、あの二人が姿を現した。二人は、僕たちに駆け寄ると、その間に割って入ってきた。天音が、征一郎の胸ぐらを掴んで、言った。
「お前、何、人のものに手を出そうとしてる!」
「征一郎!やめなさい、天音くん!」
僕が二人を止めようとするのを、奏が、後ろから羽交い締めにしてきた。
「先生は、口出ししないで。これは、俺たちの問題だから」
「なんとか言ってみろよ、魔王 グレイザ」
天音が征一郎を締め上げているのが見えて、僕は、なんとか二人を止めようと奏の腕から逃れるために体を捩ったが、奏は、ぎゅうっと僕を捕らえて離そうとはしなかった。
「離しなさい、奏くん!」
僕は、叫んだ。
「征一郎!」
突然、天音に詰め寄られてうつ向いていた征一郎が低い笑い声を漏らした。そして、征一郎は、天音の腕を振り払って、言った。
「相変わらず、うざい奴等だな」
顔を上げた征一郎の瞳の色は、血のような赤、だった。
まさか。
僕は、自分の目が信じられなかった。
征一郎は、にっと笑った。
「お前たちの花嫁は、この魔王 グレイザが貰い受ける」
「はい?」
僕は、呆気にとられて、その場に立ち尽くした。
征一郎も?
「正体を現したな、このエロ親父!」
天音が征一郎と僕の間に立ちはだかった。征一郎は、緩んだネクタイをっきちんと絞め直してから天音の方を見て言った。
「誰が、エロ親父、だ。このガキが」
「グレイザ、なぜ、お前がこの世界に転生している?」
奏がきくと、征一郎は、事も無げに、答えた。
「あの性悪女神と取引をした。お前たちの花嫁を私が奪うことが出来たなら、あの世界の全ては、この私のものとなる」
「マジか」
天音が舌打ちした。
「あの女、ふざけた真似を」
「言っておくが、花嫁の石は、私も持っているのだよ」
征一郎、こと、魔王 グレイザが、白い玉を指で摘まんで、僕たちに見せた。
「お前たちの石だけでは、真弓を完全に花嫁の体に変えることはできない。私のこの石がなければ、花嫁は完成しない」
「ちょっと、待った!」
僕が叫ぶと、三人とも、僕の方を注視した。僕は、奏の腕を払って、征一郎の方へとすたすた、歩み寄ると、石を奪おうとした。が、征一郎は、僕の手の届かないところへと石を遠ざけて言った。
「これが欲しいのか?真弓」
征一郎は、僕に囁いた。
「すぐに、望みは、叶えてやる」
征一郎にそう言われて、僕は、頬を上気させていた。征一郎は、ふっと笑って、そのまま、姿を消した。
「あの野郎!」
天音と奏が、どたどたと僕の部屋から出ていった。
一人になった僕は、呆然として、呟いた。
「本当、だったんだ・・」
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