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3 泣き虫野良は、生意気野良

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    目覚めた刈谷は、俺に頭を下げた。
   「すみませんでした」
    だけど、なんだろう。
   どこか、ふてぶてしくて、素直に受け止められない感じがした。
    「別に、もういい」
    俺は、刈谷の前に座って、奴を見てきいた。
   「あんた、これから、どうしたい?」
    「えっ?僕?」
     ぼく?
    俺は、なにか、拍子抜けして刈谷の顔を覗きこんだ。 
    こいつ、やっぱ、何か、変。
   大人かと思ったら、妙に、幼く感じることがある。
   俺は、刈谷に向き合って、奴にきいた。
   「あんた、年、いくつ?」
    「そ、れは・・」
     刈谷は、口ごもっていたが、やがて、小声でもごもごと言った。
   「・・4・・」
    「えっ?」
     「14・・もうすぐ、15」
     「はぁ?」
      俺は、さすがに、驚いてしまった。
     この図体で、中学生?
   マジか。
   「もしかして、中学生?」
    刈谷は、俺の質問に、ぷぃっと顔を背けて言った。
   「もう、学校は、辞めた」
   「はい?」
    俺は、言った。
    「辞めたって、あれ、確か、義務教育だったんじゃ」
    「僕の学校は、そういうのじゃなかったんで」
    「そういうのじゃないって・・しゃ、どういうのだよ?」
   俺がきくと刈谷は、ぽつぽつと話始めた。
   どうやら、刈谷の通っていた学校は、普通の学校じゃなく、中高一貫の私立学校だったらしい。
   つまり、いいとこの坊っちゃん方が通う学校だったわけだ。
   「何?お前、もしかして、いいとこの子なの?」
   「いいとこ?」
    刈谷は、少し考え込むと、頷いた。
   「うん・・そうかもしれない」
    「否定しないのかよ」
     俺は、ちょっとフテ気味の刈谷を見つめてきいた。
   「お前、なんでホームレスなんてしてたわけ?」
   「それ、は・・」
    刈谷は、口をつぐんでしまった。
      ははん。
   俺は、刈谷の態度にピンときた。
   「お前、あれだな。家出人」
   刈谷がびくっと体を強ばらせた。
   間違いない。
  俺は、刈谷にきいた。
     「なんで、家出なんかしたわけ ?」
     「そ、れは・・その・・ぼ、くが」
    刈谷は、口ごもった。
    「せ、先生と・・そういう関係になっちゃったことが、パパに」
    「そういう関係って?」
    「男と、女の関係」
    「へっ?」
     俺は、言葉を失った。
   14才で女を知ってんのかよ、こいつ。
   俺だって、まだなのに。
   「すげぇな、お前」
   俺は、尊敬の眼差しで刈谷を見ていた。
   俺が14の頃なんて、せいぜい、ゲーセンで管をまくぐらいだったっちゅうの。
   それを、こいつは、女の先生とやってたとか。
   まじ、リスペクトしちまうぜ。
   まあ。
   こんないい体してて、全く、見た目、中坊には、見えないしな。
   ほんと、ドーピングでもしてんのかよ、こんなに育っちゃってさ。
   俺が、そんなことを考えていると、刈谷は、言った。
   「パパに、先生が言ったんだ。僕が、その・・異性愛者じゃない、って 」
   はい?
   いせいあいしゃ?
   何、それ?
  「どういうこと?」
   俺がきくと、刈谷は、目に涙を溜めて、俺を見つめて言った。
   「ぼ、僕、は・・女、と、できな、い」
    つまり、こうだった。
    いいとこの家のお坊っちゃまである刈谷くんは、家庭教師の女の先生である久美先生に摘まみ食いされてたんだが、先生とは、最後までできなかった。それだけなら問題はないことかもしれないが(そうなの?)それを家の使用人(すげぇな、使用人って)に親にチクられて、問い詰められた久美先生が逆ぎれして、こいつが女とやれない人種だといったらしい。
    なんか、どうでもいいことなんじゃ。
   俺がそう思っていると、刈谷は、ぽろぽろ、涙を流した。
   マジか。
   俺が、少し、驚いて見ていると、刈谷は、言った。
  「ぼ・・僕は・・男が、好、き、なんだ・・」
   衝撃のカミングアウト。
   刈谷は、号泣しながら言った。
   「せ、先生が、僕のこと、気持ち悪いって・・」
     ああ、そうだったのか。
   俺は、泣いている刈谷があまりにも子供らしくて、かわいそうになってきて、そっと刈谷を抱き寄せると頭を撫でながら言った。
   「わかった。だから、もう、泣くな。お前は、悪くない。大丈夫、だ」
   「ま、さと」
    刈谷は、俺をぎゅっと抱き締めて泣き続けた。
   俺は、奴に抱き締められたまま、奴の背中をさすってやった。
   泣くだけ泣いたら、刈谷は、落ち着いたらしく、俺のことを離して、少し、照れ臭そうに言った。
   「ありがと・・雅人」
   「ああ?気にすんなよ、刈谷」
       俺は、もう人気のなくなった台所に刈谷を連れていくと、刈谷のために朝飯を作ってやった。
   玉子焼きと白米と、味噌汁。
   刈谷は、俺の出してやった飯を黙って食っていた。
   俺も、刈谷と一緒に飯を食った。
   食べ終わると、俺は、刈谷に言った。
   「お前、家に帰った方がいいんじゃね?」
   「でも」
    渋る刈谷に俺は、言った。
   「大丈夫。ちゃんと話したら、親もわかってくれるって。とにかく、ガキは、親んとこに帰れ」
   「ガキじゃない」
    刈谷は、ムッとした表情で、俺に言った。
   「俺は、もう、ガキじゃない」
   「14才のくせに、何、言ってる」
    俺が言うと、刈谷は、余計にむきになって言った。
   「俺は、ガキなんかじゃない」
   刈谷はそう言うと、俺のTシャツの胸元を掴んでぐぃっと俺を引き寄せるとキスしてきた。
   「んぅっ!」
    いきなりで俺は、避けることができずに、刈谷にキスされてしまった。刈谷は、俺の唇を舌で割って、口中を犯してきた。俺は、なんとか逃れようとしたが、刈谷は、俺を離さなかった。
    刈谷は、俺の口中を掻き回し、舌を強く吸い上げた。俺は頭がぼぅっとしてしまって、刈谷にされるがままになっていた。刈谷は、気がすむまで、俺の口中を貪ると、やっと、俺を解放した。
    「ふ・・あ・・」
   刈谷のキスに圧倒されている俺に、刈谷は、にっと笑って言った。
   「本当、かわいい、な、雅人は」
   「なっ!」
    俺は、叫んだ。
   「かわいいとか、言うな!」
   俺に睨まれて、刈谷は、にやりと笑った。
   何、こいつ。
   俺は、ムカッとして、刈谷を上目使いに見上げて思っていた。
   野良だったくせに、生意気な奴。
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