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3 生け贄の王子

3ー2 堕ちた王子

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 3ー2 墜ちた王子

 「僕の色は、赤じゃない」
 僕は、テシガアラに魔石の並べられた台の端っこにある透明な石を指して見せた。
 「僕は、色を持たないんだ」
 「え?」
 テシガアラが不思議そうな顔をして僕のことを見つめた。
 「でも、そんなきれいな目をしてるのに?」
 はい?
 僕は、奇妙な感覚になる。
 この赤い目のことをそんな風に言う者は、この国には、いや、この世界にはいない。
 他の者とは違う強い力を持つが故に僕は、より厳しく育てられた。
 将来の王として、また、強大な力を持つ者として常に正しくあるように。
 それが僕は、辛かった。
 王位継承権を持つ者でありながら魔導師団に入団したのは、僕の唯一の反抗だった。
 僕は、ラクウェル兄が羨ましかった。
 誰にも何も期待されることなく、甘やかされて好き勝手にしていられるラクウェル兄が憎かった。
 だから。
 5年前、ラクウェル兄が邪神の生け贄となることが決まったとき、同情なんてしなかった。
 生け贄になることが決まったとき、ラクウェル兄は、醜いほどに取り乱して周囲に助けを求め泣き叫んだ。
 でも。
 僕は、ラクウェル兄を救うことはなかった。
 あのとき、もしもラクウェル兄に救いの手を伸ばしていれば。
 もしかしたら今の状況はなかったのかもしれない。
 そこまで考えて僕は、頭を振った。
 そんなことを言ってもせんないことだ。
 僕たちは、この未来を選択してしまったのだから。
 「レリアス?」
 テシガアラが僕を覗き込んだ。
 僕は、はっと気づいてテシガアラに向かって微笑む。
 「ご、ごめん。ちょっと考え事してた」
 僕は、気を取り直して石の説明を始めた。
 「透明な魔石は、万能だけど扱いが難しい。もし、テシガアラが買うならこっちの水色の魔石の方がいいよ」
 水色の魔石は、水属性と相性がいい。
 きっと、身に付けていれば役に立つだろう。
 「これ、欲しいの?」
 僕は、水色の魔石に手を伸ばそうとした。
 魔法学園への入学祝にぴったりだ。
 しかし、テシガアラは、首を振った。
 「俺は、こっちがいい」
 テシガアラが選んだのは、透明な魔石だった。
 僕は、迷っていた。
 透明な魔石は、値段が高いものが多い。
 例え小さな魔石でもちょっとした屋敷が買えるぐらいの値段がする。
 いくらなんでも僕には、買えそうにない。
 「こちらの魔石でございますか?」
 僕らに気づいて現れた店の者が値踏みするような視線を僕らに向けてくるのがわかった。
 「色なしの魔石は、高価で学生の方にはおすすめできかねますが」
 店員がちらっと僕のことを見る。
 「レリアス王子になら特別にお安くさせていただいてもかまいませんよ」
 僕は、顔が熱くなるのを感じていた。
 みな、色を持たない者が僕だけだということを知っている。
 それは、僕が墜ちた王子であり、現王であるラクウェル兄の性奴だということを知っているということだ。
 
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