転生したら本でした~スパダリ御主人様の溺愛っぷりがすごいんです~

トモモト ヨシユキ

文字の大きさ
上 下
12 / 28

11 『R』の名を持つもの

しおりを挟む
   ガーゴリウス男爵邸での舞踏会から帰城した俺たちのもとへ、山のような社交界からのお誘いの手紙が届けられた。
   「ユウは、人気者だなあ」
    クリスが満足そうに言うと、アークがクリスのデスクの上に置かれた招待状をゴミ箱へと放り込んだ。
   「もう、こんなもの必要ないだろう?」
   「そんなわけないだろうが」
    クリスがゴミ箱の中の招待状を拾い上げながら言った。
   「これからが本番なんだぞ」
   「しかし、もうお前の狙っていた魔物の売買組織のリーダーであるガーゴリウス男爵を捕らえらのだからいいんじゃないのか?」
   アークの質問にクリスは、溜め息をついた。
   「ガーゴリウス男爵は、所詮傀儡にすぎん。本当の黒幕は、ガーゴリウス男爵の三男、ルイス・ガーゴリウスだ。そして、ルイス・ガーゴリウスは、あの夜から行方不明だ。彼を捕らえないうちは、魔物の売買を根絶やしにすることは不可能だ」
    「なんでまた、魔物の売買なんだ?そんなこと昔からあったことだろう?」
   アークの言葉に魔王ディエントスが低く、言った。
   「それが、我々魔族と人の子との和解の条件だからな」
   「和解の為の条件?」
    「クリスと私は、魔族と人類の戦いを終わらせるための妥協点を探った。その結果、人間どもによる魔族の売買の問題に行き着いた。クリスは、私に、必ず、魔物の売買を止めさせてみせると誓ったのだ」
    「マジで?」
    アークにきかれて、クリスは、頷いた。
   「私は、王になったら奴隷制度を廃止したいと思っている。その手始めとして魔物の売買を禁止する」
      「しかし、それでは、人々の生活に支障があるんじゃないか?」
   「奴隷制度や、魔物の売買によって成り立つ普通の生活なんて、私の国には必要ない。皆が手を取り合って、共に協力しあい、成長していく世界を、私は選びたい」
   クリスは、珍しくマジな表情で言った。
  「たとえ、皆が等しく幸福な世界はないとしても、弱いものを踏みにじって成り立つ世界であるよりはましだ」
   ふーん。
   俺は、クリスの言葉に少し、感動していた。
   いつもニコニコして何考えてるんだかわからない王子様だけど、実は、まっとうないい人だったんだ。
   「とにかく、ルイスを誘き出すために、ユウには、引き続きお姫様をやってもらう必要があるんだ。頼むよ、ユウ」
俺は、本当は、もう、これ以上かかわり合いになりたくなかった。
   あの男の転生した姿であるルイス・ガーゴリウスと、もう二度と出会いたくはなかった。
   だけど。
  クリスの言ってることは、正しかった。
   俺たちは、その正しさ故に、彼の計画に従うしかなかった。

      俺は、一人、窓辺で空から降ってくる雪を見つめていた。
   すごく、静かだ。
   まるで、全てが夢で、俺は、まだ、あの場所で眠っているのではないか、と思ってしまうほどに。
   「お前は、本当に、雪が好きだな、ユウ」
   振り返るとディエントスが湯気のたつカップを手に立っていた。
   俺は、ディエントスの差し出すカップを受けとると一口飲んだ。それは、ホットミルクで、なんだか、じんわりと心から暖まる様な気がした。
   「ルイスの行方は?なんか、わかったの?」
   俺は、ディエントスに訊ねた。ディエントスは、頭を振った。
   「何一つ、つかめていない。まるで、奴の存在自体がかき消されたかのように、奴は、消えてしまった」
   俺は、さもありなんと思っていた。
  この世界の理の全てを手に入れているといっていいあいつなら、なんだってありうる。
  「お前は、あの男に因縁が浅からぬようだな」
   「うん」
    俺は、空から降る雪を見つめて言った。
   「俺は、あいつの手で創られたんだ」
    「そうか」
    ディエントスが言った。
    「お前には、我々魔族のために苦労をかけるな」
    「別に、いいよ」
     俺は、カップの中のミルクを飲み干してからディエントスにカップを返した。
   「はやく、魔族が解放されたらいいね。そしたら、ディエントスも戦争なんてしなくてよくなるし」
   「そうだな」
    ディエントスが俺からカップを受けとると優しく微笑んだ。
   「本当に、そうなればいいんだが」
    ディエントスは、ぽん、と俺の頭を撫でると、背を向けて部屋から出ていった。

       俺は、アークと、アルカイドから魔族と人類の歴史について聞かされていたことを思い出していた。
    「かつて、この世界の最初の女であるリリアが、双子を生んだことが全ての始まりだったとされています」
    アルカイドは、語った。
   「双子のうちの一人は、魔族の祖となったアルムであり、もう一人は、人の子の祖となったカイアでした」
   二人の母であるリリアと父であるアキムは、二人を等しく愛し育んだ。
   二人は、お互いを助け合い、仲睦まじく成長していった。
   そんな二人の前に、女神からの贈り物が現れた。
   創世の女神の創ったガラティアという姉と、ガラムという名の弟の姉弟だった。
   流れるような黒髪に、黒い瞳を持つ姉 ガラティアに双子は、夢中になった。
   同じく黒髪に黒い瞳のガラムは、醜い姿をしていたが、聡く、心優しかったのだが、双子は、彼を見もしなかった。
    ガラムは、悲しみ、遠く離れた森へと隠れすむようになった。
   やがて、ガラティアは、双子の子を産んだ。
   それは、4人の男女の赤ん坊で、うち二人は、神のごとき力を持った異形の子供たちであり魔族の祖となった。
    残りの二人は、脆弱ななんの力も持たない子供だったが、賢く、美しい、人の祖となる者だった。
    ガラティアは、女神より授かった宝具を2つ持っていた。
   一つは、剣で、武力でこの世を統べる力を持つものだった。
    もう一つは、鏡で、知力でこの世の人々を導くものだった。
    ガラティアは、剣を魔族へ、鏡を人の子へと与えた。
   魔族と人の子は、分かたれて別々の国を作り、それぞれに繁栄していった。
        しかし、ある日、人の子が魔族の力を羨みガラティアへと訴えた。
   「我々にもあのような力をお与えください。さもなければ、いつ、あの者たちに攻められるかと不安でたまらないのです」
    困ったガラティアは、兄  ガラムのもとへと人の子らを向かわせた。
   話をきいたガラムは、最初、人の子らを拒絶していたが、そのうち、あまりにも人の子らが頭を下げるものだから、嫌けがさして己の持っていたたった一つの宝具を人の子に与えた。
   「これを持って、はやく、帰ってくれ。そして、もう二度とこの地へと現れるな」
    ガラムの与えた宝具は、一冊の本だった。
   それは、人の子のどんな願いも叶えてくれるものだった。
   人の子は、それで、魔族の国へと侵攻し、彼らを蹂躙した。
   魔族は、その本のために人の子が狂わされたと嘆き、本を人の子から奪い取ろうと戦った。
   こうして、魔族と人の子は、あい争うようになったのだという。
   「その本は、原始の書と呼ばれ、畏怖の念を持って、人々から『R』と呼ばれています」
    そうなんだ。
   俺は、その話をきいても、特に何も思うことはなかった。
   よくある昔話だし。
   ただ。
   俺の表紙をなどるあの男の指先を思い出していた。
   そして、初めて俺が本として成ったときのあの男の言葉。
   「お前なら、『R』に匹敵することだろう」
       「『R』ってなんだ?」
    俺は、アルカイドにきいた、アルカイドは、答えた。
   「私にも、わかりません。ただ、その本を手に入れる者は、神にもなれるという伝承があるぐらいの凄い宝具だったということです」
   俺は、アルカイドが立ち去ってから、アークに聞いてみた。
   「アークは、本になった時の俺の表紙に書かれている言葉がわかる?」
   「いや、正直、超古代文字であるということしかわからないな」
    アークが言ったので、俺は、全てをアークに話してしまいたいと思ったが、それ以上は、話せなかった。
    だって、そうだろう?
   奴が俺の表紙に『永久魔法機関Rー15』と刻んでいるなんてこと、俺は、言いたくなかった。
    ましてや、昔話とはいえ、もともとの『R』の引き起こしたことの話をきいた後では、それは、誰にも知られてはならないことだった。
    「どうした?ユウ」
    アークが俺のことを抱き寄せてきいてきた。
   「アーク」
  俺はアークの首に腕を回して、アークにキスをした。
   「ユウ?」
    俺は、アークの胸に顔を埋めてその胸の健やかな音に耳をすませた。
   とくん、とくん。
   暖かい音が聞こえてきて、俺は、微笑みを浮かべていた。
   アーク。
   「アーク、俺のこと、好き?」
   「ああ」
    アークが俺を抱き締めて言った。
   「愛している、ユウ」
    「俺も」
    俺は、目を閉じてアークに身を任せて囁いた。
   「愛してるよ、アーク」
    俺は、アークをソファに押し倒した。
   「ユウ?」
     俺は、アークの手をとり一本一本に口づけしていった。
    「ユウ」
     アークは、俺を引き寄せると、ソファに押し付け、キスを貪った。
   「んぅ・・」
   「ふっ・・」
    俺から口を離したアークは、言った。
   「愛している、ユウ。今まで抱いてきた誰よりもお前がいい」
   「アーク」
    俺は、アークの背に腕を回して彼を抱き締めた。
   アークは、俺の着ていたシャツのボタンをもどかしげに外すとそれを脱がせ、続いて、ズボンと下着も取り去った。
   俺は、足をアークの腰に絡ませ、彼を全身で抱いた。
   「アーク・・」
   俺は、囁いた。
   「壊れるまで抱いて欲しい」
    そうして。
   全てを忘れさせて。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~

乃ぞみ
BL
※ムーンライトの方で500ブクマしたお礼で書いた物をこちらでも追加いたします。(全6話)BL要素少なめですが、よければよろしくお願いします。 【腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者】 エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。 転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。 エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。 死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。 「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」 「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」 全体的に結構シリアスですが、明確な死亡表現や主要キャラの退場は予定しておりません。 闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったります。 本編ド健全です。すみません。 ※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。 ※ 攻めがまともに出てくるのは五話からです。 ※ タイトル変更しております。旧【転生先がバトル漫画の死亡フラグが立っているライバルキャラだった件 ~本筋大幅改変なしでフラグを折りたいけど、何であんたがそこにいる~】 ※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。

婚約破棄された悪役令息は従者に溺愛される

田中
BL
BLゲームの悪役令息であるリアン・ヒスコックに転生してしまった俺は、婚約者である第二王子から断罪されるのを待っていた! なぜなら断罪が領地で療養という軽い処置だから。 婚約破棄をされたリアンは従者のテオと共に領地の屋敷で暮らすことになるが何気ないリアンの一言で、テオがリアンにぐいぐい迫ってきてーー?! 従者×悪役令息

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

処理中です...