7 / 28
6 失いたくないものができました。
しおりを挟む
「要するに」
半壊した宿屋の部屋の中で、クリスは、にこにこといつものように微笑みながらきいてきた。
「これは、すべて、この魔導書、つまり、ユウがやったことなんだ?」
「ああ」
アークは、俺を両手で抱き締めて頷いた。
「この本・・魔導書であるユウが、彼らを召喚したらしい」
「らしいって・・」
クリスは、地獄から現れた悪魔もかくやというような恐ろしい笑顔を浮かべてアークと俺を見つめて言った。
「たかだか痴話喧嘩ごときのために、魔王ディエントスと光の精霊王アルカイドを召喚って。まあ、それは、いいとして」
それは、いいんだ?
俺は、アークの腕の中からクリスにきいたが、クリスは、俺を無視して言った。
「問題は、これからどうするか、だ」
「これから?」
アークにきかれて、クリスは、溜め息をついた。
「いいか?お前たち。喧嘩しても、いいさ。だが、人に迷惑をかけるな!人としての基本、だろ?」
「それは、そうかもしれないが・・」
アークが口答えするのに、クリスは、冷え冷えとした笑みを向けた。
「この人たちが、迷惑してないって?してるよ、当然。寝てるとこそのまま、呼び出したんだぞ!しかも、一ヶ月もこのままって、マジで、どう責任とる気だよ!」
「そ、それは・・」
アークが目を泳がせる。
「とにかく、王都にある俺の館に客人としてお招きして過ごしてもらおうかと」
「はぁ?」
クリスが怒りを爆発させた。
「魔王ディエントスを王都に入れる気か!お前は、正気なのか!」
「俺は、別に、かまわんぞ」
ディエントスが面白そうにクリスに話しかけたのをきっと睨み付けると、クリスは、続けた。
「それに!光の精霊王アルカイドをお迎えするって!えらいことになるぞ!教団のみなさんが、こんなことを見逃してくれると思ってるのか!それを、自宅に招く、だって?どう考えったって、国賓待遇だろうが、国賓!」
「いや、気を使わないでもらいたい」
精霊王アルカイドがクリスに優しく微笑みかけた。
「私も、人の子の生活というものにまんざら興味がないというわけでもないのでな。この際、人間界を見物させてもらおうかと思っているのだ」
「マジで?」
クリスが、まな尻を上げて、アークと俺を見た。
「ほら、光の精霊王に気を使わせているじゃないか!」
別に、その人気なんか使ってないと思うんだけど。
俺は、念話をクリスに送った。
ただ単に、珍しいものを見物して、うまいものを食って、かわいい女の子とかに囲まれてちやほやされたいだけじゃね?
クリスの顔色がさぁっと青ざめた。
「どうした?クリス」
アークがクリスに駆け寄ってよろめくクリスを支えると、魔王と精霊王が腰かけているベッドの隅に座らせた。
「大丈夫か?」
「ああ・・」
クリスが額を押さえて俯いた。
「すまない、アーク。なんだか、酷い頭痛がして」
「無理は、体に毒だ。休んだ方がいいぞ、クリス」
アークに言われて、クリスは、ぐわっと激昂した。
「誰の、せいだ、誰の!私が体調を崩してるのは、アーク、お前とお前の魔法書のせいだろうが!」
辺りが、静まり返る。
荒い呼吸をしているクリスに、精霊王が慰めるように肩を叩いて言った。
「落ち着くがいい、クリスとやら。我々は、当惑してはいるが、怒りはしていない」
「ア、アルカイド様・・」
クリスが、弾かれたように立ち上がってアルカイドに礼をとる。
「申し訳がありません。ご無礼ばかり、お許しを」
「かまわん。楽にするがいい、クリスよ。我々は、なんにせよ、今は、そこな魔導書のサーバントにすぎぬのだからな。あまり気を使ってくれるな」
「おう、そうだぞ、人間」
魔王ディエントスも、にやにやしながら言った。
「いまさら、ペコペコされても、別に、嬉しくもないしな。それより、飯でも食わせろ。腹が減った」
「ちっ!」
クリスは、舌打ちしながらも、頷いた。
「すぐに、食事を用意させる」
「すまない、クリス。お前に苦労かけて」
アークが、ショボンと項垂れる。それを見たクリスがここぞとばかりに捲し立てた。
「本当にな!もう、謝らなくってもいい。そのかわり、そのろくでもない魔法書を今すぐに、燃やしてしまえ!悪いことはいわない、その方が、絶対、人類のためになる」
「その本の扱いに困っているというのなら、私が貰ってやる」
魔王ディエントスがクリスに向かって言うと、精霊王アルカイドも頷いた。
「うむ。人間には過ぎた力だというなら、精霊界で預かってもよい」
「いや、この本は、誰にも渡すわけにはいかない」
アークが俺を抱き締めて言った。
「これは、俺のたった一人の伴侶なのだからな」
「本が伴侶?」
魔王と精霊王が奇妙な表情を浮かべた。クリスが2人に向かって慌てて言った。
「気にしないで下さい。こいつは、本の精にたぶらかされておかしくなってるんです」
本の精って、俺のこと?
俺は、クリスの態度に怒りが頂点まで達していた。
俺が。
本の中から俺の手足がするんと伸びていく感覚がした。
俺は、叫んだ。
「たぶらかされたんだろ!たぶらかしたのは、お前たちだろうが!」
その場にいる全員が凍りついたかのように俺の方を見つめていた。
はっと、俺は、気づいた。
俺、人間の姿になってる!
俺は、全裸でアークの膝の上に抱えられていた。
わわっ!
俺は、思わず体を隠した。
恥ずい!
「ユウ!戻ったのか」
アークが俺の耳元にキスして言った。
「心配したんだぞ、本のままでうんともすんとも言わなくなったんだから」
「・・言ってたし」
俺は、ぷいっとそっぽを向いて言った。
「念話で話しかけたけど、無視してたんじゃないか」
俺は、アークの腕から逃れようともがいた。だが、アークは、俺を離そうとはしなかった。
「念話?」
アークが、はっと気づいた様子で言った。
「あの、頭の中でぼそぼそなんか言ってる感じ、あれ、ユウだったのか?」
「そうだよ!」
俺が肯定すると、アークは、納得いったという様子で頷いた。
「すまなかった。てっきり疲れてて、幻聴がきこえてるんだとばかり思っていた。このところ、魔王討伐のことでいろいろあったもんだから」
「私の討伐、だと?」
魔王ディエントスが剣呑な声を発した。
「貴様のような虫けらがこの私を倒すだと?もう一度、死んでみるか?人間よ」
「さっきのは、油断してたんだよ。今度は、そう簡単にはやられない」
「アーク、やめといた方が」
アークが俺をそっと離して横に立たせると、自分が着ていた茶色のローブを俺に着せ、そっと頬を撫でた。
「ユウ、危ないから退いてろ。すぐに、片付けてお前のもとに戻るから、待っていてくれ」
「でも・・」
アークは、立ち上がると魔王と対峙した。
「いいか?この虫けらは、一味違うってことを見せてやる」
3分後。
俺は、膝の上にアークを抱えて床の上に座り込んでいた。
「アーク・・」
「ユウ、どこだ?お前が、見えない・・」
アークの伸ばした手を俺は、頬に押し当てた。
「ああ、ユウ、そこか・・すまんな、婚姻したばかりだというのに、お前をまた一人にしてしまう」
「アーク」
アークの片腕はもげ、下半身は失われていた。辺りには、血の臭いが漂っていて、俺は、気分が悪くなりそうだった。
「しっかりして!」
「ふん」
魔王ディエントスは、悪びれる様子もなく、にっと笑った。
「弱い虫けらのくせに魔導書の力をあてにもせずにこの私に向かってくるとは、なかなか見所がある。気に入った。お前を魔王城に戻るまでの従者としてやろう」
ええっ?
おれは、アークをぎゅっと抱き締めて魔王の方を見た。
「でも、死にかけてるし」
「治せばいいではないか、魔法書よ。お前には、容易いことであろう」
まあ、そうなんだけど。
俺は、治癒の魔法を発動した。
俺とアークは白い光に包まれ、アークのからだの失われた部分は、どんどん再生されていった。
「アーク、大丈夫?」
俺がきくと、アークは、むくっと起き上がって言った。
「うぅ・・さずがに一日に二回も生き返ると変な気がするな」
「その前に、2度も死にかけるなんて、どうかしてるだろ!」
クリスがすごく冷たい目をして俺たちを見つめて言った。
「まず、風呂に行け!行って、汚れを落として、服を着替えてこい!ついでに、2人とも反省してこい!」
俺たちは、クリスの剣幕に追いやられるようにして部屋から駆け出した。
ドアを開けるとそこには人だかりができていた。人々は、裸にローブを纏った俺と、下半身丸出しのアークを見て、どよめいていた。
「ただの喧嘩、だ。気にするな。散れ」
アークの雰囲気に押されて、人々が少しひいたのを見て、アークは、俺を抱き上げると宿屋の一階にある風呂場へと向かって走り出した。
1階の食堂には、ちょうど朝食時で人がけっこう集まっていた。
そこを俺を抱いてアークは、すごい勢いで突っ切っていった。
人々の視線が痛い。
風呂場へ駆け込んだアークは、俺を下ろすと、ローブを脱がせてキスしてきた。
「ユウ・・無事だったか?どこにも怪我などしてないか?」
「お、俺は、大丈夫だけど・・それより、アークの方が、大丈夫なの?」
俺は、アークに上から下まで舐めるように見つめられて、全身が熱くなっていた。
「アーク・・も、いいから・・」
「だめだ。どこも、本当に、怪我してないだろうな」
「怪我なんて、してないから」
俺は、軽くぽんぽん、とアークの肩を叩いた。
「もう、やだよ!」
「ユウ・・お前は、不思議、だ」
アークは、俺をじっと見つめて、そして、抱き締めると口づけした。そして、俺を抱き締めたまま、耳元で囁いた。
「こうしてると、まったく普通の人間なのに。お前は、本当に本なんだな、ユウ」
「そうだよ、俺は、人間じゃない」
俺は、アークに抱かれて、繰り返した。
「俺は、人間じゃない。俺と婚姻の契約をしたこと後悔してるのか?アーク」
「まさか」
アークは、俺の頬にキスを落とした。
「こんな面白いこと、人生で初めてだよ、ユウ」
アークは、そうしてくっくっ・・と笑い始めた。
「この俺と喧嘩するためだけに魔王ディエントスと光の精霊王アルカイドを召喚したって?マジで、すごいな、お前は」
アークは、俺を抱き締めて言った。
「マジで、すごい!」
アークにぎゅうぎゅう、抱き締められて、俺は、ドキドキと胸を高鳴らせていた。
失いたくないかも。
俺は、アークの体温を感じていた。
暖かく、優しい。
それは、ずいぶんと長い間、俺が得ることのできなかったものだった。
この温もりを、守りたい。
そう、俺は、思っていた。
半壊した宿屋の部屋の中で、クリスは、にこにこといつものように微笑みながらきいてきた。
「これは、すべて、この魔導書、つまり、ユウがやったことなんだ?」
「ああ」
アークは、俺を両手で抱き締めて頷いた。
「この本・・魔導書であるユウが、彼らを召喚したらしい」
「らしいって・・」
クリスは、地獄から現れた悪魔もかくやというような恐ろしい笑顔を浮かべてアークと俺を見つめて言った。
「たかだか痴話喧嘩ごときのために、魔王ディエントスと光の精霊王アルカイドを召喚って。まあ、それは、いいとして」
それは、いいんだ?
俺は、アークの腕の中からクリスにきいたが、クリスは、俺を無視して言った。
「問題は、これからどうするか、だ」
「これから?」
アークにきかれて、クリスは、溜め息をついた。
「いいか?お前たち。喧嘩しても、いいさ。だが、人に迷惑をかけるな!人としての基本、だろ?」
「それは、そうかもしれないが・・」
アークが口答えするのに、クリスは、冷え冷えとした笑みを向けた。
「この人たちが、迷惑してないって?してるよ、当然。寝てるとこそのまま、呼び出したんだぞ!しかも、一ヶ月もこのままって、マジで、どう責任とる気だよ!」
「そ、それは・・」
アークが目を泳がせる。
「とにかく、王都にある俺の館に客人としてお招きして過ごしてもらおうかと」
「はぁ?」
クリスが怒りを爆発させた。
「魔王ディエントスを王都に入れる気か!お前は、正気なのか!」
「俺は、別に、かまわんぞ」
ディエントスが面白そうにクリスに話しかけたのをきっと睨み付けると、クリスは、続けた。
「それに!光の精霊王アルカイドをお迎えするって!えらいことになるぞ!教団のみなさんが、こんなことを見逃してくれると思ってるのか!それを、自宅に招く、だって?どう考えったって、国賓待遇だろうが、国賓!」
「いや、気を使わないでもらいたい」
精霊王アルカイドがクリスに優しく微笑みかけた。
「私も、人の子の生活というものにまんざら興味がないというわけでもないのでな。この際、人間界を見物させてもらおうかと思っているのだ」
「マジで?」
クリスが、まな尻を上げて、アークと俺を見た。
「ほら、光の精霊王に気を使わせているじゃないか!」
別に、その人気なんか使ってないと思うんだけど。
俺は、念話をクリスに送った。
ただ単に、珍しいものを見物して、うまいものを食って、かわいい女の子とかに囲まれてちやほやされたいだけじゃね?
クリスの顔色がさぁっと青ざめた。
「どうした?クリス」
アークがクリスに駆け寄ってよろめくクリスを支えると、魔王と精霊王が腰かけているベッドの隅に座らせた。
「大丈夫か?」
「ああ・・」
クリスが額を押さえて俯いた。
「すまない、アーク。なんだか、酷い頭痛がして」
「無理は、体に毒だ。休んだ方がいいぞ、クリス」
アークに言われて、クリスは、ぐわっと激昂した。
「誰の、せいだ、誰の!私が体調を崩してるのは、アーク、お前とお前の魔法書のせいだろうが!」
辺りが、静まり返る。
荒い呼吸をしているクリスに、精霊王が慰めるように肩を叩いて言った。
「落ち着くがいい、クリスとやら。我々は、当惑してはいるが、怒りはしていない」
「ア、アルカイド様・・」
クリスが、弾かれたように立ち上がってアルカイドに礼をとる。
「申し訳がありません。ご無礼ばかり、お許しを」
「かまわん。楽にするがいい、クリスよ。我々は、なんにせよ、今は、そこな魔導書のサーバントにすぎぬのだからな。あまり気を使ってくれるな」
「おう、そうだぞ、人間」
魔王ディエントスも、にやにやしながら言った。
「いまさら、ペコペコされても、別に、嬉しくもないしな。それより、飯でも食わせろ。腹が減った」
「ちっ!」
クリスは、舌打ちしながらも、頷いた。
「すぐに、食事を用意させる」
「すまない、クリス。お前に苦労かけて」
アークが、ショボンと項垂れる。それを見たクリスがここぞとばかりに捲し立てた。
「本当にな!もう、謝らなくってもいい。そのかわり、そのろくでもない魔法書を今すぐに、燃やしてしまえ!悪いことはいわない、その方が、絶対、人類のためになる」
「その本の扱いに困っているというのなら、私が貰ってやる」
魔王ディエントスがクリスに向かって言うと、精霊王アルカイドも頷いた。
「うむ。人間には過ぎた力だというなら、精霊界で預かってもよい」
「いや、この本は、誰にも渡すわけにはいかない」
アークが俺を抱き締めて言った。
「これは、俺のたった一人の伴侶なのだからな」
「本が伴侶?」
魔王と精霊王が奇妙な表情を浮かべた。クリスが2人に向かって慌てて言った。
「気にしないで下さい。こいつは、本の精にたぶらかされておかしくなってるんです」
本の精って、俺のこと?
俺は、クリスの態度に怒りが頂点まで達していた。
俺が。
本の中から俺の手足がするんと伸びていく感覚がした。
俺は、叫んだ。
「たぶらかされたんだろ!たぶらかしたのは、お前たちだろうが!」
その場にいる全員が凍りついたかのように俺の方を見つめていた。
はっと、俺は、気づいた。
俺、人間の姿になってる!
俺は、全裸でアークの膝の上に抱えられていた。
わわっ!
俺は、思わず体を隠した。
恥ずい!
「ユウ!戻ったのか」
アークが俺の耳元にキスして言った。
「心配したんだぞ、本のままでうんともすんとも言わなくなったんだから」
「・・言ってたし」
俺は、ぷいっとそっぽを向いて言った。
「念話で話しかけたけど、無視してたんじゃないか」
俺は、アークの腕から逃れようともがいた。だが、アークは、俺を離そうとはしなかった。
「念話?」
アークが、はっと気づいた様子で言った。
「あの、頭の中でぼそぼそなんか言ってる感じ、あれ、ユウだったのか?」
「そうだよ!」
俺が肯定すると、アークは、納得いったという様子で頷いた。
「すまなかった。てっきり疲れてて、幻聴がきこえてるんだとばかり思っていた。このところ、魔王討伐のことでいろいろあったもんだから」
「私の討伐、だと?」
魔王ディエントスが剣呑な声を発した。
「貴様のような虫けらがこの私を倒すだと?もう一度、死んでみるか?人間よ」
「さっきのは、油断してたんだよ。今度は、そう簡単にはやられない」
「アーク、やめといた方が」
アークが俺をそっと離して横に立たせると、自分が着ていた茶色のローブを俺に着せ、そっと頬を撫でた。
「ユウ、危ないから退いてろ。すぐに、片付けてお前のもとに戻るから、待っていてくれ」
「でも・・」
アークは、立ち上がると魔王と対峙した。
「いいか?この虫けらは、一味違うってことを見せてやる」
3分後。
俺は、膝の上にアークを抱えて床の上に座り込んでいた。
「アーク・・」
「ユウ、どこだ?お前が、見えない・・」
アークの伸ばした手を俺は、頬に押し当てた。
「ああ、ユウ、そこか・・すまんな、婚姻したばかりだというのに、お前をまた一人にしてしまう」
「アーク」
アークの片腕はもげ、下半身は失われていた。辺りには、血の臭いが漂っていて、俺は、気分が悪くなりそうだった。
「しっかりして!」
「ふん」
魔王ディエントスは、悪びれる様子もなく、にっと笑った。
「弱い虫けらのくせに魔導書の力をあてにもせずにこの私に向かってくるとは、なかなか見所がある。気に入った。お前を魔王城に戻るまでの従者としてやろう」
ええっ?
おれは、アークをぎゅっと抱き締めて魔王の方を見た。
「でも、死にかけてるし」
「治せばいいではないか、魔法書よ。お前には、容易いことであろう」
まあ、そうなんだけど。
俺は、治癒の魔法を発動した。
俺とアークは白い光に包まれ、アークのからだの失われた部分は、どんどん再生されていった。
「アーク、大丈夫?」
俺がきくと、アークは、むくっと起き上がって言った。
「うぅ・・さずがに一日に二回も生き返ると変な気がするな」
「その前に、2度も死にかけるなんて、どうかしてるだろ!」
クリスがすごく冷たい目をして俺たちを見つめて言った。
「まず、風呂に行け!行って、汚れを落として、服を着替えてこい!ついでに、2人とも反省してこい!」
俺たちは、クリスの剣幕に追いやられるようにして部屋から駆け出した。
ドアを開けるとそこには人だかりができていた。人々は、裸にローブを纏った俺と、下半身丸出しのアークを見て、どよめいていた。
「ただの喧嘩、だ。気にするな。散れ」
アークの雰囲気に押されて、人々が少しひいたのを見て、アークは、俺を抱き上げると宿屋の一階にある風呂場へと向かって走り出した。
1階の食堂には、ちょうど朝食時で人がけっこう集まっていた。
そこを俺を抱いてアークは、すごい勢いで突っ切っていった。
人々の視線が痛い。
風呂場へ駆け込んだアークは、俺を下ろすと、ローブを脱がせてキスしてきた。
「ユウ・・無事だったか?どこにも怪我などしてないか?」
「お、俺は、大丈夫だけど・・それより、アークの方が、大丈夫なの?」
俺は、アークに上から下まで舐めるように見つめられて、全身が熱くなっていた。
「アーク・・も、いいから・・」
「だめだ。どこも、本当に、怪我してないだろうな」
「怪我なんて、してないから」
俺は、軽くぽんぽん、とアークの肩を叩いた。
「もう、やだよ!」
「ユウ・・お前は、不思議、だ」
アークは、俺をじっと見つめて、そして、抱き締めると口づけした。そして、俺を抱き締めたまま、耳元で囁いた。
「こうしてると、まったく普通の人間なのに。お前は、本当に本なんだな、ユウ」
「そうだよ、俺は、人間じゃない」
俺は、アークに抱かれて、繰り返した。
「俺は、人間じゃない。俺と婚姻の契約をしたこと後悔してるのか?アーク」
「まさか」
アークは、俺の頬にキスを落とした。
「こんな面白いこと、人生で初めてだよ、ユウ」
アークは、そうしてくっくっ・・と笑い始めた。
「この俺と喧嘩するためだけに魔王ディエントスと光の精霊王アルカイドを召喚したって?マジで、すごいな、お前は」
アークは、俺を抱き締めて言った。
「マジで、すごい!」
アークにぎゅうぎゅう、抱き締められて、俺は、ドキドキと胸を高鳴らせていた。
失いたくないかも。
俺は、アークの体温を感じていた。
暖かく、優しい。
それは、ずいぶんと長い間、俺が得ることのできなかったものだった。
この温もりを、守りたい。
そう、俺は、思っていた。
11
お気に入りに追加
796
あなたにおすすめの小説
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
【完結】僕の大事な魔王様
綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。
「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」
魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。
俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/11……完結
2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位
2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位
2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位
2023/09/21……連載開始
こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果
てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。
とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。
「とりあえずブラッシングさせてくれません?」
毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。
そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。
※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~
乃ぞみ
BL
※ムーンライトの方で500ブクマしたお礼で書いた物をこちらでも追加いたします。(全6話)BL要素少なめですが、よければよろしくお願いします。
【腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者】
エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。
転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。
エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。
死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。
「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」
「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」
全体的に結構シリアスですが、明確な死亡表現や主要キャラの退場は予定しておりません。
闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったります。
本編ド健全です。すみません。
※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。
※ 攻めがまともに出てくるのは五話からです。
※ タイトル変更しております。旧【転生先がバトル漫画の死亡フラグが立っているライバルキャラだった件 ~本筋大幅改変なしでフラグを折りたいけど、何であんたがそこにいる~】
※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

婚約破棄された悪役令息は従者に溺愛される
田中
BL
BLゲームの悪役令息であるリアン・ヒスコックに転生してしまった俺は、婚約者である第二王子から断罪されるのを待っていた!
なぜなら断罪が領地で療養という軽い処置だから。
婚約破棄をされたリアンは従者のテオと共に領地の屋敷で暮らすことになるが何気ないリアンの一言で、テオがリアンにぐいぐい迫ってきてーー?!
従者×悪役令息

完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる