転生したら本でした~スパダリ御主人様の溺愛っぷりがすごいんです~

トモモト ヨシユキ

文字の大きさ
上 下
3 / 28

2 そうです。俺、その魔導書です。

しおりを挟む
     「笑うな!クリストファー・エリオット!」
    アークが忌々しげにクリスを睨み付けて言った。クリスは、目尻に滲んだ涙を指先で拭いながら言った。
    「だって、お前、この国1の魔導師のこと、下手くそって」
    クリスは、そういうとげらげらと笑い転げた。
    「言うにことかいて、下手くそ!」
     「ちっ!」
      アークは、舌打ちしてクリスから目をそらすと、ベッドの上に座っている俺の方を睨み付けた。
    「ああ・・お前、なんて名だっけ?」
     「細川  ユウ」
     俺は、アークにさっきもらった暖かいスープの入ったカップを両手で持ったまま答えた。両手から伝わってくる温もりや、おいしそうなスープの匂いを感じて、俺は、なんだか、雲の中を漂っているようなフワフワした気持ちがしていた。
     あの後、二人は、俺を封じられていた迷宮、今では、ダンジョンと呼ばれている場所から連れ出すと近くの町の宿屋へと連れ帰った。
    二人は、俺の体を風呂で洗ってくれた後、丁寧に布で拭いて、アークのものらしいシャツを着せてくれ、ベッドへ座らせスープを入れたカップを渡してくれた。
    ほんとは、俺は、気恥ずかしくって、二人の介助から逃れようとしたけど、それを彼らは許さなかった。
    「もう、体調は、よくなったのか?」
   アークは、不機嫌そうに俺にきいた。俺は、ちらっとアークを上目使いに見上げて言った。
   「お陰さまで」
    「お前」
     アークがベッドの脇に置かれていた椅子に腰掛けながらため息をついた。
    「生意気とか、言われないか?」
    「別に」
     俺が答えると、アークは、かぁっと頬を上気させて怒りに拳を握りしめて俺の方に身を乗り出した。
    「そういうとこだよ!」
     クリスが爆笑して苦しげな息をしながら、怒りに震えるアークの肩に手を置いて言った。
    「まあまあ、それぐらいにしといてくれないか、アーク。このままじゃ、笑い死にしてしまいそうだから」
   「ちっ!」
    アークは、また舌打ちして、クリスの手を振りほどくと言った。
   「覚えてろよ、クリス」
   俺は、ゆっくりと暖かいスープを啜りながら二人のやり取りを聞いていた。
   どうやらこの二人は、この辺りを治める大国の王の命でダンジョンに眠っているという魔導具を探しているらしい。
    アークは、大国の魔導師団長であり、クリスは、騎士団長であり、第2皇子のようだった。
    人心地つくと俺は、二人のことをじっと観察していた。
   二人とも、タイプは違うがイケメンだ。
   黒髪に深い緑の瞳をした男っぽいアークに比べると、金髪に青い瞳をしたクリスは、少し、優しげに見えないこともなかったが、どちらも背の高いがっしりとした肉体をした大男だった。
    さっきも、アークは、俺を軽々と抱き上げて、ダンジョンから連れ出したしな。
    俺は、思い出して顔が熱くなっていた。
   お姫様だっこされたって、どんだけだよ!
   「ところで、ききたいんだが、ユウ」
   クリスが俺に向き直って、真剣な表情をした。
    「なぜ、ユウは、あんなところにいたんだ?」
    「それは・・」
     俺は、悩んだ。
   この人たちに本当のことを話してもいいのだろうか。
   俺が昔したことを知ったら、俺を使って、また、たくさんの人を殺そうとかしないとは限らない。
    俺は、もう、あんなことさせられたくはない。
   俺がいい淀んでいるとアークが俺を庇うように言った。
    「こいつは、どうやら、長い時間あそこに封じられていたみたいだし、まだ、記憶が曖昧なのかもしれない。少し、様子を見た方がよくないか?クリス」
    「それもそうだが」
     クリスが深く息を吐いた。
    「国の魔導師団長と騎士団長が二人がかりで挑んで、何も成果がなかったなんて、どの面下げて王都に帰ればいいって言うんだ?アーク」
   「そのことか」
    アークは、クリスに言った。
   「もともとあの場所に、世界を救う魔導具があるということが怪しい伝承にすぎんのだから、仕方がないだろう」
       「しかし、それでは、我々のアストラル王国が、このまま魔王軍に蹂躙されるのを防ぐことができないということだぞ」
    魔王軍?
    俺は、二人の会話に耳をそばだてていた。
   この時代には、魔王がいるのか。
   俺は、ふうふうっとスープを吹いてから一気に飲み干した。そして、口許を手の甲で拭うと二人にきいた。
    「魔王、って?」
    「魔王ディエントスのことだ」
     二人が言うには、魔王ディエントスは、100年ほど前にこの世界に現れたらしい。
   そして、魔物を束ねて人間を狩るようになったのだという。
   「今や、世界は、魔王軍の脅威にさらされている」
   「だから我々は、王の命を受けて魔王を討伐するために必要な魔導具を探してこのダンジョンへとやってきたのだ。しかし」
    クリスが手を広げて天を仰いだ。
   「封じられていたのは、こんな子供一人だけ。他には、何もなかったわけだ。このままでは、人類は、魔王によって滅びるのを待つしかない」
    「魔王って、そんなに強いの?」
    俺の質問に二人は、信じられないものを見るような目で俺を見て言った。
   「当たり前だろう?何を言ってるんだ。ユウ、もし、魔王が普通の魔物並みの力しか持たないのなら、我々がとうに討伐しているさ」
    クリスが言ったから、俺は、少し、うつむいて考え込んだ。
   この二人は、たぶん、いい人、だ。
   だけど。
  大国の人々がみな、いい人だとは、限らない。
  俺は、俺を書いたあの魔導師のことを思い出していた。
   「呪われた書よ。お前を手に入れた者は、この世界の全てを手に入れるであろう」
    奴は、最後に、そう言った。
     俺は、俺が殺した人々の断末魔の悲鳴を思い出して、ぶるっと震えて自分の体を抱き締めた。
   俺は、罪人だ。
   恐ろしい罪を犯した。
   あんなことは、もう、2度としたくない。
   「どうしたんだ?ユウ」   
  アークがそっと俺の体に触れた。
   その瞬間、俺の体の震えが止まった。
   優しく、暖かい何かがアークから俺に向かって流れてくるのを感じて、俺は、涙ぐんだ。
   この人たちは。
   俺は、思っていた。
   救うに足る人たちなんじゃないかな。    
  俺は、少し潤んだ目でアークとクリスを見た。
   「俺が・・」
   俺は、二人に向かって言った。
  「俺があんたたちの探している魔導具だとしたらどうする?」
    「はい?」
    二人が固まった。
   そうだよね。
   俺は、はぁっと溜め息をついた。
   こんなわけのわからないこと、ないよね。
   俺は、二人に手を差し出して光弾の魔術式を手に纏わせて展開して見せた。
   「信じられない」
    アークが息を飲んで呟いた。
   「これは、古代の禁じられた魔術式だぞ。たしか、大魔導師  エドランと共に滅んだ筈の魔導書に記されていたという魔術だ」
    「本当か?アーク」
     クリスに、アークは、頷いた。
   「ああ、俺も全ては解読できないが、おそらくそうだ。この術式の一部をかつて、師であるオーガント卿が持つ古代魔術について書かれた書で見たことがある」
        「では、本当に、この少年が、我々の探し求めている魔導具だというのか?」
    「俺は」
    俺は、二人に言った。
    「たぶん、エドランとかいう奴によって書かれた魔導書、だ」
    「なんだって?」
    アークが俺を興奮した様子で見つめた。
   「お前があの禁断の書『太虚の書』だというのか?」
    何それ?
   俺は、ちょっと引いていた。
   俺、そんな名前で呼ばれてるの?
   「ああ」
    俺は、気を取り直してアークに向かって頷いて見せた。
   「俺が、その魔導書だ」
    「マジか・・」
    アークが俺をまじまじと見つめてきたので、俺は、少し、照れてしまいうつ向いた。
   こいつら、ほんと、無駄にイケメンだな。
   「もし、それが本当なら、俺は、お前を滅ばさなくてはならない」
   アークが言ったので俺は、顔をあげて彼を見つめた。
   「俺を滅ばす?」
   「ああ」
    アークが俺に向かって言い放った。
  「『太虚の書』は、呪いの書だ。それが存在するだけで人類は、危険にさらされることになる。だから、それを発見した魔導師は、それを滅しなくてはならない、と言い伝えられている」
    マジで?
   俺、殺されちゃうの?
   俺は、身を固くしてアークを見つめていた。アークは、俺のことをじっと見つめていたが、やがて、溜め息をついた。
   「だが、それは、言い伝えに過ぎん。実際には、そんなものはない、と言われていたんだしな。お前が、誰か、安全な人間のもとにしっかりと管理されさえしていれば、問題はない筈だ」
    「安全な人間って?」
     俺は、アークにきいた。アークは、少し考えてから答えた。
   「魔術を扱えて、お前と契約を結ぶことができて、しかも、心の正しい者、だな」
    「例えば?」
    クリスがきいたら、アークがにやりっと笑った。
   「この俺とか」
    はい?
    俺とクリスは、絶句してアークをただただ見つめていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~

乃ぞみ
BL
※ムーンライトの方で500ブクマしたお礼で書いた物をこちらでも追加いたします。(全6話)BL要素少なめですが、よければよろしくお願いします。 【腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者】 エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。 転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。 エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。 死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。 「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」 「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」 全体的に結構シリアスですが、明確な死亡表現や主要キャラの退場は予定しておりません。 闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったります。 本編ド健全です。すみません。 ※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。 ※ 攻めがまともに出てくるのは五話からです。 ※ タイトル変更しております。旧【転生先がバトル漫画の死亡フラグが立っているライバルキャラだった件 ~本筋大幅改変なしでフラグを折りたいけど、何であんたがそこにいる~】 ※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

婚約破棄された悪役令息は従者に溺愛される

田中
BL
BLゲームの悪役令息であるリアン・ヒスコックに転生してしまった俺は、婚約者である第二王子から断罪されるのを待っていた! なぜなら断罪が領地で療養という軽い処置だから。 婚約破棄をされたリアンは従者のテオと共に領地の屋敷で暮らすことになるが何気ないリアンの一言で、テオがリアンにぐいぐい迫ってきてーー?! 従者×悪役令息

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

処理中です...