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16 メメント・モリ

16ー3 婚約破棄ですか?

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 16ー3 婚約破棄ですか?

 ライナス先生は、楽しげに微笑んだ。
 「クラウスとルイーズが会いたがっていた。それにリハビリ室の連中も」
 「これからよろうと思っていたとこだし」
 わたしは、答えた。
 「それから、家に帰るかな」
 家といってもあの、借家のことだ。
 しばらく過ごした思い出のあるご主人様の屋敷じゃない。
 「そうか」
 ライナス先生は頷いた。
 「なら、今夜、私も家に行っていいか?」
 「いいけど」
 わたしは、頬が熱くなるのを感じていた。
 わたしたちは、ライナス先生のこだわりで結婚するまで清い仲を貫こうと約束していた。
 だけど。
 もう、半年以上結婚の予定は、ずれ込んでいた。
 それは、主にわたしのせいだった。
 わたしが認知症のエルフのための施設造りをしていたからだ。
 この半年の間、わたしたちは、結婚どころかお互いの顔すら見ることなく過ごしていた。
 「話があるんだ」
 ライナス先生に唐突に言われてわたしは、緊張していた。
 やっぱりきたか!
 エルフのためとはいえこの数ヵ月わたしは、あまりにもライナス先生をないがしろにしていた。
 それは、ライナス先生の都合もあってのことだったがな。
 だけど、ライナス先生が王都で体調を崩していたときにもわたしは仕事をしていた。
 「帰りまふ」
 わたしは、ふらふらと立ち上がるとライナス先生に背を向けて歩き出した。
 ライナス先生は、去っていくわたしの背中に向かって告げた。
 「また、今夜会おう、トガー」

 わたしは、商会の馬車に乗って家まで送ってもらうとその家にはじめて入っていった。
 もう、ずいぶん前に荷物を運び込んで以来、ずっと放置していたからな。
 ラーズさんが手配してくれたらしく家の中は、一応小綺麗に掃除されていた。
 わたしは、リビングのソファに腰かけるとしばらくぼぅっとして天井を見上げていた。
 『話があるんだ』
 ライナス先生の言葉を思い出す。
 もう、話なんて、あのことしか思い付かないよ!
 婚約破棄。
 まさか、自分がされるとは思ってなかったけど仕方がないな。
 好き勝手してた罰だ。
 わたしは、後悔と自分に対する腹立ちのあまり唸った。
 そして。
 少しだけ。
 ほんの少しだけ安堵していた。
 
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