上 下
12 / 230
1 異世界でも介護はじめました。

1ー6 過去の話

しおりを挟む
 1ー6 過去の話

  「あの方は、ある意味、このグレングルド王国の抱えている問題を体現しておられるのです」
 ジェイムズさんは、わたしに自分の執務室でお茶を入れてくれながら話してくれた。
 かつてマクシミリアン・フォン・フェブリウス伯爵は、この王国最強の騎士であり神に選ばれた勇者だった。
 もう何十年も前からこのグレングルド王国は、魔物の軍勢によって侵略されてきた。
 だが神の選びし勇者の登場は、防戦一方であった王国にとっては、カンフル剤となる。
 グレングルド王国国王であるアルノルド王は、ついに重い腰をあげることにした。
 国民から魔物たちと戦うための義勇兵を募ると、その兵士たちを勇者であるフェブリウス伯爵に率いさせ魔物たちの領国へと攻め込ませたのだ。
 最初は、優勢に見えた義勇軍だったが、しだいに魔物たちに押し返されていく。
 というのも、それまでは有象無象の魔物の集まりにすぎなかった魔物たちに王が現れたからだった。
 その魔王の出現により勇者率いる義勇軍は、ほぼ壊滅状態になった。
 結局、魔王軍との戦いは、王国からの和平の申し出により終結した。
 だが。
 時既に遅く、義勇軍の多くの兵士、そして、勇者であるフェブリウス伯爵は、魔物たちの手によって手足を奪われた。
 というのも魔物たちは、敵を倒した証としてその敵の体の一部を切り取り持ち去っていったからだった。
 「特に兵団を率いていた勇者である旦那様に対する魔王軍の仕打ちは酷いものでした」
 ジェイムズさんは、わたしにお茶の入ったカップを手渡しながら目頭を押さえた。
 「魔王は、追い詰められた義勇軍の兵士たちを救うために自ら捕えられた旦那様の手足を切り取り、そして、旦那様を生かしたままアルノルド王のもとへと木箱に入れて送り届けたのです」
 マジですか?
 わたしは、自慢じゃないが平和が売りの日本で育ち生きていた戦争を知らない子供たちの内の1人だった。
 こういう残虐な話は、ほんとに引いてしまう。
 ジェイムズさんは、続けた。
 「魔王軍との間に和平協定が結ばれた後、グレングルドにとって旦那様は邪魔な存在でしかなかったのです。アルノルド王は、旦那様に幾ばくかの報奨を与えるとこの辺境の地に送り返しました」
 最初は、領民たちも家族も戦争の英雄としてフェブリウス伯爵を褒め称えた。
 しかし、それも過去のこと。
 いつしか、伯爵は、いてはならない戦争の遺物となっていた。
 「殺されることこそなかったものの、旦那様は誰からも見向きもされなくなり、そして、奥様も」
 フェブリウス伯爵には、若く美しい妻とかわいい娘がいた。
 だが、ある日、屋敷付近に現れた魔物から幼い我が子を守ろうとして奥方は、亡くなってしまったのだという。
 「それ以来、旦那様はすっかり心を閉じておしまいになられて閉めきった部屋の中にとじ込もって可愛がられていたライザお嬢様にもお会いになろうとはしません」
 
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

売れない薬はただのゴミ ~伯爵令嬢がつぶれかけのお店を再生します~

薄味メロン
ファンタジー
周囲は、みんな敵。 欠陥品と呼ばれた令嬢が、つぶれかけのお店を立て直す。

宰相夫人の異世界転移〜息子と一緒に冒険しますわ〜

森樹
ファンタジー
宰相夫人とその息子がファンタジーな世界からファンタジーな世界へ異世界転移。 元の世界に帰るまで愛しの息子とゆったりと冒険でもしましょう。 優秀な獣人の使用人も仲間にし、いざ冒険へ! …宰相夫人とその息子、最強にて冒険ではなくお散歩気分です。 どこに行っても高貴オーラで周りを圧倒。 お貴族様冒険者に振り回される人々のお話しでもあります。 小説投稿は初めてですが、感想頂けると、嬉しいです。 ご都合主義、私TUEEE、俺TUEEE! 作中、BLっぽい表現と感じられる箇所がたまに出てきますが、少年同士のじゃれ合い的なものなので、BLが苦手な人も安心して下さい。 なお、不定期更新です。よろしくお願いします。

氷の騎士は、還れなかったモブのリスを何度でも手中に落とす

みん
恋愛
【モブ】シリーズ③(本編完結済み) R4.9.25☆お礼の気持ちを込めて、子達の話を投稿しています。4話程になると思います。良ければ、覗いてみて下さい。 “巻き込まれ召喚のモブの私だけが還れなかった件について” “モブで薬師な魔法使いと、氷の騎士の物語” に続く続編となります。 色々あって、無事にエディオルと結婚して幸せな日々をに送っていたハル。しかし、トラブル体質?なハルは健在だったようで──。 ハルだけではなく、パルヴァンや某国も絡んだトラブルに巻き込まれていく。 そして、そこで知った真実とは? やっぱり、書き切れなかった話が書きたくてウズウズしたので、続編始めました。すみません。 相変わらずのゆるふわ設定なので、また、温かい目で見ていただけたら幸いです。 宜しくお願いします。

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

二度目の召喚なんて、聞いてません!

みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。 その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。 それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」 ❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。 ❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。 ❋他視点の話があります。

「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」 絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。 だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。 ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。 なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!? 「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」 書き溜めがある内は、1日1~話更新します それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります *仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。 *ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。 *コメディ強めです。 *hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!

似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります

秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。 そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。 「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」 聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。

処理中です...