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1 母の再婚

1ー11 対価

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 1ー11 対価

 その夜からアーキライトは、僕に字を教え始めた。
 夕食後、アーキライトは、台所のテーブルで僕に字を書く練習をさせた。
 「まあ、アーキライトちゃんがシアにお勉強を教えてくれるの?」
 母さんは、嬉しそうに言ったが、アーキライトは、冷ややかに答えた。
 「字を教えているだけだ。勉強を教えているわけじゃない」
 そんな風に言いながらもアーキライトは、その日から、毎晩、僕に字を教えてくれた。
 もちろん、その代わりに僕は、アーキライトの願い事を叶えているわけで。
 でも、それは、なんだか奇妙な願い事ばかりだった。
 一緒に月を見るだとか、畑の野菜の名前を教えるだとか、なんの役にも立ちそうにないことばかりで。
 僕は、てっきりアーキライトは、僕が願い事を叶える力があることを知らないのでは?とか思ってしまったんだけど、たまに、アーキライトは、風呂を作れ、とかちゃんとした願い事をしてくることがあったのでそうでもないらしい。
 ともかく、アーキライトは、僕に字を教え、代わりに僕は、アーキライトのなんてことのない願い事を叶え続けた。
 そして、夏が過ぎる頃には、僕は、ちょっとした単語が理解できるようにはなっていた。
 「ありがとう・・兄さん」
 僕は、不本意だったがアーキライトに礼を言った。だって、アーキライトに教えてもらったおかげで僕は、字が読めるようには、なったわけだし。
 僕に礼を言われたアーキライトは、一瞬、動きを止めて僕を凝視していた。
 うん?
 なんか、息も止めてる?
 「アーキライト、兄さん?」
 アーキライトがごほごほと咳き込む。
 そして、彼は、僕に冷たく告げた。
 「別に、お前のためではない。私がお前に願いを叶えさせたかっただけだ」
 「そうなんだ」
 僕は、アーキライトに告げた。
 「でも、もう、それもなくなるわけだね。だって、僕は、もう字を覚えたし」
 アーキライトは、僕の言葉を鼻で笑った。
 「ただ、字を覚えただけじゃないか。これからが勉強の始まりだからな」
 はい?
 僕は、勉強なんて教えて欲しいわけじゃないんだけど?
 でも、アーキライトとの夜の時間は続けられて。
 アーキライトは、僕に古いぼろぼろの絵本とかを与えて勉強を教えてくれた。
 そして、僕は、彼のなんてことのない願い事を叶え続けた。
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