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8 愛は、死にますか?
8ー8 幸せだった。
しおりを挟む「あなたは、僕に輸魂の術を使わせて彼の人の魂をマリアンヌの肉体に移そうとしているわけ?」
僕は、アウデミスに訊ねた。
「そんなことを僕が引き受けると思ってるのか?」
「やってくれるさ、ユヅキ、君ならな」
アウデミスが低い声で笑った。
「君の兄弟たち、そして、君の村の・・いや、君の国の民たちを守るために、君は、引き受けてくれる筈だ」
「僕には、できないよ」
僕は、頭を振った。
「そんな理に反すること、僕には、できない」
「ならば、フランシス・・いや、アリアにやってもらうことになるだけだ」
アウデミスが言った。
「だが、いいのか?この『生命の書』は、使うものを呪う書だ。かつて、このカスケード王国の始祖がそうであったように、アリアも呪いを受けることになるだろう。それでも、お前はいいのか?ユヅキ」
マジか?
僕は、悩んでいた。
言霊使いとしてこの世界の理に逆らうことは許されない。だが、アリアを呪われし者にすることはできない。
ならば。
「1つだけ、みんなが納得できるいい方法がある」
僕は、アウデミスに提案した。
「あなたが悪魔との契約を破棄すればいい」
そうすれば、アウデミスは、好きなだけ『生命の書』に触れられる。
しかし、アウデミスは、不機嫌そうに言った。
「それは、絶対にできない。私は、『アンバー』との契約で命をすでに差し出している。もし、契約を解けば、私は死ぬことになるだろう」
「でも、『生命の書』を僕は、使いたくない」
僕は、アウデミスに向かって言った。
「あなた自身のために」
「お前がどうしても嫌だというなら、こちらにも、考えがある。今まで見逃してきたが、お前のストレージの中の国を滅ぼしてもいいんだぞ」
アウデミスが言ったので、僕は応じた。
「僕は、その前に、『アンバー』をあなたの中から追い出す!」
「そんなこと、出来るわけが」
「きけ!『アンバー』よ!お前は、アウデミス・ケイス・カスケードの肉体から出て、2度と戻らない。そして、この地を去るのだ!もちろん、アウデミスの命は、置いていけ!」
「ぐぅあぁっ!あっ!!」
アウデミスが苦しみだし、アリアが駆け寄ろうとしたのを、僕は、押し止めた。
アウデミスの体内から黒い霧のようなものが漏れ出てくるのがわかった。その霧は、しばらく辺りの空中をさ迷い、そして、霧散した。
その場に残されたアウデミスは、床の上に崩れ落ちていたが、やがて、ゆらりと立ち上がった。
「お前は・・何てことを、してくれたんだ・・」
アウデミスが僕をすごい形相で睨み付けた。
「自分が何をしたのか、わかっているのか?」
「ああ」
僕は、答えた。
「わかっているさ」
「彼女は・・『アンバー』の魔力で生き延びていたのだ。奴の魔力がなければ、彼女は、本当に死んでしまう」
アウデミスは、部屋から飛び出すと走り出した。その後をマリアンヌが追う。
僕とアリアも彼らの後を追った。
アウデミスは、あのガラス張りの温室へと走った。
そして。
彼女は、いた。
緑の鮮やかな、午後の光の中で彼女は、最後の輝きを放っていた。
体の半分以上が溶けて、崩れていたが、彼女は、それでも美しかった。
彼女は、息を弾ませてやってきたアウデミスに向かって、儚く、美しく微笑んだ。
「ああ。わたしたち、やっと、これでお別れができる。ずいぶんと長いさよならだったけど、幸せだったわ。ありがとう、アウデミス様。わたしの・・王子・・」
「ああ・・」
アウデミスは、溶けて消えようとしている彼の人に向かって虚しく手をさしのべた。
「私の・・私の・・」
「さようなら・・わたしの・・王子・・」
にっこりと微笑んで、彼女は、消え去った。
アウデミスは、ただ力なく立ち尽くしていた。
太陽が落ちて、辺りが暗くなる頃、アウデミスは、城の中へと去っていった。
僕とアリアは、城を出て行くことにした。
それから、しばらくして、アウデミスとマリアンヌが城から姿を消したという知らせが僕のもとへと届いた。
どこへ、消えたのか。
それは、誰も知らない。
僕と彼を繋いでいたストレージは、いつの間にか、切り離されていて、いくら僕が呼び掛けても、アウデミスのもとには届くことはなかった。
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