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7 職業に貴賤なし、です。
7ー9 塔の中の王子
しおりを挟む王子は、双子だった。
この国では、双子は、国を滅ぼすという言い伝えがあった。
そのため、双子の内の1人、兄である方だけが、王子として名をもらった。
王子の名は、アウデミス・ケイス・カスケードといった。
だが、この物語は、この王子の物語ではない。
これは、もう1人の王子。
名も貰うことができなかった方の王子の物語だ。
この世界では、名を持たぬものには、神からの祝福は与えられない。
だから、当然、その名無しの王子は、なんの力も持たなかった。
魔力も持たないその王子は、1人、塔に隔離されて暮らしていた。
王子は、いつも、1人だった。
王子のもとを訪れるのは、ただ1人の少女だけだった。
その少女もまた名を持たぬ者だった。
少女は、奴隷だった。
魔族と人間の両方の血をひく少女は、毎日、王子に食事を運んでいた。
王子が話しかけても、話してはいけない。
それが、少女に与えられた命だった。
だが、ある日、それは、破られる。
王子が、一輪の花を少女に差し出したのだ。
それは、塔の窓辺に咲いた草花にすぎなかった。
だけど、少女にとっては、初めて受けとるプレゼントだった。
「あ、りがとう、ございます」
少女の言葉に少年は、ただ、ニッコリと微笑んだ。
少年は、生まれたときから言葉を奪われていた。
それから、少女は、毎日、塔を訪れる度に王子に言葉を教えていった。
「アウデミス、あなたの名前ですよ」
少女は、名のない王子にもう1人の王子と同じ名を与えた。
そうして、少女に名を与えられ、言葉を与えられ、王子は、1人の人間になっていく。
王子は、いつしか、その少女に恋をしていた。
金色の髪に、青い瞳を持つその少女に恋をした王子は、いつも少女が来る外の世界に興味を持つようになった。
だけど、この塔からは、出られない。
出れば、殺されるかもしれない。
だから、少女は、王子に物語を聞かせるようになった。
王子が外に出れなくても満たされるように。
王子は、幸せだった。
その小さな世界で、満ち足りていた。
だが、ある日、少女は、言った。
「わたしは、もう長くは生きられません」
少女は、王子に話した。
「わたしは、今年でもう120歳になります。魔族としても長生きした方です。ですが、もうそろそろ寿命が尽きるでしょう」
王子は、死を知らなかった。
まだ、彼は、それを見たことがなく、触れたこともなかった。
王子が10才の時に、変化が起きた。
ある日、少女の代わりに別の少女がやって来た。
それは、人間の奴隷だった。
その少女に王子は、以前来ていた金髪の少女のことを訊ねた。
その少女は、戸惑っていた。
王子は、言葉も理解できない筈だった。
その少女は、王子にきいた。
「なぜ、言葉が理解できるんですか?」
王子は、金髪の少女が自分に何をしてくれたのかを話した。
少女は、王子の話を聞いたあと、言った。
「母は、死にます。もうすぐ、自由になる。このまま、往かせてやってください」
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