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3 冒険者になれなくたって、大丈夫!
3ー8 カンパニュラ
しおりを挟む店名は、『カンパニュラ』に決まった。
異世界の花の名前だ。
前世で子供の頃、1度だけ会ったことがある母さんの好きな花だった。
言霊使いは、言葉を発すると同時に家族から離され、師のもとへと送り込まれる。
そして、一人前になるまで家族とは会うことが許されない。
僕がたった1度だけ母さんに会うことを許されたのは、母さんが亡くなる直前のことだった。
僕は、そんなことは知らなかった。
ただ、無邪気に喜んでいた。
僕は、そのとき、母さんにカンパニュラの花を贈った。
すると、母さんが言ったんだ。
「これは、わたしの1番好きな花なの」
それから一年後、母さんは、亡くなった。
僕は、木の板に店名を刻んだものを店の入り口に掲げた。
「カンパニュラ、か」
ハヅキ兄さんが懐かしそうに目を細めた。
「昔、母さんが、庭に植えていたな」
「ああ、そういえば」
カヅキ兄さんが微笑んだ。
「この花は、母さんが小さな王子さまにもらったとか言ってた花だ」
王子さま?
僕は、かつて会ったときの母さんの言葉を思い出した。
「佑月くんは、わたしの王子さまだから。言霊の力でたくさんの人を救ってくれるの」
そうか。
僕は、少し、目が潤んでくるのを感じていた。
母さんは、僕のことが好きだったんだね。
「さあ、開店、だ!」
まあ。
店といってもこの『カンパニュラ』は、ほんとに小さな店だし、数種類の薬草とポーションを2種類くらいしか置いてなかった。
だから、店番も本当は、僕1人で充分なんだ。
だから、兄さんたちは、午前中だけ店にいるとストレージへと戻っていった。
店には、僕1人が残された。
うん。
開店当日だというのに、客は、1人も来なかった。
世間は、厳しいな。
僕は、店のカウンターにもたれてぼんやりとしていた。
カラン。
ドアが開く音がして、誰かが入ってきた。
「いらっしゃいませ!」
僕が笑顔で振り向くと、そこには、フランシスが立っていた。
「ユヅキ?」
フランシスは、最初、信じられない様子で、まるで幽霊を見たような顔をしていたが、やがて、瞳を潤ませた。
「ユヅキ!」
フランシスは、僕の方へと駆け寄ってきて、カウンター越しに僕に抱きついてきた。
「無事だったのか!よかった」
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