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    黒い影がだんだんと輪郭を持って、人の形になっていく。
   「佑月くん・・なんで?わたしを受け入れてくれないの?」
    影が、悲しげに僕を見つめていた。
   「こんなに愛しているのに」
     「僕は」
      僕は、涙を流しているその少女の影をそっと抱いた。
    「君と共に逝こう、マチカ」
     「・・本当に?」
    今では、白いすべらかな肌、美しい長い黒髪の美少女の姿となったその影は、涙しながら微笑んだ。
    「ありがとう、佑月くん」
     「共に消滅しよう」
     僕は、言った。
     「この世界から」
     「うれしい」
     少女は、僕の胸に頬を埋めて言った。
    僕らの体は、ゆっくりと光の粒子に変化していく。
    そして。
   大気へと消えていくのだ。
   ああ。
  僕は、最後に見た。
   青く澄みわたった空を。
   どうか。
   次に生まれ変わることがあるのなら、どうか、平和に暮らせますように。
   僕は、そう考えてくすっと笑った。
   完全に消滅していく僕には、こんな願いなどありえないのに。
    でも。
    そうだな。
    願うことが許されるなら、せめて、僕を守って死んでいった兄さんたちには、幸せになって欲しい。
     どうか。
    兄さんたちが優しい世界にいけますように。
   僕は、消えゆく中、祈っていた。
   優しい世界でありますように。

   かつて。
   とある世界で僕は、生きていた。
   その世界は、平和で優しい世界だった。
   表向きは。
   悪神。
   それは、世界を裏から支配し、人を食らう古い神。
   僕たち、言ノ葉一族は、それと戦っていた。
   言霊といわれる力を使って。
   全ての言葉には、力が込められている。
    僕たち、言ノ葉一族は、その力を操ることが出来た。
    僕たちを知る人々は、僕たちのことをこう呼んだ。
    言霊使い、と。
  だが、人の世が変化していくにつれ、言霊を使える者の数は、少なくなっていった。
    僕が、最後の言霊使いだった。
    僕には、3人の兄がいたが、彼らは、言霊使いとしては、資質を持たなかった。
    一番上の兄は、言ノ葉   葉月。
    僕の通っていた高校の数学教師をしていた。
    真面目で、一族で最強の剣士だった。
    2番目の兄は、言ノ葉   菜月。
    まだ、大学生だったが、遊び人だった。
    だけど、僕をいつも守ってくれる体術の使い手だった。
    一番下の兄は、言ノ葉    香月。
    古い考えに凝り固まった家を捨て出て行き、喫茶店で働いていた。
    ずっと、影から僕のことを見守ってくれていた優しい人だ。
     だけど。
    3人とも死んでしまった。
   僕を悪神から守るために。
   僕は、決して、悪神を許せない。
   その存在を絶つためだけに、僕は、生まれてきたのだ。
   たとえ、それが、僕の幼馴染みのマチカの体に入っても。
    
   マチカは、体の弱かった僕のたった1人の友だちだった。
   そして。
    たった1人の恋人。
   
    「殺すがいい」
     マチカの口で悪神は、笑った。
    「わしは、永遠に死なぬ」
     そう。
    悪神は、死なない。
    僕は、気づいてしまった。
   僕たち悪神と対峙する存在がいる限り、その敵である悪神も存在し続けるのだと。
    だから、僕は。
   あのとき、マチカと共に消えることを望んだ。
     そして、僕の生涯は、終わったのだ。
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