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6 魔法少女同好会へようこそ!

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     俺は、窓から空を眺めて考えていた。
    何故。
     災難は、災難を呼ぶのだろうか。
     今、俺は、旧校舎の2階にある古い教室にいた。
    たぶん、理科室だったところだ。
     誰かが、残されていたビーカーやらなんやらでお湯を沸かしている音が聞こえた。
    「はい、どうぞ」
     見上が俺にコーヒーの入ったビーカーを差し出した。
     俺は、受け取った。
     「サンキュな」
      見上がぽっと、赤くなった。
       可憐、だ。
      俺は、また、空を見上げた。
     何故、俺が、こんなところでコーヒーを飲んでいるのか、というと、それは、全て、山田とクリスのせいだった。
      いろいろあって、二人は、俺の正体を知っているわけだが、そんな二人が何を思ったのか、俺を応援する会を結成しようと言い出したのだ。
     その名も、『魔法少女同好会』
      まったく、余計なことを。
      俺は、ぎりぎりと歯軋りした。
     俺の平穏な高校生活が、どんどん遠ざかっていく。
     何が、『魔法少女同好会』だ!
     よく、こんなふざけた同好会が認められたものだ。
     この学校の上層部は、みんな、頭が沸いてるのか?
     だが、まあ、通ってしまったものは、仕方ない。
     君たちは、好きなことをしたらいいさ。
      俺は、別に、止めはしない。
     問題は、なんで、それに、俺を巻き込むのか、だ。
     俺のことは、そっとしといて。
     プリーズ。
     だいたい、『魔法少女同好会』って何するつもりだよ。
     山田にきくと、奴は、言った。
    「『魔法少女同好会』は、表向きは、マンガ、アニメなどの中に登場する魔法少女の研究をする同好会だが、実際は、本物の魔法少女、つまり、お前の活動を支援する会だ」
     そうなんだ。
      最初、俺は、こんなことに賛同する奴がいるわけない、と思っていた。
     一応、同好会の成立には、5人の会員が必要な筈だった。
      だが、なんと、こんな同好会に入会する者が7人もいた。
     世の中、狂っている。
     「だが、7人も会員がいるなら、俺は、いんじゃね?」
       そう、俺は、山田に言った。
       奴は、言った。
     「伊崎、キューティー   ウォリアーがいなくて、どうするんだよ」
      ええっ!
      そうなんですか? 
      まったく。
      この世は、闇だな。
      という訳で。
     俺は、無条件で、名誉会員。
     発起人兼会長、山田。
    アドバイザー、クリス。
   そして、一般会員の、岡部、見上。
    さらに、まだ、正体のばれていない礼二郎まで、加わっている。
     7人いるなら、後1人足りないって?
     なんと、7人目は、山田の彼氏だった。
     山田の彼氏は、生徒会の副会長の武木田という奴だった。
     俺でも知っている程の人気者だ。
    文武両道。
     校内生写真の売れ行き、堂々の1位。
     次期生徒会会長の呼び声も高い奴だった。
    なんでも、生徒会会長はじめとして、多くの有力者の弱みを握っているということらしい。
      そこら辺は、さすが、山田の彼氏だ。
      だから、こんな怪しげな同好会も通ってしまったのかもしれない。
      迷惑な話だ。
    しかも、部室が空きがないとかで、旧校舎の使用の許可がでた。
     「ここ、老朽化してるんじゃ?」
       俺がきくと、武木田は、言った。
       「大丈夫だよ。自己責任で、ここがある限り使用していいって、生徒会会長が」
       だ。
      騙されてる!
       いろんな意味で。
      大丈夫なのか?
     だが、俺が、どうこう思っていても仕方ない。
    『魔法少女同好会』は、あれよあれよという間に成立され、無事に、顧問も決まってしまった。
      顧問は、古典教師の滝沢    レオン。
      つまり、クリスの連れの夢魔の奴だ。
     こうして、突っ込みどころは、いっぱいあったが、『魔法少女同好会』は、活動を開始することとなった。
     「今日、集まってもらったのは、『魔法少女同好会』の今後の活動方針を決定するためだ」
       武木田がしきる。
      活動、って。
      俺は、まったく、やる気もなかった。
     いったい、何をする気なんだか。
     しかも、約1名、倒す筈の夢魔が混じってるし。
     しかし、俺の他の連中は、やる気だった。
     「僕は、何も力になれないから、応援用のコスチュームを作ろうと思います」
     見上が言うと、信じられないことに、岡部も、賛同した。
     「僕も、手伝うよ」
      はい?
       コスチューム?
       誰が着るんだよ!
      だが、俺の心の声は、無視された。
    「じゃあ、コスチューム作りは、これから、文化祭にむけての目玉ということで。それで、他の活動は、どうする?」
     武木田、しきるしきる。
    クリスが言う。
    「僕は、夢魔の動向と、その傾向と対策を考えるべきだと思う」
     「夢魔の研究、か。いい考えだ」
      レオンが言った。
      「敵を知ることは、大切だからな」
       「あんた、自分の仲間を殺されるっていうのに、平気なのか?」
       礼二郎が、ずばっと言った。
        レオンは、あっさりと。
       「私たちに、仲間意識は、ないからな」
       「そうよね。夢魔っていうものは、本来、徒党を組まないものだから」
      リリアンが言った。
      アニータも頷いた。
     「夢魔の性質は、わかってきてるんだけど、夢魔が何のために、誰に、産み出されているのかも、あたしたちは、知らないのよ」
        「どこから来て、何処に行くのか、か」 
       レオンは、少し考えていた。
     「私も自分が、誰に、何故、産み出されたのかは、よくわからない。ただ、たぶん、我々は、皆、一人の女から生まれてきている」
      「みんな、兄弟なんだ」
        クリスが言った。
      レオンは、頷いた。
     「そして、その女の名は、アビゲイル」
     はい?
     俺は、きいた。
     「何だって?」
      「全ての夢魔の母の名は、アビゲイル、だ」
      アビゲイル?
      何?
     俺の夢の中に現れるバラの乙女が、全ての夢魔の母?
     俺は、ショックを受けていた。
      俺の様子に気づいた礼二郎がきいた。
     「もしかして、お前、その女のこと、知っているのか?」
       「いや」
       俺は、言った。
       「なんでも、ない」
       「そう言えば、伊崎君、前に言ってたよね。同じ夢を繰り返し見るって」
      岡部が、余計なことを言った。
     「確か、その夢に出てくる女の名前が、そんな名前じゃなかった?」
     「マジで?」
     リリアンが言った。
     「ちょっと、聞いてないわよ、諭吉」
     そりゃ、そうだろ。
      何故、俺が、お前にそんな話をせにゃあならんのだ。
     リリアンが言う。
    「話なさいよ、夢の話を」
     俺は、まったく、気がのらなかった。
    だが、リリアンたちにせっつかれて、渋々、あの夢の話をした。
    バラの花弁の舞う花園。
     むせかえるような香り。
    黒髪の、美しい乙女。
     俺だけの。
     「この前の、あの、バラの花園みたいな場所に、あの人は、閉じ込めているらしい。名前は、アビゲイル。だけど」
     俺は、言った。
    「とても、全ての夢魔の母なんて、感じじゃない。彼女は、清廉で、美しい乙女だ。俺のアビゲイルは」
     俺の、というところに、リリアンと礼二郎がくいついた。
    二人は、アイコンタクトをかわした。
    リリアンが言った。
    「俺の、とは、お安くないわね」
     「その女、夢に出てくるだけなんだよな。なんで、お前のアビゲイルなわけ?」
  礼二郎が言った。
    俺は、こいつらの態度にムカついた。
    人の夢を土足で踏み躙る様な、その態度。
   こいつら、やっぱり、いつか、殺そう。
   俺が、決意を固めていると、アニータが、言った。
    「夢魔は、人の心、夢の中に潜むのよ。もしかして、アビゲイルは、諭吉の夢の中に潜んでいるのかも」
    何だと?
    俺は、イラついた。
    俺が反論しようとしたら、レオンが言った。
    「それは、ありうる。一度、確かめてみた方がいい」
    「決まりよ!」
    リリアンが言った。
    「みんな、今夜、諭吉の夢に集合よ!」
     「何だと?」
      俺の夢に集合、だと?
    こいつら、ふざけてる。
    俺は、言った。
    「そんなことが」
     「できちゃうのよね」
       リリアンが嬉しげに言った。
     「とにかく、みんな、今夜は、諭吉の家で合宿よ!」
    「勝手に決めるな!」
    俺が言うと、リリアンが言った。
     「あら、じゃあ、このまま、夢魔に取り付かれてる疑惑をはらさないでいるつもりなの?」
     「むうっ」
      「いつか、夢魔に取りつかれて、何か、やらかしちゃうかも」
     「何!」
      俺は、ちょっと考えた。
    夢魔に取りつかれた人間は、その慾望を晒してしまうことになる。
    俺の、慾望。
    考えたこともなかった。
    俺は、いったい、何を望み欲しているのか。
    とにかく。
    何を望み、欲しているにしても、あんなギャラリーの前で晒されるのだけは、ごめんだった。
     俺は、仕方なくみんなが夢に入ることを了承した。
     
      その夜。
     俺の部屋は、雑魚寝状態だった。
   「布団が、足りないな」
     俺が言うと、レオンとクリスが言った。
    「私たちは、同じ布団でいいから」
      「俺たちも」
     山田と武木田が言う。
     礼二郎がすかさず、言った。
     「なら、俺も、諭吉のベットで」
      「死んでしまえ!」
      俺は、鋭利な言葉を投げた。
      配置が決まると、リリアンが説明を始めた。
     「いい?みんな、順番に、諭吉のリングにキスするの。そしたら、諭吉の夢に入れるわ」
     「何だと?」
      俺は、言った。
     「やっぱ、中止!なし!解散だ!」
     「何よ」
      リリアンが言った。
     「リングにキスされるぐらい、いいじゃない。減るもんじゃなし」
      「減るんだよ!」
       俺が言うと、リリアンがきいた。
      「何が、よ」
      「ライフ、とか、いろいろなものが」
       「何、言ってんのよ」
        リリアンが言った。
       「あたしたちは、遊びでやってんじゃないのよ」
       「俺 も、だ! 」
        俺は、絶対に拒否するつもりだった。
       リリアンが溜息をつくと、指をパチンと鳴らした。
     「礼二郎、レオン、やっておしまい!」              
      二人が嬉々として、俺を押さえつけて身動きできないようにした。
    「や、やめろ!」
     「すまん、諭吉。これも、全て、お前のためだ」
      礼二郎が俺の上で、俺を押さえつけて言った。
     「さあ、始めようか」
      そうして、俺は、全員にリングにキスされてしまった。
      終わる頃には、俺は、ぐったりとしていた。
    しかし。
    礼二郎とレオンは、いつまでたっても俺を離さなかった。
   「いつまで、やってんだよ!」
    「すまん、この温もりが」
     礼二郎がうっすらと頬を染めて言った。
     「愛しくて」
      「死ね!」
     俺は、叫んだ。
    リリアンが言った。
    「これで、よし!」
     奴は、にんまり、笑った。
     「今夜は、楽しい夜になりそうね」
    これが、最悪の夜のはじまりだった。      
      
     
     
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