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113.陵墓埋没

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「こりゃまたすげえな」

 右鬼ヨーグイがどこか色めき立ち、そう口にします。

「なるほど?」

 対して私は困惑中。
予想外の事態に……小首を傾げます。

 右鬼ヨーグイと共に再びお寺の境内に戻った私。
寺の馬ではなく、乗ってきた鬼達の愛馬で移動したので、山の中腹から頂上辺りまで登るのも小一時間程しかかかりませんでした。

 階段を昇り、しかし昇りきる前から、中が何やら騒がしい。
そのまま奥に進み、朱雀の門を通り、陵墓の敷地に歩を進めます。

 貴妃の私が軽く行方不明になったとはいえ、子猫ちゃんならひとっ飛びですからね。
左鬼ズォグイから大僧正に話が伝わると思っていたのですが……。

 他に考えられる事と言えば、大僧正が笑い死にする事くらいでしょうが、すぐにその場から逃したのでお亡くなりの可能性も低いし……等と考えを巡らせていれば、何やら騒がしさの中心にガクリと項垂れる大僧正の後ろ姿が。

 座りこみ、どことなく震えていましたから、大僧正大往生説は消えました。

 あ、左鬼ズォグイが少し離れた所にいましたね。
私の身代わりをお願いしていた小雪シャオシュエも、どこかすまなそうな顔で私にペコリと頭を下げました。
早々に大僧正にバレたようなのを気にしているのでしょう。
子猫ちゃんも彼女の足元にいます。
1度私の所に戻ってすぐにまた飛んで行ったと思ったら、そこにいましたか。

 皮と骨のどちらの煎餅を食べているのでしょうね?
鬼はこちらに気づいて……何だかとってもニヤニヤしています。

 何があったのでしょう?
そういえば、何とはなしに当初と景観が……。

 そう思ったところで、冒頭、右鬼ヨーグイの色めき立った言葉と相成ったのです。

「あれは……貴妃、では?」
「そうだ、あれはお付きの者だ」
「じゃあ、貴妃は関係ないのか?」

 僧侶達が口々にこちらを見て何か囁いております。
化粧が完全に剥げてしまいましたから、今は子猫ちゃんが運んでくれた服に着換え、紗を被って顔を隠しています。
荷を持たせたのは恐らくシャオシュエ。
こういう気の利かせ方は女子おなご故だと思います。

 僧侶達の声に、大僧正はゆらり揺れながらゆっくりと立ち上がりました。
振り返り、ギロリとした目で私を捉えます。

 何でしょう……鬼気迫っていて怖いですね?

「き、き、き……」
「き?」

 ゆらゆらしながらこちらへ一歩、また一歩と向かって来ますが、きがどうしたのでしょう?

「貴妃ー!!
一体貴女は何をなさったのじゃー!!
陵墓が何故このような倒壊をしたか答えなされー!!」

 ダダダ、とお爺ちゃんとは思えない、年齢を感じさせない走りにびっくりです。

 すっと右鬼ヨーグイが間に入りこみ、詰め寄る大僧正を阻みました。

「どけい、小僧!
貴妃!
貴妃~!」

 大僧正、大興奮。

 でもまあ、確かにそうなるのも仕方ありません。

 だって陵墓、無くなっちゃってますから。

 建っていたはずの石造りの建物ごと陵墓が、倒壊__というか、地盤沈下したかのように地面が陥没して埋まっています。
地面からは建物の黒石が指先ほどお目見えして、土埃を被りつつ、それとなく月光やら、僧侶達の持つ松明やらに照らされて光を鈍く反射しているだけです。

 大僧正はひとしきり叫んだ後、頭に血が昇り過ぎたのか、ふっと意識を失ってしまいました。

「「「法印大僧正様?!」」」

 僧侶達が口々にそう言って駆け寄ってきます。

「はぁ、ったく……落ち着け」

 ため息をついた後、鬼は魔力を使って威圧すれば、僧侶達は息を飲み、立ち竦みました。

右鬼ヨーグイ
「年寄りが興奮し過ぎで気をやっただけだ」
「そうでしたか」

 特に血管が切れたとかでないなら、まあそんな事もあるでしょう。

「だ、大僧正から離れて下さい!」
「そうだ!
貴妃が何かしたのではないのですか!」
「高僧だったお2人も破門になったのは貴妃のせいでしょう!
陵墓にも何かしたからこうなったに違いない!」

 口々に随分罵ってくれますね。
陵墓の件は否定しきれませんが、それ以外は、濡れ衣です。

 しかしどうやら例の高僧2人組は、ある事ない事吹きこんでから出て行ったのが窺い知れます。

 松明を持つ僧侶達が明確に殺気立ったのに当てられたからでしょうか。

 煎餅をバリバリしていた子猫ちゃんの体が一回り大きくなりました。
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