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109.接触冷感素材と小蛇

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 __シュー、シュー……。

 尻餅をついた私のすぐ後ろからは、無数の噴気音。

 どうやらこちら側には思ったより大量の蛇がいたようです。

 箱を小脇に抱え、ゆっくりとした動作で立ち上がります。
流石に背後からの威嚇の気配には緊張しますが、蛇は本来臆病な生き物。
まずは刺激しない事が大事です。

 救いは先程通った穴が濡れていた事でしょうか。
お陰で今着ている衣が、思いの外冷たくなってしまいましたが。

 事前にこの寺を調査し、噂話なんかも含めて審議した結果、蛇の存在に思い至った私。

 そこでこの忍者服の登場です。

 この服の衣には少々特殊な糸を使っております。
何と触れると冷たい、夏に重宝する機能を持った糸!
前世の私も糸を開発しようとして、結局成功しませんでした。
熱の発散に効率的な布の織り方までは研究したのですが……。

 しかし今世で成し遂げたのです!
でかした、私。

 今夏に備えて作ってあった、とっておきのイチオシ品。
体温が糸に伝わるのが早く、奪った熱を即座に発散。
蒸れにくく、身につけているとかなり涼しいです。

 更に水に濡れると、効果が増します。
今夏、これを着て初代で耳にした忍法・水遁の術なる忍術を開発する気満々で、昨年の秋頃から密かに胸を踊らせておりました。

 しかし今は早春。
このような気温の低い地下で水に濡れると……かなり寒い。

 念の為、蛇を警戒して隠してはいても、手はかじかんでいます。
蛇が感じる熱の発生元があるなら、目元くらい。
でもずっと冷気に曝されていますからね。
きっと大丈夫。

 蛇は視力や聴力が悪く、代わりに振動や熱、臭いを感知する能力が発達しています。

 あの時壁に寄った大僧正の顔を抱き、蛇達に背を向けたのも、熱を感じさせないようにして標的から外す為でした。
私の冷たい腕と胸に抱かれ、皺々の顔面も冷えたこと間違いなし。

 後は振動と臭い……振動はともかく、臭いはわかりませんね。
忌避剤はもうありませんから、逆に嫌な臭いで追い払う事もできませんし。

 ゆっくりと振り返りつつ周囲を確認すれば、天井や前方には何もなく、やはり背後を取られていました。
黒蛇だらけです。
ちょっとドン引き。

 周りから察するに、ここは完全なる普通の洞窟のよう。
出口もわからないので、最悪ここで野宿ならぬ、洞窟宿をして、元の道を帰るしかありません。

 そろそろ目と魔力がつらくなってきたので、火を起こしたいですが、どうしたものか。

 __シューシューシュー。

 不意に蛇特有の噴気音の中に、他の蛇とは違う調子の音が混ざりました。

 すると音が少しずつ静かになり、シン、とします。

 __シューシューシュー。

 おや、またこの調子の音が。
と思っていたら、こちらを囲う蛇が一斉にけて何処かへ。

 と思えば、細長い紐……いえ、小蛇がニョロニョロとこちらに。
先程の小蛇です。
私の魔力の残渣がまだ体に残っております。

「どうしましたか?」

 足元近くでピタリと止まり、鎌首をもたげてた小蛇に声をかけてみます。
ひと先ずの危機は脱したようですが、声は小さめです。

 するとゆっくりと方向転換し、小蛇は私の半歩分進み、頭をこちらに向けて見やりました。

「ついて来い、と?」

 そう声をかけると今度はそのまま進むので、ついて行く事に致しましょう。
私の魔力を纏っているからか、それとなく意思疎通できるような、できないような……まあ勘です。

 この蛇達は、特にこの箱を守っていたという訳ではなさそうです。
確かに視力の悪い蛇が、普通に箱を識別すると考えるのも無理がありますね。

「時に小蛇ちゃん。
少し待って頂く事はできますか?」

 声をかけて歩みを止めれば、小蛇も止まってくれました。
鎌首をもたげて振り返る様は、何やら可愛らしさを感じます。

「実は先程から所々に松明の跡を発見しているので、火を灯して良いですか?」

 正直、もう目も魔力も限界。
暗い中で見えていた視界も、狭まってきました。

 一応ひと声かけ、驚かせないようわざと足音を立てて棒切れを幾つか手に取ります。
予備で持っていた針金で数個纏め、反対側には長めの棒切れを巻きつけます。

 頭巾を外して纏めた棒切れに括り、懐から出した火起こし用の黒鉛の棒と平たい金属を擦って火花を乗せ、布に着火します。
なけなしの魔力で火を操作すれば、簡易の燃える提灯の出来上がり。

 そうしてふと、鮮明になった視界に大きな鱗が映り、顔を上げました。
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