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57.磔の刑

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「もちろん先にどうするか皇貴妃に伝えておいて下さっても、下さらなくとも構いません。
お嫌でしたら沙龙サロンを催さなくてもよろしいのです」

 渋る陛下に続けます。

「得られる結果がその程度のものになるだけ。
私はあくまで餌として入宮しましたが、それをどう使うかはそちらの自由。
元より丞相には丞相のお考えもあって私を入宮させたのですから。
そして丞相の首で済む範囲であれば私は基本的に餌を演じながら自由に過ごして良いと契約書にも書いております。
求められれば助言も金の延べ棒分は致しますが、それをどう活かすかもまたそちらの自由ですから」

 ニコリと微笑み、懐から延べ棒4本。
今朝陛下が渡して情報提供願った分と、皇貴妃からの謝罪のお気持ちです。

「はっ、もしや今日渡した延べ棒があったから……」
「ええ。
馬蹄銀1つ上乗せされましたから、その分の働きも加味して話しております」
「「「守銭奴娘……」」」

 ん?
後ろからも?

 振り返るとキリリとした真顔の護衛……。

 少し教育が必要ですね。
まあ今は良いですが。

「どちらにしてもむしろ私を使わず、助言も活かしていただけない方が私には得なのですよ。
ついでに後宮から追い出していただけるならなお良しです。
後宮に来て早々にそれなりの役割は果たせているのですから。
それに私の両親も陛下との婚姻など望んでおりませんでしたし」

 それを聞いてギクリと体を強張らせる夫に、苦笑する丞相。
既に何かしらの手は打ってくれたようです。

 どうやら今世の両親は今までで1番親らしい親かもしれませんね。
彼らの娘で良かったです。

「特にこの話を父から聞かされた母は、父を磔の刑に処して3日3晩不眠不休で恨み言を吐き続けたくらいです」
「……それはそれでどうかと思うぞ」

 些か引いた目を私に向けられても困りますが、否定しなかったくらいには法律上の夫にも何かしらの覚えができたのでしょうか。

 まあ昨日のお昼には文を送りましたし、商人の基本は行動力です。
あ、うちの両親は貴族で領主夫妻でしたね。
 
「それには私も同意しますよ、陛下。
4日目に突入した朝は流石に母に眠り薬を盛って中断させました。
父の仕事が滞ってしまいましたからね。
それをあと2回繰り返したのですから、むしろ睡眠不足でフー家が滅ぶかと危ぶんだくらいです」
「どれだけ鬼気迫っておるのだ。
推し量るのがある意味やりにくい話ではないか。
というかそなたの父は不眠不休だったのか?」
「当然です。
こんなつまらない縁談を持って来ておいて1週間かそこらで自由を与えては母と私の恨みが消化されませんからね。
それでも10日目には粥と仮眠を1時間差し上げた私は優しい娘です」
「皇帝との縁談がつまらない……」
「優しさの基準が低すぎませんか。
飲まず食わずで不眠不休の10日間ですか。
死にますよ」

 諸悪の根源たる丞相に言われるとは心外な?!
どこぞの夫のぼやきは素通りしてしまいます。

「それくらい私も生家もこの婚姻は嫌だったのですよ。
そろそろご自分自身と皇帝伴侶としての魅力とやらを過信されていると自覚されましたか?」
「ふぐっ」
「そして来年の皇貴妃との離縁が決定しても私は何も困りません」
「ふぐっ……それは……嫌だ」

 そう言ってガクリと項垂れてしまいました。

ユーには……皇貴妃には伝える。
伝えて……許可を得たら正式に皆に沙龙サロンの日時を通達しよう」
「ええ、それで。
それではそろそろお帰り頂けますか。
睡眠不足はお肌に悪いです。
ほらほらほらほら」

 殿方2人の手を引いて立たせ、背後に回り、ぐいぐいと背中を押して小屋から押し出します。

「おい、待て!
またか?!
押すでない!
皇帝と丞相を押して追い出す貴妃など聞いた事がないぞ!」
「ブフッ、そんなに押さなくとも……ふふふ」
「お、おい、晨光チャンガンも笑ってないで……ええい、聞かぬか!」

 無視して2人を小屋の外に放り出してから、滑りの良くなった扉を締めて新たに付けてくれた鍵で施錠します。

「一応貴妃の夫と丞相で後ろ盾役なんだろう?
良かったのか?」
「もちろんです」

 呆れた顔の護衛には微笑むのみです。
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