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43.人生相談に無かった可能性は無かった

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「よろしいですか、陛下。
本来ならわたくしは己の伴侶を家柄等関係なく好きに選べる環境で、お金も人間関係にも満足した生活を送っておりました。
それを奪われる苦痛がどれ程のものか、最も帝位から遠いとされた皇子でいらした陛下になら察せられましょう?
既に私が何故なにゆえ莫大なお金を動かし、一国の皇帝や丞相であっても蔑ろにできない程の縁故を持ち合わせているかについても調べがついてらっしゃいますよね。
信を得る為に最初から私はそこに辿り着けるよう情報規制を弛めて入宮致しましたもの。
そして私の言葉が嘘や誇張した物でないと今は理解されているはず」

 とはいえ私の全てに調べがついているとも思えませんが。

「……っ」

 ズバズバと言葉の刃で切りつけられ、先程から悪さを言い当てられた子供のような反応です。
もちろん陛下の状況や心情は理解しておりますが、かと言って言葉を手加減して差し上げる理由もありません。
大方、陛下は理解していても感情が追いついていないのでしょう。

 丞相はニコニコと微笑んで成り行きを見守っておられますが、恐らく長年陛下に言ってやりたかった事を私が代弁しているからでしょうね。
もっと早くご自分で伝えて欲しかったですが、長らくの付き合いがあるからこそ生まれる遠慮や駆け引きもあるのかもしれません。

 ま、私は完全なる巻きこみ事故ですが。

「なのにこのような重鎮達の私利私欲を満たす為の勢力争いの駒でしかない、それも後宮の貴妃などというくだらない地位に身を落とし、利己的な陛下と丞相の駒として更にとっても面倒で、何よりも命の危険に曝される役を不承不承でも引き受けて差し上げているのは、この国への義理と辺境だろうと貴族という身分を持ち領民を抱えている為です」

 もちろん2代目のパトロン陛下への義理は黙っておきます。

「利己的……」
「皇帝という地位につき、子孫を残す事が困難な体質であると自覚されておりながら1人の女子に固執して今なお子を成せずにいらっしゃいます。
そのせいで更に惚れた女子の心を傷つけ、その高貴な立場も含めてあの方を壊し続けているというのになおも己の身勝手を貫き続けていらっしゃる事を利己的と言わずして何と言えと?」
「うぐっ。
しかし私とて皇帝など望んでなったわけでは……」
「ならば1人自害でもなさればこの話は仕舞いです」

 ピシャリと言い捨てます。

 みっともなく足掻くのは後宮に住まう多くの女子達の人生を巻きこんだ時点でやめにすべきであったでしょうに。

「そうすれば皇貴妃も晴れて自由の身となり醜い女の嫉妬や欲望からも、権力争いの舞台からも大手を振って降りられましょう。
それをせずして不満を抱き、駄々をこねているのは一体どなたです?
14の小娘ですら現状を鑑みて動いておりますのに、貴方はおいくつの殿方なのですか」

 容赦のない私の言葉に陛下は何も言い返す事ができなくなったようですね。
何度か口を開いて閉じてを繰り返し、そっぽを向いて……最後はうつむいてしまいました。
どうやら落ちこんでしまったようです。

 え、面倒臭いのですけれど。

 丞相を見れば、肩をすくめて……終わりですか?!

 あら、目を離した隙に私の寝台という名の長椅子に腰かけて……燃え尽きたように陰を背負ってしまいましたよ?

 え、面倒臭いのですけれど。
面倒過ぎて2度も同じツッコミを胸中でしてしまいました。
私の芸もまだまだですね。

玉翠ユースイ……ユーが今日、離縁を考え続けてきたと申したのだ」

 と思ったら、突然の離婚話ですか。
人生相談ですか。
一応私、14の小娘ですよ。
良いのですか。

 チラリと竹馬の幼馴染を見れば、再び肩をすくめて終わりです。

 良いのですか、そうですか。

「理由はお前の申した通りだ。
妻を尊重する姿勢を貫く事でユーを守っていたつもりであった。
だが私の姿勢はいつからかユーを傷つけ、貶めてしまっていたらしい」

 どうやら妻はやっと本心を明かせたようですね。
良かったですね。
正直私の入宮前にご夫婦で話し合っておいて欲しかったですが。
そうすればもしかしたら私の入宮は無かったかもしれません。

「だが私はユー以外を妻とは思えぬ。
抱きたくもない」

 無かった可能性は無かった線が濃厚でしたね。
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